第15話 七夕②

「よろしくおねがいしまーす」


園児たちの元気な声が教室に響いた。

午後の授業が始まり、近所の幼稚園の子どもたちが高校に到着したのだ。

普段勉強したり友達と過ごしたりする空間に、生まれて五年ほどの子どもがいるのは何だか違和感がある。


一生のうちで今しかできない体験に改めて意気込みを見せる高校生のお兄さんお姉さんたち。


ついに福祉学習が始まるのだった。



海愛たちのグループは二人の園児の世話をすることになった。

二人とも女の子で、年長組だ。

一人はショートカットの活発そうな子で、もう一人は艶のある長髪が特徴的でおとなしそうな子だった。

二人の園児は、年上の人と一緒に遊べるのが楽しみなのか、満面の笑みで海愛たちを見つめている。

今回の交流会を楽しみにしていてくれたなら、素直に嬉しい。

今日は最高の思い出を作ってあげたいなと心から思うのだった。


「……じゃあ、まずは自己紹介しようか。あたしは、よしみやさやかだよ」


彩香が園児たちと目を合わせて、五歳児でも聞き取れるようにゆっくりと名前を名乗る。

その流れで高校生組の自己紹介タイムとなった。


「あさのみあだよ。今日はよろしくね」


さすがの海愛も、幼稚園児相手に人見知りはしない。

相手を怖がらせないように笑顔を意識しつつ、できる限り優しい声で自分の名前を伝えた。


「じゃあ最後は窪内さん。自己紹介して」


「……くぼうちゆき……よろしく」


彩香に促されるままに友喜も名を名乗る。

これで高校生組の自己紹介は終わった。

次は幼稚園児組の番だ。

彩香が再び園児たちと目を合わせる。


「次はキミたちの番だね。お名前言えるかな?」


すると、ショートカットの子が元気よく口を開いた。


「はい! ちさです! よろしくおねがいします!」


「ちさちゃんっていうのか~。元気いっぱいのいい子だね」


“ちさ”と名乗った女の子に微笑みかける彩香。

続いて、もう一人の女の子に視線を向けた。


「えっと……かおりです。きょうはおねえちゃんたちとあそべるのをたのしみにしてました」


もう一人の子は、“かおり”という名前らしい。

三人の高校生を前にしてかなり緊張している様子だ。


「かおりちゃん! あたしたちも楽しみにしてたよ。今日はたくさん遊ぼうね」


こうして自己紹介タイムは終了となった。


「彩香、さっそく始めようよ」


海愛がハサミと折り紙を手にとって、飾り作り開始を促す。


「そうだね。でも、ここじゃ騒がしくて集中できないから空き教室に移動しよっか」


教室内では他のグループもすでに子どもたちとの交流を始めている。

そのため、教室は非常に賑やかだ。

細かい作業をするなら移動した方がよいだろう。


「うん、そうしよう。……ちさちゃん、移動するからついてきてね」


道具をポーチの中にしまい、ちさの手をとった。


「かおりちゃんも、お姉ちゃんたちから離れないでね」


そして、彩香がかおりと手をつなぐ。

そのまま二人は、ちさとかおりを連れて教室を出た。


友喜が渋々といった表情でその後を追いかける。未だこの授業に乗り気になれないのだ。


「ちっ……こんなくだらない授業、さっさと終わらないかな……」


幸いと言うべきか、その舌打ちは誰の耳にも届かなかった。





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