第39話 広島平和記念資料館
「……あ! 原爆ドームが見えてきましたよ!」
停留場を出発して数分。資料館のすぐそばに建つ原爆ドームが見えてきた。
このドームの写真は様々な本に載っているし、歴史の教科書にも掲載されている。
そのため、広島に来たことのない人でも原爆ドームの写真なら一度は見たことがあるだろう。
「あれが世界遺産にも登録されている原爆ドームか……」
芹奈が神妙な顔つきで真正面に見えるドームに視線を向ける。
「教科書で何度も見たことあるけど……実際に現地に来ると緊張しちゃうわね……」
当時の状態がほぼそのままの形で保存されている建物を前に緊張が走った。
原爆ドームは核兵器の悲惨さを伝える建物と言っても過言ではないので、緊張してしまうのも無理はないだろう。
誰でも気軽に訪れることができる場所なのに、あのドームの周辺だけ厳かな空気が漂っているような気がした。
「……着きましたね」
目の前に目的地が見えていたので、特に迷うことなく到着する。
風音はポケットからスマホを取り出すと、さっそく原爆ドームの写真を撮り始めた。
様々な角度から写真を撮り続ける風音。
真穂乃と芹奈は、その姿を黙って見守ることにした。
「よし……写真はこんなものかな。お待たせしました。次は資料館に行きましょう」
やがて写真を撮り終えた風音がスマホをポケットにしまいながら、原爆資料館に行こうと提案する。
「そうね。行きましょうか」
「ウチ、ちょっと怖くなってきたかも……」
真穂乃はその提案に賛成だったが、芹奈は少し尻込みをしてしまったようだ。
だが、それは無理もないことだ。これまで色々な写真や映像で当時の様子を見て勉強した弊害で、原爆に対する恐怖心を植えつけられてしまった人もいるだろう。資料館を見学するのが急に怖くなってしまったとしてもおかしくはない。
そんな友人を、真穂乃が気遣う。
「どうする? たぶんショッキングな写真とかもあるだろうし……芹奈は外で待っててもいいわよ?」
無理に資料館を見学させてトラウマになったら大変だと考えての提案だ。
だが、芹奈はゆっくりと首を振った。
「いや、ここまで来たんだし、ウチも見学するよ。風音の言う通り、原爆の歴史は日本人として知っておいた方がいいだろうからね」
「そっか……じゃあ行こっか」
「うん!」
どうやら芹奈も覚悟はできているようだ。
三人は原爆資料館へと移動を開始した。
移動といっても、原爆ドームから資料館は目と鼻の先なので大して時間はかからない。
目的地である資料館にはすぐに到着した。
「……じゃあ入るわよ」
多少の恐怖と緊張を感じつつも入館する三人。
入口で入館料を払うと、いよいよ見学が始まるのだった。
◇◇◇
見学を終え、三人は再び外に出る。
現在の時刻は午後一時前。館内をじっくり見て回ったので、思ったより時間がかかってしまった。
「いや〜すごかったわね……」
「確かに……直視できない写真も多くて、ウチちょっと泣きそうになった……」
「わたしもちょっと怖かったです……でも勉強になったので、来てよかったと思います」
「そうね……来てよかったわ」
核兵器の悲惨さを伝える資料館だけあって、館内はなかなかにショッキングだった。今もだいぶ精神的にまいってしまっている。
だが、それ以上に学んだことは多いだろう。
核兵器の凄惨さを風化させずに後世に伝えていくことが大事だなと思う三人だった。
「確かこの近くに爆心地を伝えるモニュメントがあったと思うので、帰る前に寄っていってもいいですか?」
「ええ、もちろん。芹奈もいいわよね?」
「うん。ウチも爆心地には行っておきたいし、賛成かな」
三人の意見が一致したので、原爆が投下されたと言われている地点へ向かう。
そこまで目立つモニュメントではなかったが、すぐに見つけることができた。
「ここが爆心地……ここに原爆が投下されたのね……」
昭和二十年八月六日午前八時十五分。
この場所に原子爆弾が投下された。
そして、数えきれないほどの人が犠牲となった。
それを思うと、胸が張り裂けそうなほど痛ましい気持ちになる。
その凄惨さは、戦争を経験していない三人にも容易に想像できた。
「……追悼の意味を込めて手を合わせましょうか」
「はい、そうですね」
「うん、賛成」
モニュメントの前に立ち、目を瞑って手を合わせる三人。
「「「どうか安らかに眠ってください」」」
心の底から真剣に犠牲者たちに祈りを捧げるのだった。
「……それじゃあ、駅に戻るわよ」
追悼が済むと、真穂乃は駅に戻ろうと提案した。
本日の予定をすべて消化して、後は帰るだけになったからだ。
他の二人もそれに賛成する。
「……うん」
「……はい」
そうして三人は、路面電車の停留場に向けて歩き出した。
来た道を引き返す形で停留場に向かい、そこで電車がやって来るのを待つ。
待つこと数分で路面電車はやって来た。
三人は路面電車に乗車すると、再び十五分ほどかけて広島駅に戻るのだった。
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