第15話 落胆 Zの場合
反乱を起こし、王族を殺害しようとしていたハインブルク達過激派のその後であるが、彼らにお咎めはなかった。
一度拘束はされたものの、厳重注意だけで事は済み、彼らは事件から三日後には解放されたのだ。
何故、彼らに罰を与えなかったのか。
何故なら彼らの企みは実行される事はなく、結果的に誰も死ななかったからだ。
それなのに罰を与えては、温厚派に恨みを抱く者も現われ、内政が滞る他、下手をすれば国全体を巻き込んだ内戦に発展しかねないと、クリスフレッドがそう考え、そして実行したからである。
「しかし、お前はこれで良かったのか? お前が彼らを許したせいで、お前を支持する者はまた減った。国を統治する者としては甘すぎる、情けない、犯罪者を野放しにして、国民に何かあったらどう責任取るんだ、という意見を持つ者の方が多いからな」
「でも内乱は起きなかった。それだけじゃない。無理矢理ハインブルクの計画に参加させられていた過激派の者達は、オレの甘い処罰に感謝して、これからも我ら温厚派と協力し、共に国を良くして行こうと、協力して行く事を誓ってくれた。確かにハインブルク達主犯格がこれからどうするかは知らない。でも、オレは過激派の若手を沢山味方に付けたんだ。これはこれからの政治にとっても大きな収穫だし、何よりオレの仕事は、国民の人気を得る事じゃない。この国をより良くするように動く事だ。だからこれで良かったんだよ、オレはね」
「……」
「それに、オレとしては好都合だよ。国民に嫌われていた方が、ジークに王座を譲りやすい」
「どこまでも愛に生きる男だな、お前は」
「チェルシーはああ見えてもヘンダーソン伯爵の娘。その上、騎士としての実績も積んでいる。王妃となるのに申し分ないだろ?」
「……」
呆れたように溜め息を吐く父親に歯を見せて笑ってから、クリスフレッドはその場を後にする。
向かうは弟である、ジークエイトの部屋。
さて、今日はどのくらい落ち込んでいるだろうか。
「おお、我が愛しの弟、ジークエイト。そんなに塞ぎ込んでどうした? お兄ちゃんに相談してごらん?」
「煩い、キモイ、ノックくらいしろ」
「あはは、いつまで落ち込んでいるんだよ。いい加減に元気出せって」
相変わらず部屋の隅で蹲っているジークエイトに、クリスフレッドは笑い声を上げる。
明日は表彰式だと言うのに。主役がこれでは締まらないではないか。
「元気なんか出せるかよ。オレ、どさくさに紛れてチェルシーの手を握ったんだぞ。絶対に嫌われた」
「で、胸は触ったのか?」
「触るか、バカ! 手だっつってんだろ! このバカ兄貴ッ!」
「でもまあ、確かにそこまでやったんだったら、その後は「王子命令だ!」じゃなくて、「好きだ! 行くな!」って言った方が良かったかもな」
「そ、そんな卑猥な台詞言えるか!」
「腕掴んで暴言吐くよりは良いと思うぞ」
あと、「好きだ! 行くな!」は卑猥じゃない。
「失礼な! 暴言なんか吐いていない! ……まあ、ちょっと興奮して、遠回しに「好きだ」くらいは言ったような気がするけど……」
「お前にとって、好きと仕事辞めろは同義語なのか?」
でもたぶんそれ、伝わってない。
「でも良いじゃん。何か知らないけど、お前とチェルシーが付き合っているって噂が流れているみたいだし。せっかくだから、本当に付き合っちゃえば?」
「好きでもない男とそんな噂が広まっているんだ。チェルシーだって不快だろう」
これで怒って騎士辞めちゃったらどうしよう。もう会う事すら出来なくなっちゃうじゃん、と更に落ち込み始めたジークエイトに、クリスフレッドは小さな溜め息を吐く。
まだ告白すらしていないのに落ち込むなんて、気が早くないか?
「とにかく、明日は重要な式典があるんだ。それに備えて早く寝ろよ」
そう告げると、クリスフレッドはジークエイトの返事も待たずにその場を後にする。
ずっと塞ぎ込んだままのジークエイト。
だから彼は気付かなかったのだ。
部屋を後にする際、クリスフレッドがニタリとほくそ笑んだ事に。
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