第12話 魔王、グレイの視点2
「かはっ」
「――っ、アリーナ!?」
「きゃははは! これでお師匠は私のモノ! これからもずっと、ずっと殺し合いをしよう! お師匠なら私の殺意も敵意も全部受け入れてくれる!!」
スレイの影は槍のような形状になって、アリーナの胸を貫通していた。
最初、何が起こっているのか分からず、固まってしまった。
魔力供給と言っていたのは、隷属魔法を使用するための布石で、ずっと一緒にいたいと言うのは、サンドバッグがほしいと言う意味だと──遅まきなら気づいた。
「なっ、隷属魔法を使うなんて聞いてないぞ!?」
「お、お師匠様!? お師匠様ぁああああ!」
悲鳴を上げたのは、エリオットだった。
アリーナはそんな声にハッとしたのか、すぐに片手をエリオットに向けて、幾つもの魔法円を展開して、真っ白な鳥籠と鎖で雁字搦めに拘束する。
「エリオット、お前は……愛を見つけなさい。そうすれば、そこから出られる」
「お師匠様っ!!」
そう言うとエリオットをこの城の最上階、歌劇場を改装して作った図書館内に移動させた。
隔離、と言ったほうが正しいだろうか。
心臓を貫かれてなお、アリーナは倒れなかった。
人間なら死んでいるのに。
スレイは倒れないアリーナに第二の槍出貫こうとした──が、それは彼女の肌に触れる前にピタリと止まった。
「アリーナ!」
「はぁーーー。人間の王族やら皇帝なんかは自分の力を誇示するためにさ、隷属印で魔術師や魔導士を虐げていた時代があったわけよ。……で、お前たちには話してないけれど、私はそう言った時代を生きてきたから隷属魔法に関しては、お前たちより詳しい。いや老獪なだけだけれど」
淡々と淀みなく声にするアリーナは、驚くほど仄暗い目をしていた。
隷属魔法は防げたが貫かれた心臓から血が流れて落ちて、俺の体に染み込んでいく。
この量はまずい。
「アリ──」
「《厄災の獣》の大元の要素はスレイ、いや
「お師匠との戦いはとっても楽しい。拮抗する相手との戦いは、胸が高鳴る。だから、ずっとずっとずっと戦いの中で、一緒に踊っていたいのに、どうして隷属印を拒絶して、不老不死になることを選ばなかったの? 私はこんなにもお師匠が好きなのに!」
エリオットは「好き」、「愛する」と言った意味や、概念そのものがわからない。
スレイは「好き」、「愛していると」言うのは、対等で殺し合いできる相手だと認識した。
俺は──愛している人と一緒になりたくて、距離の詰め方や、愛を得たのに素直になれなかった。
だから、こんな酷い顛末になった。
「お師匠。もっと、もっと、熱くて胸が躍る殺し合いをしよう!」
「スレイヤー、お前の愛は苛烈で無垢で刹那的なものだ。私では受け入れらない。お前を受け入れられる相手を探せるよう──エリオットとの繋がりをここで切る」
「!?」
アリーナが構築する極大魔法は精密でとても美しかったが、これはその上をいく。白銀の光によって形成されて幾つもの魔法円を重ねて紡ぐ。
俺はアリーナの戦っている姿を見るのは好きだった。
思えば最初にアリーナと敵対したのは、俺だったから。
「お師匠がいい。お師匠以外は簡単に壊れて消える。お師匠は私に敵意を向けないし、私を理解してくれるのに、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうしてどうして……私じゃダメなの?」
泥と化したスレイは幾つもの黒い鎖に絡め取られて、地下牢に封印された。スレイは裏切られたと、アリーナを詰り、罵倒していた。
結局のところアイツはアリーナの温情、いや愛情に最後まで気づかなかった。
「……まずった。本体と切り離しと隔離までしか、腕が……鈍ったかな」
「アリーナっ!」
アリーナの体が傾いたのに気づいて、人の姿になる。
横抱きしたら、酷く嫌そうな顔をされた。
「モフモフ……がいい」
「そんなことを言っている場合か! 今すぐ治癒を……」
「ふふ、私が刺された時、治癒魔法を使っていたのは……やっぱり無意識だったのか」
「──っ、」
腕の中にいるアリーナの体は華奢で、よく見ればあちこちに刀傷の痕があった。今まで大魔導士になるまで様々なことがあったのだと、今更ながらに思い知る。
そして肉体の回復は間に合っていても、アリーナが先ほど使った極大魔法の対価のことをすっかり忘れていた。
自身の身の丈に合っていない魔法には、対価がいる。そんな当たり前のことに俺は気づけなかった。
俺は──気づくのがいつも遅い。
急速にアリーナの命が失っていくのに気付いた。
「(ダメだ。ダメだ、ダメだ、ダメだ……っ、逝かないで、ダメだっ)アリーナ……、俺は」
「グレイリーフ。…………許さないから……。エリオットたちのこと……頼んだよ」
そうやってアリーナは、俺の腕の中で死んだ。
エリオットはアリーナの死の原因が自分だと受け止めきれず、『お師匠様は病気で亡くなった』と記憶を改変することで心を保っていた。
スレイは自分が拒絶されたことに怒り狂い、壊れてしまったようだ。
***
俺はアリーナの蘇生に執着し続けた。
それは、アイリと出会った今も──変わらない。
「それで──クソ神々の御使が、幻想魔導図書館になんのようだ?」
かつて中庭だった場所は、あの時よりも広くて明るい。植物も増えたし、美しい苔も生えて変わった。
そんな図書館の中庭で、俺に接触してきたのは天使だった。
十二の翼が羽根を広げて浮遊している。翼にはそれぞれ大きな目玉が付いており、近くで見るとギョロリと動いてかなりグロい。
『君ガ舞台を整エルのなら、蠖灘◇□縺ョ逶ョ讓繝シ◇◇◇繝峨Ν繧剃として擬似的に■■と■■を戦闘設定。逾櫁ゥアの決着とスルことで、私は役割ヲ完了させラレ◇』
(なんで今頃、いや今更?)
その答えはノイズ混じりの音声と、天使の姿が半透明になりかけていることで、ある程度察することができた。
「ああ、そうか。お前はすでに顕現を維持し続けるほど魔力が残っていないんだな」
『肯定◇。主人ノ元に戻ルためにも◇◇*結果は必要不可欠』
「俺が知ったことか」
『協力スルなら、縺雁燕縺ョ◇◇大魔導士の魂の一部と断片的な記憶◇◇ヲ渡ス』
「……詳しく教えろ」
俺は話に飛びつくのを堪えて、答えを渋った。
あくまでも《厄災の獣》の役割はスレイに押し付けて、アイリの戦力を六ヵ月でなんとかすれば、いろんな問題が解決すると言う天使の言葉に、俺は乗った。
(俺が場を整えて、茶番劇で収めればいい。そうすれば――)
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