第26話 飲み会の夜 2

「あっ、なーくんおかえりー♪ 飲み会の割には帰るの早かっ――え……」

「……あぁ那月、悪いけど水を用意してくれないか?」

「な、なんで後輩さんが一緒なの……!?」


 飲み会から帰宅した俺は、那月に案の定な反応を示されていた。

 ……御堂さんに肩を貸した状態で帰ったら、そりゃ驚かれるよな。


「まぁ、お前が色々言いたいことがあるのは分かってる。でもこれはお持ち帰りとかじゃなくて、保護だ。真面目に対応してくれたら嬉しい」

「……酔い潰れてるの?」

「ああ。御堂さんちがどこか分からないから、送り届けずに連れてきたんだ。他意は無い」

「そっか……うん、分かった」


 那月は割と、ふざけていいときとダメなときを理解しているタイプだ。だから今回は素直だった。頷いてくれた那月は、リビングに引っ込んで水を用意し始めてくれる。

 俺もリビングに向かい、御堂さんをソファーに横たわらせ、那月から受け取ったコップを御堂さんの口元に持っていく。


「ほら御堂さん、これ飲んで少しでも酔いを醒ますんだ」

「……お水、ですか?」

「ああ」

「ふふ、どうせなら先輩の口移しで飲ませてもらえたら嬉しいんですけど……♡」

「「!?」」


 俺はドキッとし、近くに控えている那月はムッと頬を膨らませ始めていた。

 小悪魔御堂さんめ……那月を刺激しないでくれよ……。


「頼む御堂さん……変なことを言わないでくれ」

「えへへ、すいません……」


 茶目っ気たっぷりに謝りつつ、御堂さんはコップを傾けて水を飲む。どうやらこっちの言葉を理解出来る程度には酔いが弱まっているようだ。


「ところで……ここって先輩のおうちですよね……? ごめんなさい……私ったら酔い潰れてご迷惑を……」

「別にいいさ。ごめんって言うなら、こっちこそ勝手に連れてきて悪いというか……」

「全然平気です……むしろ嬉しいって言いますか……これって、ある意味お持ち帰りですよね? えへ……えっちなこと、されちゃう感じですか……?」

「するわけないだろ……」


 御堂さんに若干の那月みを感じる……。

 年下の女子にばっかり懐かれるのはなんだっつーんだよ……俺はどちらかと言えば年上が好きなのに。


「むぅ……さっきから黙って聞いてれば、なーくんに色目使わないでください……」


 そんな中、那月が少しお怒りの様子だった。大事なモノを死守するかのように、俺の腕をぎゅっと抱き締め始めている。

 ……どうやら那月の嫉妬スイッチが入ってしまったらしい。


 御堂さんが探るように那月へと目を向ける。

 

「えっと……那月ちゃん、だったよね?」

「……(こくこく)」

「ひょっとして……私と先輩のやり取りにヤキモチ?」

「……(こくこく)」


 那月は基本、俺と仲良しの異性には当たりが厳しい……。なるべく喋りたくもないらしくて、イエス・ノーで答えられるやり取りには首の上げ下げでしか応じない。


「私、お邪魔虫?」

「……(こくこく)」

「おぉう、歯に衣着せぬ反応だね……」

「でも……酔ってて調子良くないなら、泊まっていけば、とも思ってます……」


 お、那月のちょっとした優しさが出たな。


「……いいの?」

「まぁ……最終的に決めるのは、なーくんですけど……」


 そう言ってジッと俺に目を向けてくる那月だった。


 ……那月的に色々思うところはあるんだろうな。

 それこそ本心としちゃあ、今なら家の場所聞けそうなんだから改めて送り届ければいいじゃん、とでも言いたいのかもしれない。

 でも御堂さんの具合が本調子じゃないなら、むやみに移動を繰り返すのも良くはないと思って、譲歩してくれている部分もあるのは確かだと思う。


 俺としても、1日の疲れがある中でまた運転するのは面倒だし、御堂さんが本調子じゃないのも見て取れるし、最初から泊まらせるつもりでもあったし……、


「……なら、今夜はここで御堂さんをゆっくり休ませる。別にいいよな?」

「まぁ……しゃーなしだね」


 こうして今回は、那月の優しさに乗っかることになった。


   ※


 その後はこれといって騒ぎも起こらず普通に過ごし、風呂上がりの御堂さんには那月の部屋着を貸し出して、個室のベッドで休んでもらうことになった。

 酔っていた影響もあってか、御堂さんはそのまま早々と寝てしまい、そうなるとリビングは俺と那月だけのいつも通りの夜となった。


「なーくんって……1人暮らしだったときも後輩さんを介抱がてら連れ込んだりしてたの?」

「してないって。今日たまたまそうなっただけだよ」


 某流行り病のせいもあって飲み会が解禁されたのは最近のことだ。御堂さんがあれだけ飲む人だと知ったのも最近である。


「それよりほら、お前も風呂に入ってきたらどうだ?」


 御堂さんに一番風呂を譲ったので、俺たちはまだ入っていない。

 俺は最後でいいやと思って2番手を促す。

 すると那月は干された下着などを回収してから、テレビを眺める俺に近付いてきた。


「ねえなーくん」

「……どうした?」

「正直なところを言うと、急に後輩さんを連れて来られて、あたしは不満です。せっかく明日からゴールデンウィークという一大イベントも始まるのに、ワクワク感が削がれています」

「悪かったよ……でもじゃあ、どうしろって言うんだ?」

「お願いを聞いて欲しいなって思ってて」

「……お願い? ゴールデンウィークに旅行とかか?」

「それも良いけど、今すぐ実行出来ることがひとつ、あるよね?」


 そう言われ、……まさかと思う。

 那月に目を向けると、その表情には恥じらいが見えた。

 そして赤らんだ頬を維持したまま、那月は案の定、こう言ってきたのである。


「……久しぶりにお風呂、一緒に入って欲しいな」

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