第14話 制服

「宅配便でーす。サインお願いしまーす」

「はーい」


 渋谷行脚に出かけた土曜と違い、本日日曜は家でゆったりと過ごしていた俺は、その日の午後、身に覚えのない荷物を受け取っていた。

 伝票には……叔母さんの名前。

 那月宛てか。


「おい那月、叔母さんからなんか届いたぞ」


 リビングに戻って、ソファーでソシャゲ中の那月に声を掛ける。

 中身が何かは知らないが、大きさの割には軽い段ボール箱だ。


「お母さんから?」

「ああ。衣類、って書いてあるな」

「――あっ、多分制服かも!」


 那月が立ち上がり、駆け寄ってくる。

 

「実家出る前に採寸だけしてて、出来上がったらなーくんの家に届けるね、ってお母さん言ってたからっ」


 そんな言葉を聞きながら段ボール箱を開封してみると、中身は取っ手付きのスーツカバーだった。確かにこれは制服だろうな。


「じゃあほれ、お前が大事に持っとけよ」

「うんっ。――じゃあせっかくだし、制服着てみよっかな」

「ま、一応着心地は確かめとくべきだろうな」

「うんうん。なーくんもあたしの制服姿に興味あるもんね?w」

「いや……ねえし別に」


 実際は興味があるものの、あると言ったら負けな気がした。

 一方で、那月がニヤッと笑う。


「ウソだね。なーくん探偵のあたしには分かるよ――なーくんは今、ウソをついているっ。ホントはあたしの制服姿にめちゃんこ興味があるはずっ」


 ……ときどき無駄に勘が良いんだよなこいつ。

 

「ふふんっ、痩せ我慢は禁物なんだよなーくん? ――というわけでっ、着替えてくるからそこで待ってて♡」


 俺に有無を言わせないまま、那月は個室に駆け込んでいってしまった。

 やれやれ……結局は自分が見せたいだけなんだろうな。

 まぁでも、せっかく見せてもらえるなら、心ゆくまで堪能させてもらおうか。


   ※


「――おまたせなーくんっ、心の準備はいいっ?」


 数分後、那月がドアから顔だけ出してきた。

 なんだかんだ楽しみに思いながら、俺は「いつでもどうぞ」と頷いた。


「じゃあいっくよー! せーのっ、――じゃーん!」


 那月が勢いよくドアから飛び出してきた。

 そして俺は――


「うおお……」


 と唸っていた。


「どうよこれ~♪」


 くるりと身体を一回転させた那月。

 その姿はなんと――黒セーラー、であった。

 リアルだとお目に掛かる機会があまりなくて、ともすればコスプレ臭が漂う赤いスカーフのそれを、那月は完璧なまでに着こなしていた。

 すらりと背が高く、長い黒髪の那月。

 そんな那月の黒セーラー姿は、本当になんらかのアニメの世界から飛び出してきたみたいだ。


 やべえな……那月の登場前は、どんなデザインであれ「馬子にも衣装だな」的な感想を言おうとしていたが、こればっかりは那月の見た目と噛み合い過ぎていて茶化す気にもなれない。


「なーくんどったの? なんも言わないけど……ひょっとして見とれてる?w」

「まぁ……否定は出来ないな」

「――っ!? ほんとに!?」

「ああ、大人っぽくて良いなって素直に思う」

「――嬉しい……♡」

「あとはスカートが短くないのも、保護者としては安心っつーかさ」

「それって裏を返せば、男としてはもっと短い方が良いってこと?」

「いや……別にそうは言ってないだろ」

「ふっふっふ~、じゃあなーくんにだけの特別オプションとして、ミニスカバージョンも見せたげる♡」

「じゃあってなんだよっ。余計なことはしなくていいって!」

「いいからいいからっ。ね?」


 そう言って那月は楽しそうにスカートを折り始めてしまった。

 折られるたびに白くて健康的な太ももがあらわになって――あぁくそ、まじまじと眺めるべきじゃないだろうに、中学時代にずっと陸上をやっていただけあってその脚はすらりと綺麗で目を奪われてしまう。きちんと女の子らしい肉付きでもあるのが、けしからんというか……にしても、あのボーイッシュなちんちくりんが、よくぞここまで女子らしく育ったもんだ。

 妙に感慨深い感情にも包まれていると、那月はほどなくスカートから手を離した。

 

「よいしょ、っと。さあさあ、こんなもんでどうですかな?w」


 太ももの4分の3ほどがさらけ出された超ミニ状態。

 こんなの……ちょっとでも動いたら下着が見えちまうだろうな……。


「あのな……その丈は家の中だけで頼むぞ?」

「ほうほうw なーくんはミニスカ姿のあたしを独占したいってことなの?w」

「……そういう解釈でいいから、外ではホントにやめろよな?」


 茶化さずにそう告げる。なんでかって言ったら、赤ん坊の頃から面倒を見ている従姉妹が、他の男どもの性の餌食になったりしたらイヤだからだ。想像しただけで虫唾が走る。だから、その状態は家の中だけにとどめて欲しいという話である。


「いいか? 俺の前ではどんだけバカなことでもやりゃあいいさ。でも外では自分を大切にしてくれ。約束出来るか?」

「なーくん、心配性だねw」

「お前が無駄にお転婆なのが悪い」

「なーくんの気を惹きたいだけだもん」

「なら、そんな真似をされるまでもなく、興味は持ってるから安心しとけ」

「なら、なーくんも安心していいよ? いちいち忠告されるまでもなく、この手のサービスはなーくんにしかやらないし♡」


 ……そいつは確かに安心だが、俺を誘惑すること自体やめて欲しいもんだな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る