第4話 少し前のお話1 Side.Z

 何やら仲間割れしているロイヤルナイトの新しい隊員達を連れて、アーサーが立ち去って行く。

 どうやら王子達の剣の稽古の見学は終わったらしい。思ったよりも早かったな。


「女の子を連れて来てくれれば、もっとやる気が出たのにな」

「いたみたいだぞ、女の子」

「えっ?」


 マジで? 全く分からなかった。


「いや、オレもどの子なのかは分からなかったけど。でもアーサーが、「ロイヤルナイトに初の女性隊員が入った。腕は良いんだが、女子って扱いが面倒だから怠い」って愚痴っていたのを聞いたから、たぶんあの中にいたハズだぜ」


 そうか。アーサーがそう愚痴っていたのなら、本当にあの中に女子がいたんだな。

 でも、女子って言われなければ女子って気付かれない女子って、女子としてどうなんだ?


「どんな子だったんだろう。可愛い子だったんだろうか」


 確かにいたらしい女子を想像しながら、オレは首を傾げる。

 すると兄貴が、「ははっ」と乾いた笑いを零した。


「はっ、甘いな、弟よ。屈強な男性騎士を下し、ロイヤルナイト入りを果たすくらいだ。可愛い子なわけがない。きっとアーサーによく似た、女版ゴリラだよ」

「そうか、アーサーの女版か……」


 でも、それはそれで見てみたい気もする。


「それよりもジーク、もう一戦やろうぜ。休んでいる上に、アーサーの事をゴリラだ何だの言っているのが知られたら、鬼の百キロマラソンに連れて行かれるぞ」

「うわっ、それは嫌だ。アーサーのヤツ、王子であるオレらにも容赦ないからな」


 王子だからって遠慮せず、厳しく指導してやってくれ、と言う父の言葉を鵜呑みにしている鬼アーサーの姿を思い出し、オレは再び剣を構える。


 女版アーサーと称した、ロイヤルナイトの紅一点。


 そんな彼女に心を奪われる日が来るなんて、この時のオレは、想像にもしていなかったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る