第4話 探索
キャロルさんと別れた後、私はカフェを出て、アイテムが買える場所を探しながら町を歩いていた。石畳の道を進むと、ふと目に入ったのは「雑貨屋:アンフェンガー」と書かれた看板だった。雑貨屋と書かれているが、ここでアイテムを手に入れることができるのだろうか。
カランコロン___
店のドアベルが軽やかな音を立て、私は店内に足を踏み入れた。店内は比較的小さなスペースで、さまざまな商品が所狭しと並んでいる。奥には一人のおばあさんが座っていた。
「すみません、回復薬とかはここで売っていますか?」と私は尋ねた。
おばあさんは一瞬驚いたように私を見上げ、少し間を置いてから答えた。「…売っているよ」と短く返し、再び黙ってしまった。
「二つ買いたいのですが、いくらになりますか?」と私は続けて尋ねた。
おばあさんは一瞬考えるようにしてから、「…600Cクロニクル・Cコインだよ」と答え、奥から緑色の液体が入ったガラス瓶を二つ取り出してきた。
アイテムを受け取ると、目の前に「-600CC」と表示が出現した。おそらく、アイテムを受け取ると同時に自動的に支払いが行われる仕組みなのだろう。しかし、なぜかおばあさんの様子が変わっているように感じた。どこか緊張しているようで、不自然に話を控えめにしているように思えた。
回復薬(低級)
レア度:E
プレイヤーのHPを20%回復することができます。
キャロルさんから教えてもらったインベントリに回復薬をしまい、「おばあさん、ありがとうございました」と挨拶して、店を出た。
私は町を歩きながら、トピックというものがあると聞いたことを思い出した。本のようなマークをタッチして、トピックを開いてみる。
Ethereal Chronicle: 種族紹介 - 妖怪
基本情報
種族名: 妖怪
転生条件:
AIの質問に基づく初期適正。プレイヤーの答えや選択によって、妖怪としての適性が判定される。
業(カルマ)をマイナス状態にして、特定の職業の条件を満たすこと。
特徴
ステータス配分: 一般的な種族とは異なり、特殊なステータス配分を持つ。これにより、独自の戦略やプレイスタイルが可能となる。
特殊スキル: トリッキーなスキルや独自の能力を覚えることができる。これらのスキルは、戦闘や冒険において独自の戦い方ができる。
社会的立場: 業がマイナスのため、多くのNPCから畏怖の対象となる。一部の土地のNPCを除いて、多くの場所での取引や会話が難しくなる。
なるほど。業というものがマイナスの状態にあるから、あんな反応だったのだろう。業をどのように上げるかは分からないが、ずっとあんな反応されるのも嫌だし、上げたい。しかし、業がプラスになると、妖怪ではなくなるのだろうか?今後の課題だ。
「そういえば、生産職を取れるってキャロルさんが言っていましたね」
攻撃スキルとは別のスキル画面を開いてみる。鍛冶、料理、裁縫、装飾、錬金術、釣り、付与術。思ったよりたくさんある。現実でも料理は私の趣味だし、私は料理にすることに決めた。料理のアイコンをタッチする。
「料理するにしても道具がないと何もできませんし、まずはお金を稼ぐ必要がありますね。400CCしかありませんし」
このゲームにはクエストなどがあるのだろうか?お金を稼ぐ方法について聞いておけばよかった。普通のゲームならギルドでクエストを受けてお金を得ることができるのだが…。
そう考えて探してみたが、ギルドらしきものは見当たらない。では、外に出てモンスターを倒すことでお金を得るのだろうか?そんな疑問を抱えつつ、プレイヤーらしき人たちが集まっている建物が目に入った。
酒場:トランク・パーティー
酒場もクエストを受ける場所の一つというイメージがある。そこで意を決して、酒場の中に足を踏み入れた。
店内に入ると、一瞬こちらに視線が集まった。思わず固まってしまったが、深呼吸をしてからカウンターに向かって歩き出した。
「すみません、ここではどんなことができますか?」とカウンターの向こうにいる、白髪の混ざったおじさんに尋ねた。
おじさんは皿を拭きながら答えた。「よお、嬢ちゃん。ここら辺じゃ見ない珍しい種族だな。未成年には酒は出せねえから、飯かこっちの出す依頼を受けてもらうくらいになる」
「それです!そういうのを探していたんです」
