第2部

第9話 不吉な雨

 最近は天気が悪い。

今日もまた朝から降り続く雨は、昼になっても止む事はなく、ザーザーと降り続いている。

 食堂の中にまで聞こえて来る雨の音に、彼女は小さく溜め息を吐いた。


 ロイヤルナイトに所属する彼女、チェルシー・ヘンダーソンは、自他ともに認める剣の使い手だ。その実力を認められ、部隊長であるアーサーにも割と気に入られている。


 しかしそれにも関わらず、彼女は数日後に出発するリーデル国の第一王子、クリスフレッド王子の新婚旅行を護衛する、選抜騎士隊から外されてしまったのである。


 暗い雲から降り注ぐ雨が、まるで自分の心のようだと思いながら、チェルシーはランチを口に運んでいた。


「女子力が足りなかったんじゃないですかあ? チェルシー先輩、女子なのに色気ないんですもん」


 向かい側で同じようにランチを食べながら、後輩騎士であるフローラは、きゃたきゃたと笑いながら自分の見解を述べる。


 先輩を先輩と思わぬその発言に言いたい事は多々あるが、今は「そうですね」さえも言う気にはなれない。

 だって自分の実力はロイヤルナイトの中でも上の方なのだ。だから絶対に選ばれると思っていたのに。

 それなのに外されてしまうなんて、思っていたよりもショックが大きい。


「先輩、落ち込みすぎじゃないです? え、クリスフレッド様の新婚旅行ってそんなに行きたいですか? だって他人のイチャイチャを見せられるだけの旅行ですよ? 何か楽しいですか?」

「だってお二人の新婚旅行の護衛が出来るなんて、とても名誉な事じゃない。騎士として同行したいと思うのは、当然の事だわ」

「はあ、名誉ですか……。まあ、ジョージ先輩やエイジ先輩達が、「あの脳筋、選抜隊に選ばれなかったってさ!」「ははは、ざ・ま・あ(ハート)」「女はお呼びじゃねぇんだよ!」って笑っていましたし。私は興味ないですけど、行きたい人は行きたいモンなんですねぇ」

「……」


 知っている。自分の事を妬んでいる男性騎士の一部がそう言って笑っていたのは、チェルシーだって知っている。


 でも、それをわざわざ一字一句間違わずに報告する必要はないだろ。少しは先輩に気を遣え。


「まあ、でも、「女はお呼びじゃねぇんだよ」ってのは、私でも何となく分かりますけどね」

「……」


 珍しく意見が合うな、とチェルシーは思う。

 だってチェルシーも、この旅行に女性は必要ないと、薄々思っていたからである。


(アーサー隊長もそう言って慰めてくれたわ。今回は私が女だから外されたんじゃないかって)


 もしそうだとしたら、これはウダウダと悩んでいても仕方のない話だ。

 だってこればっかりは、努力ではどうする事も出来ないのだから。


「でも私としては、先輩が外されてくれて良かったですよ。だって先輩と一週間も離れ離れなんて寂しいですし。これからもずっと一緒にいましょうね、先輩」

「……」


 ピカッと光った暗い空。

 どこかに雷が落ちたようだ。

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