凡才少女は勇者の夢を見るか(三)
今日もやっぱり『
でも魔術師勇者の『
「あの! 年齢はおいくつなんですか? 勇者になったのは何歳でしたか? どこで剣術と用兵を学んだんですか? リットリア副司令とはどこで知り合ったんですか?」
「あーうるせえ! 質問は一つにしろ!」
「一つならいいんですね!?」
配膳のお仕事の合間に話しかけてみたのだけれど、大きな声でいっぺんに聞きすぎて怒られてしまった。それでも懲りない私は、ちっ、という舌打ちの音を了承と受け取った。
「ええとじゃあ……勇者になるにはどうしたら良いですか?」
「……お前、勇者になりたいのか?」
「はい! そうです!」
「やめとけ、勇者なんてろくなもんじゃねえ」
「そんな事ありません!」
思わずまた大きな声を出して
「そんな事ありません。私は身代わりになってくれた勇者様のおかげで、いま生きているんですから」
声が大きくならないように気を付けて、子供の頃の話をした。住んでいた村が
「なんだ、本気で勇者になりたいのかと思ったら、お前が欲しいのは同情か?」
「ふざけないでください! 両親も村もいっぺんに失った私がどんな思いで生きてきたか知らないくせに!」
「よくある話だ、俺の知ったことじゃねえ」
「……っ!」
思わず机を叩いてしまったけれど、そこで思いとどまった。この人はふざけているわけでも
……眠れない。
雑用係の大部屋をこっそりと抜け出して兵舎の屋上へ。頭の上には黒絹に
「よくある話だ、俺の知ったことじゃねえ」
そうなのだ。この世界では日々、人々が妖魔に襲われ、魔獣に喰われ、にもかかわらず
「なんだ、本気で勇者になりたいのかと思ったら、お前が欲しいのは同情か?」
もしかしたら私は自分が不幸だとか、同情されるべきだとか思っていたのかもしれない。人々を守る勇者になると心に決めていたはずなのに、そうなるべく必死に努力するわけでもなく、女だから、まだ十五歳だから、いつかなれればいい、などと甘ったれた日々を過ごしていたのかもしれない。人々を守りたいと言いながら、実は守られる立場でいたかったのかもしれない。
頭上の黒絹を一筋の光が切り裂く。それは長く尾を引き、
「よし!」
『きっといつか』とか『できれば』なんて言ってたら、いつまで経っても始まらない。欲しいものがあるならこの手で、自分で掴み取るんだ。この機会を逃せば一生後悔するに違いない、私は流れ星を追いかけるように階段を駆け下りた。
「昨日はすみませんでした!」
「おい、何だそりゃ……」
翌朝、道の真ん中で頭を下げたのは私。旅支度の
「私を連れて行ってください! 勇者になれなくても構いません、どうかお願いします!」
「おいおい、わざわざ俺を選ぶ奴がいるかよ。もっとましな奴がたくさんいるだろ」
「そうです、あなたは私の理想の勇者様じゃありません。でも、だからこそ理想と現実の違いが見えると思います!」
「……あれだけ言われて、まだ勇者になりたいかねえ」
「いいか、勇者なんてろくなもんじゃねえ。後悔しても知らねえぞ」
「はい!」
私はとても良い返事をして、理想の勇者様ではない背中を追いかけた。
後悔するかもしれない、理想と現実は違うのかもしれない。でも私は歩き始めることを選ぼうと思う。
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