苦笑しながら話すおじさんを見て、ついついおじさんがNPCだということを忘れそうになった。その言葉に、自分がゲームの中であることを思い出し、私もまた苦笑いした。そういえば…。
「おじさん、妖怪でも平気なんですか?」
雑貨屋のおばあさんと比べて、酒場のおじさんは全然恐れがないように感じた。
「こんな酒場のマスターをしているんだ。いろんな客を見てきたさ。別にお嬢ちゃんが何かしたわけじゃないんだろう?」
「はい… まだ冒険にも出たことない新米です」
おじさんは笑いながら言った。「ならここらへんの依頼にしときな。3つくらいなら同時にできるだろう」
依頼を受けますか? Yes or No
ブタシシ 3頭の討伐 300CC
レッサーウルフ2頭の討伐 500CC
牛の乳しぼり 300CC
ブタシシがいる…。チュートリアルで戦った相手であるブタシシの依頼がある。あのなんとも言えない見た目を思い出してしまった。
「全部受けます!」
アルフェンシュタット 郊外の森
私はブタシシもレッサーウルフも町の近くにいるという話を聞いて森に出てきたが、どうやらそれらしきモンスターは全く現れない。代わりに鶏サイズの足が驚くほど強靭なヒヨコがたくさん群れをなしている。近くのヒヨコの情報を調べてみることにした。
ストロングチック
HP: 80 (E)
説明:
ストロングチックは、鶏サイズに成長したヒヨコだ。このモンスターは、鶏になる進化の過程を断念した結果、代わりに強靭な脚力を発達させ、その小さな体から想像もつかない強力な蹴りを繰り出し、敵に対して意外なほどのダメージを与える。
名前の癖がかなり強い…。あの足なら納得だが。
ストロングチックは、いきなり襲い掛かってこないようなので、スキルの確認をしておくことにした。チュートリアルで使った狐火は大丈夫だとして、管狐は竹筒に潜むと書いてあった。
「竹筒はインベントリにあるのでしょうか?」と探してみたが、どうも見当たらない。HINAはVRでは意識やイメージがとても大切だと言っていたので、私は竹筒を意識してみた。
「いつの間にか手に握られています…」
本当に音もなく、それは右手にあった。
(管狐に名前を付けてください。)
HINAとは違う声が頭の中に聞こえてきた。
「名前はクダにしましょう」
とても安直なネーミングだが、もし呼び出すときに長いと大変かもしれないと思い、そうした。スキルの発動方法は自由なので、管狐のスキルは竹筒を開けるだけにしておいた。
そして、私は竹筒の蓋を開けた。するといきなり中から前足だけが現れ、後ろ足のない胴の長い狐の幽霊のようなものが現れて、命令もしていないのにストロングチックに巻き付いた。
その瞬間、周りにいたストロングチック3体が一斉にこちらに向かってきた。
「あ、ちょっと待ってください!」
まだ何も考えていなかった私は慌ててクダにそう呼びかけた。
しかし、クダは巻き付いていたストロングチックを解放してしまい、その行動を見て、私は何か大きなミスをしたのではないかと気づいた。
クダ:使役獣 (レベルはプレイヤー依存)
種族:管狐
HP: 80 (E)
MP: 60 (E)
ATK: 0 (F)
DEF: 40 (E)
INT: 40 (E)
MEN: 80 (D)
DEX: 80 (D)
AGL: 80 (D)
スキル
呪縛、神通力、帰還
私は、自分より使えるスキルが多いのではないかと思うこの子と一緒に、合わせて4体のムキムキヒヨコがこちらに来るので、何とかしなければならない。
「クダ、さっきのは呪縛でしたか?それを使って、敵の動きを止めてください!」
そう指示すると、クダは少し驚いた顔で私を見た後、小さく「キュン」と鳴いた。そして、再びさっきまで巻き付いていたヒヨコに向かって動き出す。
もともと、この騒動はクダが勝手に巻き付いたことから始まったのだが…。
私が知っている攻撃スキルはこれ一つだけだ。だから、試しに使ってみるしかない。
集中、集中…
直線に飛ぶ火のイメージを頭に描き、「狐火!」と叫んだ。
「あ、避けられ…」
先頭のヒヨコには攻撃を避けられてしまったが、後ろのヒヨコは気付いていなかったようで、攻撃が命中した。一撃でHPバーがゼロになる。これで一体を倒せたことが確認できた。
