第16話 落胆 Cの場合
式典は城内で行われるが、それでも今日は晴天。正に式典日和である。
「先輩、国家功労騎士の受賞、おめでとうございます。そんな嫁の貰い手が増々いなくなりそうな称号を受賞されるなんてすごいです。さすがはチェルシー先輩! 一生付いて行きます!」
「どうもありがとう」
ハインブルク侯爵の野望を阻止し、王族の命を救い、内乱が起きる事も防いだロイヤルナイトの隊員達。今日の式典では、そんな彼らの功績が称えられる事になっている。
その中でもいち早くその情報を入手し、ハインブルク侯爵を阻止する事に特に貢献したチェルシーには、国王陛下から騎士として名誉ある称号が送られる事になっているのだが……。
しかし、その受賞者であるチェルシーの表情はとても暗い。
それもそのハズ。だってチェルシーは先日、ジークエイトに「お前になんか守られたくない」、「城に帰れ」、「仕事辞めろ」などと言われたのだから。
ジークエイトに想いを寄せるチェルシーが、気落ちするのも無理はないだろう。
「ところで先輩、ジークエイト様が先輩を好きって本当ですか?」
「そんなわけがないでしょう」
そうだ、そんなわけがない。
何でそんな噂が立っているのかは知らないが、好きな女子に向かってあんな暴言を吐く男、いるわけがない。
「でも先輩が崖から落ちた時、ジークエイト様が血相を変えて走って行ったって……」
「見間違いよ」
そうだ、見間違いだ、何かの間違いだ。
だって好きな女子と同じ馬に乗る事を、あんなに嫌がる男、存在するわけがないのだから。
「うーん、そっかあ……。まあ、そうですよね。ジークエイト様の趣味がここまで悪いわけないですもんね。うん、納得しました!」
そうだ、その通りだ。こればっかりは否定のしようがない。
しかし、何故こんな噂が流れたのか。
そもそも自分はジークエイト王子に嫌われているに。
それなのにこんな噂を流されて、さぞやジークエイト王子はブチギレておられる事だろう。
(いや、それよりもジークエイト様に騎士として信頼されていないのが問題だわ)
はあ、とチェルシーは小さく溜め息を吐く。
これでもロイヤルナイトの紅一点として、それなりに活躍し、アーサーにも認められるようになったのに。
それなのにジークエイトは、チェルシーを騎士として全く信用していなかった。
だって例え嫌われていようとも、騎士として認めてくれているのなら、ヤマトへの伝令任務をあそこまで反対するわけがないのだから。
今日、こうして名誉ある称号を頂くわけだが、これで少しは自分の事を認めてくれるだろうか。
(いや、でも私の事がめちゃくちゃ嫌いだった場合、どんなに功績を上げても認めてもらえないんじゃないかしら)
そう思ったチェルシーは、隣でニコニコと笑っているフローラへと視線を向けた。
「ねぇ、フローラ。もしもあなたが王女だったとして、騎士としてはめちゃくちゃ有能なんだけど、めちゃくちゃ嫌いな男がいたらどうする?」
「それって、イケてないけど、強い男がいたら、騎士としてどう思うかって事ですか?」
「そういう事」
「私とは関わらない部隊で働いてもらいたいです」
「騎士も辞めた方が良いかしら?」
「辞める必要はないんじゃないですか? 騎士としては使えるんですから」
「でもその実力も認めてもらえないほど、王女に嫌われているのよ」
「ああー、じゃあ辞めるしかないですね。そんなに嫌われているのなら、きっとこれ以上努力しても無駄でしょうから」
「そうよねー」
あはははは、と笑うフローラに、チェルシーは「やっぱりそれしかないか」と深い溜め息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます