第28話 旅行 1
「――ねえねえなーくんっ、せっかくだしさぁ、どっか行こうよ~」
ゴールデンウィーク初日の昼下がり。
日頃消化しきれていない積みゲーをプレイ中の俺は、ソファーで那月にしなだれかかられていた。見てくれだけは最高位の黒髪美少女従姉妹様は、俺の肩に顎を乗せて、退屈そうな眼差しをジッと俺に照射している。
「ねえねえ聞いてるぅ? どっか行こってば~。せっかくのゴールデンウィークなのになんで昼間からゲームしちゃってるんですか、なーくんは」
「せっかくのゴールデンウィークでもないと積みゲーを崩しきれないんだよ」
「ぶーぶー。なーくんはあたしの攻略に勤しむべきなのにっ」
「お前がヒロインの美少女ゲームはくっそつまらないだろうな……」
好感度ゲージが最初からマックスの状態で登場してくるヒロインの何を攻略しろと言うんだ。エロを売りにするしかなくて抜きゲー化待ったなしだ。
「ねえねえそれよりホントにどっか行こうってば~。あたし暇だよ~」
「……暇なら友達と遊びに行ってこいよ」
「友達みんな家族旅行だってさっ」
那月は据わった目をよりジトッとさせて、頬をむうっと膨らませ始める。
「いいよねー家族旅行ー。あー、あたしもなーくんと一緒に旅行に行ってみたいなー。連れてって欲しいなー。暇だなー。おもんないなーこのゴールデンウィークー」
なんとも嫌味ったらしい棒読みのオンパレードだった。
クソガキモード全開って感じだな……。
俺はため息を吐き出してゲームを一旦中断する。
「……そんなに旅行に行きたいのか?」
「うんっ、行きたい!」
「……俺と?」
「当たり前じゃんっ。1人でなんか行きたくないよ!」
そう言って那月が俺の片腕をぎゅっと抱き締めてきた。キャミソール越しの形の良い巨乳をわざとらしく押し付けながら、耳元で囁いてくる。
「ダメ? なーくんと2人でしっぽりしたいな……♡」
「変なこと言うな」
「でへへ」
「でへへじゃないんだよ……」
「で? なーくん結局連れてってくれるの?」
「……どこに行きたいんだよ」
この言葉が出てくる時点で俺は無意識に折れてしまったってことだ。なんだかんだ那月にはあらがえない。こいつの面倒を見る習慣が染み付いてんだよな。頑固過ぎてもう二度と落とせないかもしれない凶悪なシミである。
「んーとねえ、1泊でいいから温泉旅行行きたいっ。県内にあるよね? 温泉街っ」
「あるっちゃあるけど、今から予約取れんのかな……」
ゴールデンウィーク初日だぞ? 前もって予約してなきゃ無理じゃね?
「ま……一応調べてみっか」
「じゃあ予約取れたらホントに連れてってくれるのっ?」
「ああ。しゃーねえから連れてってやるよ」
「やったー! なーくん好き好き愛してるお礼にチューしてあげるね♡」
「や、やめろ!」
むちゅー、と那月が変態親父のように唇を尖らせて顔を接近させてきたので俺はほっぺを押し返して事なきを得た。
「……あと言っとくけど、宿がどこも空いてなかった場合は行かないからな? その場合は我慢しろよ?」
「おk」
その後、ネットで宿を探したところ――ちょっと良さげな2人部屋がひとつだけ空いているのを運良く発見してしまい、残念ながらなんの支障も無く翌日からの1泊2日を予約出来てしまったという有り様だった。
……こりゃ積みゲーは消化しきれそうにないな。那月が居るとやっぱり1人で趣味に没頭するのは難しい。
まぁでも――
「おう、しっかり予約出来たから軽く荷物まとめとけよ?」
「予約出来たのっ! じゃあ明日はいっぱい楽しもうねっ、なーくん!」
と、満面の笑みを浮かべる那月を見ていたら、野暮なことを考える気力はなくなった。那月の気分を盛り下げないように、俺も精一杯楽しんでこようと思う。
こうして翌朝、俺たちは温泉街へと出かけることになった。
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