凡才少女は勇者の夢を見るか(二)
それから数日。理由を告げぬまま勇者『
この砦は今、全ての能力において私達
魔獣や魔蟲や野良の妖魔などとは違い、彼らはある程度組織化された妖魔で、『
最下級の妖魔である『
「
「うるせえな、俺の勝手だろ」
私を助けてくれた勇者様はといえば昼過ぎまで砦で寝て過ごし、かと思うとふらりと姿を消し、夕方になると食堂に現れ、勝手に食糧庫を漁っては朝方まで飲んだくれるという、まさに『飲んだくれ』以外の何物でもない生活をしている。
私達のような砦の兵士とは違い、有力者から支援を受けているだけの『勇者』は独自の行動をとって構わない。それは理解しているのだけれど、いくら何でもこれは酷すぎるのではないだろうか。
おまけにこうして話しかけても相手にされず、外に出ると不規則な動きで行き先が読めず、下手をすると見失ってしまう。そしてこの日は……
砦の中央、司令部施設の門番さんに何かを手渡した様子。しばらくして現れた妙齢の女性、その顔を見た私は腰を抜かしてしまった。
「リットリア副司令!」
軍人と民間人を合わせて一千人余りが起居するこのロッドベリー砦の副司令官、というだけではない。私腹を肥やすだけで役に立たない司令官に代わってほぼ全ての責務を果たす才女であり、年齢不詳の美女であり、いずれはこのイスマール侯国において
「そろそろ始めるぞ、
「逃げ足の速ぇ奴だけ、十人もいりゃあ十分だ」
「
「知らねえ、勝手について来ただけだ。おいガキ、お前はどうするよ?」
「ど、どうって……?」
事情も知らず
夜陰に乗じて敵陣に迫り、粗末な天幕に油をかけて
「ひええええ……あ、あれは!?」
「
「よし! 逃げるぞ野郎ども!」
小隊長の命令一下、私達は全力で逃げ出した。怒りの咆哮を上げて追ってくるのは
「あっ……!」
最前線に立った緊張もあっただろう、敵陣を駆け回った疲労もあったかもしれない、自慢の足も精鋭部隊に比べればまだ少女のそれだ。地面のくぼみに足をとられて派手に転んでしまい、怒声を上げる
「立て! 死にたくなけりゃ死ぬ気で走れ!」
「
またこの人に助けられてしまった、足手まといの私を助けるためにわざわざ戻って来てくれたのか。
もしかして昨日も私の様子を見ていてくれたのだろうか、「役立たずの飲んだくれ」という噂は事実と異なるのかもしれない……
「
その時、喊声とともに地鳴りが起こった。そうとしか思えない音はロッドベリー砦の切り札、六十騎の騎兵部隊が轟かせる二百四十の
彼らは逃げ惑う雑兵に構わず
これがリットリア副司令と
「
「よし、掃討戦に移る! 一匹も逃がすな!」
主力軍を自ら率いたリットリア副司令が命じると、我らが小隊長は戦場に背を向けた。
「終わったな。さ、帰るべ帰るべ」
淡々と帰途につく勇者『
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「あん?」
「……あなたは何者なんですか?」
「知ってんだろ、『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます