第12話 都会探訪 3

「――わっ、ハチ公! なーくんみたい!」

「どんな感想だよ……」


 下見後の現在、俺は那月のわがままに付き合う形で渋谷を訪れている。……久しぶりにやってきたが、相変わらず人がうじゃうじゃ行き交っていて気が滅入る。孤独を愛する俺には耐えがたい光景だ。

 一方、那月は「うひょー」と楽しそうにしている。


「なーくんとしっぶや~♪ ねえねえ、109見に行こっ?」

「……俺は109って歳じゃないし、その辺の喫茶店で待っててもいいか?」

「ダメっ。なーくんも一緒なのっ!」


 最高位の黒髪美少女でありながら、それに似合わないやんちゃなお姫様っぷりは渋谷に来ても健在である。やれやれだな……。


 そんな思いで渋々と109探訪に付き合わされる。

 内部の客は俺以外みんな10代の若者に見える。

 ……場違い過ぎてヤバい。


「――あ、このアクセ可愛い~っ♪」


 身を縮こまらせながら雑貨屋の物色に付き合っていると、那月がミサンガ的なブレスレットを手に取って物欲しそうに眺めていた。その目線が直後には俺へ。


「ねえねえなーくんっ、これふたつ買ってお揃いで着けてみようよっ」

「いやいや……アラサーのおっさんにそんなモン付けさせようとすんなよ」


 鼻で笑われるわそんな装備。


「えー、別に良いと思うけどねっ。ほらっ、ちょっと着けてみて!」

「あ、おい……」

「ほら~、別に悪くないよ~」


 那月から強制的にミサンガを嵌められてしまった。


「店員さんっ、これ似合ってますよねっ?」


 ……しかも那月の野郎、わざわざ店員のお姉さんに同意を求めやがった。


「はい、お似合いだと思いますよ~。年上のカレシさんですか?」

「はいっ。将来を誓い合ってますっ」

「事実無根な情報を垂れ流すのはやめろ」

「あ痛っ」


 頭頂部に軽くチョップを食らわせてやった。

 店員のお姉さんが小さく笑いながら立ち去っていく一方で、俺は手首に嵌められたミサンガに目を落とす。


「ったく……そんなに欲しいのか? これが」

「お揃いでね」

「……まぁ、別に高いもんでもないしな」


 ふたつ買ってもマックのセットメニューくらいだ。……そんなはした金で那月が喜ぶんなら、ペアルックを試みてやってもいいか。


「じゃ、ふたつ買ってくるから通路で待っとけ」

「――いいのっ?」

「じゃないとどうせ駄々こねるんだろ?」

「えへへ、よく分かってんねえ~」

「ウィークポイントを言い当てられて嬉しそうにすんな」


 改めて軽くチョップを食らわせながら、俺はミサンガをふたつ持ってレジに向かった。


「――えっへへーっ、なーくんとおっそろ~いっ♡」


 そして購入後、那月は早速ミサンガを手首に着けていた。


「ほらほら、なーくんも着けてほら早くっ」

「分かってるから急かすなって」


 言われるがまま、俺もミサンガを装着。

 お恥ずかしながら、ミサンガなんてモノは初めて着けた。学生時代ならまだしも、この歳で着けるのはやっぱり抵抗があるな……。


「むふふ~、お揃いさいこー♪」


 まぁでも……那月が嬉しそうだから別にいいか。

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