第22話 下着事情
「那月、他に洗濯物はないな? あるなら出せよ」
「ないからだいじょーぶ」
「そうか」
週末の朝。
俺は洗濯機を回そうとしていた。洗濯槽の中では俺と那月の衣類がマキアートのように混ざり合っている。無造作に放り込まれた那月のスポブラとショーツが毎度のように裏返っている光景にも見慣れてきた。
にしても、本当に色気もクソもないな。スポブラはダルダルに伸びきっているし、ショーツはちっちゃい虫食い穴が空いているし、見えない部分のオシャレがズボラ過ぎる。
ショーツの虫食いは機能面に影響がないから良いとしても、ダルダルのスポブラは果たしていかがものか。那月の胸は今や立派に育っている。あれだけ立派に育っているなら、きちんとしたブラを着けた方が垂れ乳対策になっていいんじゃないかと思うんだがな……。
「なあ那月、お前スポブラばっかでいいのか?」
洗濯機を稼働させたのち、俺はリビングに戻って那月に尋ねた。
「え? なにその質問?」
「いやほら、お前スポブラしか持ってないだろ? しかも使い古してダルダルのヤツばっかり。あんなのばっか着けてたら垂れるんじゃないかって思ってな。今は若いから良いとしても」
「……垂れるかなあ」
ソファーでスマホをイジっていた那月は、真横にスマホを置いてから自分の胸をキャミソールの上からふにふにと揉み始めた。
「なーくんって垂れたおっぱいは嫌い?」
「んなもん……程度によるとしか」
「じゃああたしのおっぱいはなーくん的にどうなの!?」
「知らん」
「知らんってことはないでしょっ。きちんと見定めたいなら、今からキャミずり下ろしておっぱい見せてあげよっか?w」
「見せなくていいっつの……それより実際どうなんだよ? 体育の着替えとかで友達の下着を見ても、スポブラが主流か?」
「んー、まぁ……運動系の部活やってるかやってないかで分かれるよね」
「そりゃそうか」
「けど、スポブラの方が気楽だから、って言ってスポブラばっかの帰宅部仲間も居るしっ」
「お前もスポブラの方が気楽なのか?」
「うん。中学のときにお母さんからワイヤーブラ買ってもらったことあるけど、背中のホックが上手く着け外し出来なくてやめちゃった」
童貞みたいな理由で諦めんなよ……。
「……フロントホックにすりゃあ良かったのに」
「フロント……ホック……?」
「お前原始人か?」
幾ら田舎出身とはいえ無知過ぎるだろ……。
「……ホックが前面に付いてるブラもあるんだよ。それがフロントホック」
「ほーん、そういうのもあるんだね……人類には早すぎる発明だったりして」
「お前が牛歩なだけだからな?」
「――なーくんっ!」
「なんだよ急に……」
「でもあたしはやっぱり、スポブラが良い! 結局ワイヤーブラの着け心地がそんなに好きくないっていうのがあるから」
「……なるほど」
なら、無理にワイヤーブラにする必要はないのかもしれない。
結局、スポブラだから垂れる垂れないってのは人によるんだろうしな。
禿げるヤツは何しても禿げるし、禿げないヤツは何しても禿げないのと一緒で、胸の垂れる垂れないも諸行無常な運命の巡り合わせですべてが決まるのかもしれない。
「でもさすがにスポブラの新調くらいはしといたらどうだ? ダルダル過ぎて胸に悪いのは間違いないだろうし。金は俺が出してやるから」
「じゃああたしあのブランドが良い!」
「あのブランド?」
「なんだっけ? えっと、ケビンハンバーグみたいな名前の……」
「……カルバンクラインか?」
「そうそれっ! そのブランドのグレーカラーのスポブラとショーツがえっちぃらしいからなーくんを誘惑するために買って欲しいな~♡」
……買ってやったら面倒なことになりそうだな。
でも見窄らしいダルダルスポブラをいつまでも使わせるわけにはいかないという親心じみた感情がある。せっかく綺麗に育ってきたわけで、その見た目に似合う小綺麗な身なりで居て欲しいんだよな。
そんなわけで、近所にカルバンクラインの店舗がないので通販を利用。
後日、お望み通りのモノが届いたその日の夜――
「なーくん見て見て~w」
と、風呂上がりの那月が、おニューのスポブラとショーツを見せ付けるかのように、下着オンリーの姿でリビングに戻ってきやがった。
「お前な……」
予想通りの行動に呆れつつも、俺はジッと那月の全身を眺めてしまう。スポーティーなグレーのスポブラに包まれた豊満な胸と、くびれ、臀部の曲線、太ももの妖艶さたるや、そんじょそこらのグラドルを打ち負かすレベルの素晴らしさ。
……ホント、よく育ったもんだな。
「ねえねえ、どうかな♡」
「まぁ……いいんじゃないか?」
こんな返事をしてやったら図に乗るかもしれないが、素直にそう告げる。
すると那月は、ソファーに座っている俺の隣にぼふんと腰掛けてきて、
「えへへ~、じゃあ今日から家では下着だけで過ごすようにしっちゃおっかなw」
と言ったので、「それはやめとけ」とチョップしてやったのは言うまでもない。
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