第13話 都会探訪 4

「――わっ、先輩じゃないですか! すごい偶然ですね!」

「ん? あぁ、御堂みどうさんか」


 やがて109の探訪を一段落させた俺と那月は、109内にあるレストランで飯を食って帰ることにしたのだが、そこで見知った顔と遭遇していた。

 会社の後輩、御堂さんだ。

 栗色の髪の毛を肩口で切り揃えている社会人2年目の可愛い後輩は、4人掛けのテーブルを1人で陣取ってランチ中の様子。


「……誰?」


 那月がむすっとした表情で俺を見上げてくる。

 御堂さんがそんな那月をまじまじと捉えていた。


「――あっ、もしかして先輩、その子が例の従姉妹ちゃんですか? うわ、ヤバ……めっちゃ綺麗ですね」


 現状の那月を初めて見たら、やっぱりそういう感想になるのか……まぁそうだよな。外見だけで判断するなら、いわゆる清楚系の黒髪美少女だ。中身はまるっきり違うわけだが……。


「この女……なに?」

「こら、この女とか言うな。この人は会社の後輩なんだよ」

「はじめまして。御堂風音かざねって言います」


 御堂さんが自己紹介を行っていた。

 対する那月は警戒心剥き出しの表情で、


「……新原那月です」


 とだけ言った。

 

 昔からこうなんだよな……俺の知り合いの女性には大体塩対応になる。自分以外の異性と俺が話しているのがイヤっぽい。独占欲が強すぎて参る……懐きすぎなんだよマジで。


「那月ちゃんかあ。よろしくね。――あ、そうだ先輩、相席どうですか?」


 ……相席。

 俺は問題ないが、那月は絶対に嫌がるだろうな……。

 ――あぁほら、俺の上着の裾をグイグイと引っ張って、相席はイヤだってアピールしてやがる……。


「……悪いけど御堂さん、こいつ結構な人見知りでな、相席はちょっと勘弁してもらえるとありがたいんだが……」


 那月を慮ってそう告げると、御堂さんはしゅんとしつつも頷いてくれた。


「そうなんですか……まぁ、そういうことなら仕方ありませんね」

「悪いな。お互いプライベートだし、ひとまず挨拶だけってことで」

「はい……ではまた会社でお願いしますね、先輩」


 こうして俺たちは御堂さんと別れた。

 今度何か埋め合わせでもしといた方がいいかもしれない。

 そんな風に考えながら、俺と那月は別のテーブル席に腰を下ろした。


「今の人……めっちゃ可愛かったね。若そうだし、会社の新人さん?」

「ああ、去年からの若手だ。俺が面倒を見ていてな」

「ふぅん……1人で渋谷来てんのかな? 週末に副業でパパ活やってるとか?」

「偏見で物を言うのはやめとけ……絶対違うから」

「……でも良かったの?」

「何がだ?」

「相席、しなくて」

「だってお前、絶対したくなかっただろ?」

「……だから、しないでくれたの?」

「ああ。御堂さんも大事な後輩だが、お前はそれ以上に付き合いの深い従姉妹だからな。どっちの意思を優先するかって言ったら、そりゃお前なわけだよ」


 特に今日は那月にとって記念すべき初渋谷なわけで。

 そこで微妙な気分にさせちまったら保護者としては面目ない。


「えへへ……やっぱりなーくんって優しいっ。人目なかったら抱きついてちゅーしてるかも♪」

「人目があって良かったよ……まぁほれ、好きなモノを好きなだけ頼んじまえ」

「うんっ♡」


 メニューを手渡すと、那月は普段の表情に戻っていた。

 ま……とりあえずひと安心だな。

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