と、その時、先頭のヒヨコが目の前まで迫ってきた。
「ビヨー!!」と、全く可愛らしさのない声で、脚を振り上げて飛び蹴りを繰り出してきた。
「これなら避けられます」
おじいさまの突き技と比べれば、このヒヨコの動きは読みやすいと感じた。しかし、避けようとした瞬間、体が予想以上の勢いで動き、バランスを失ってしまった。
「なんでこんなに軽い動きになるんですか、この体!」
倒れる寸前、上空から急速に何かが落ちてくるのを感じた。そして、その次の瞬間、私のお腹を狙って猛烈な蹴りが繰り出された。
ストロングチックの流星蹴り
Critical Hit
-50
「うっ…これは痛い。こんな強烈な蹴りをお腹に受けるなんて…初期モンスターって、こんなに強いものでしょうか?」
思いもしなかった動きに驚いた。50のダメージって、私のHPのほぼ半分だ。
「邪魔なのでどいてください!狐火!」
一仕事終えたかのような満足げなヒヨコが私のお腹の上にいるのを見て、間髪入れずにゼロ距離から「狐火」を放った。手でその炎を持って直接当てたため、自分にもダメージを受けるのではと思ったが、意外と大丈夫だった。
立ち上がると、最初のヒヨコがじっと私を見つめて動かないでいた。一方、クダは無事にヒヨコに巻き付いていて、まだまだ大丈夫な様子だった。
「びぃ」という小さな声を上げながら、ヒヨコが右足を前に出し、何か力を溜めるような動きをしているのが見えた。
「やらせません!き…」
と言おうとした瞬間、ヒヨコがドロップキックで突進してきた。私の現状では動いているターゲットに「狐火」を正確に当てるのは難しいだろう。
「さっきのは力加減を間違えたのですが、これなら!」
私は慎重にヒヨコの攻撃を避けることに成功した。そして、攻撃を外したヒヨコが私の横を過ぎていく隙に、蹴りを繰り出してヒヨコを高く空へと打ち上げた。
「空から落ちてくるのなら、狙いやすいですよね。狐火」とつぶやきながら、私は炎を放った。
空から落ちてくるヒヨコは、地上から放たれた「狐火」によって消滅することになった。
3匹のヒヨコを倒した私は、クダの元へと歩み寄った。
「そういえば、クダ。このヒヨコをどうやって倒せばいいのですか?」
クダは私の方を向いて、何かを伝えようとする様子だった。それを見た私はなんとなく「狐火を使えばいいのですか?」と訊ねると、クダの反応からそれで正解のようだった。そこで私は「狐火」を発動させた。すると、狐火が自ら動き、ヒヨコに向かって飛んで行き、直撃を与え、ヒヨコは消滅していった。
「これが、神通力というスキルなんですね」
初めての戦闘だったが、初期モンスターにこれほど苦戦するとは思わなかった。狐火の威力は頼りになるものの、管狐の能力はどちらかというとサポート向きのようだった。
「戦闘のおかげでレベル3になっているみたいですね」
ステータスを確認すると、確かに後衛職としての特性が強調されていた。しかし、狐火以外に攻撃スキルがないのは少し心配だった。
「攻撃スキルを増やす方法はないのでしょうか…」
そんなことを考えながら、スキルツリーを眺めていると、選択肢として提示された分岐型のスキルが目に入った。
化け
効果: 一定時間、他のプレイヤー、ゲーム内のモンスターやNPC、物体に変身可能。変身対象は、これまで遭遇したものから選択。変身中はその対象の持つスキルの1つを使用可能。
持続時間: 5分間
クールタイム: 30分
効果: お天気雨を降らせ、味方陣営全員の一部を除いた状態異常を回復。同時に最大HPの10%を回復する。
「化け化粧」は強力なスキルのようだが、やはり後衛職としての役割を忘れずにいたいと思う。それに、何となく「化ける」のは気が進まない。支援に期待ができる「狐雨」を選ぶことにした。
思いにふけっていたら、ゲーム内の時間がすでに深夜の2時を指していることに気づいた。
「もうこんな時間ですか!?」
明日は休みだが、おじいさまとの朝稽古がある。ちょっと触れてみるつもりが、つい夢中になって時間を忘れてしまったようだ。
「気をつけないと、時間がわからなくなってしまいますね…」
そう思いながら、私はゲーム内の町へ急いで戻り、ログアウトした。
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