第11話 都会探訪 2

「電車の走行中って、椅子に座ったりつり革掴んだら負けなんだっけ?」

「そんなルールはない」


 電車で那月の進学先まで移動している現在、俺と那月は並んで座席に腰を下ろしている。朝の慌ただしい時間帯ではないので、言うほど混雑はしていない。座席はまばらに空いている。


「でもさ、あそこの人なぜか座らずに立ったまま必死にバランス取ってるよね?」

「まぁ……中にはそういう自分ルールで電車に乗ってるヤツも居るんだろうさ」


 すいているのに絶対座席に座らないのは、俺もそうだ。今は那月に合わせて座っているが、実際は立っている方が楽だ。決して痔ではない。


「ところで、学校の最寄り駅は乗ってから4番目に停まる駅だってよ」

「4番目ってことは、次だよね?」

「ああ。そこで降りて、学校まで歩いてみて、そのあとは……もう帰る感じでもいいか?」

「えーっ! せっかく外に出たんだからそのままデートしちゃおうよ~♡」

「……デートなんざ入学後に彼氏でも作って勝手にやっとけよ」

「むぅ、なんでそういうこと言っちゃうかな~……あたしはなーくんとのデートがいいのに……」


 むすっとした表情でジッと睨んでくる那月である……。

 はあ、俺はその表情に弱い。


「……わーったよ。じゃあデートじゃないが、ちょっと都内まで出てみるか。そんでテキトーにふらついて、飯でも食って、それから帰る。どうだ?」

「――さいこーっ!」


 にひっ、と白い歯を見せて笑う那月だった。

 ……ほんと、現金なヤツだよまったく。


   ※


「うおお……ここが我が新しき学び舎……」

「まあまあデカい学校だな」

 

 やがて那月の進学先に到着した。 

 校舎が綺麗で良さげな雰囲気だ。

 グラウンドでは野球部が練習に勤しんでいた。休日なのにご苦労様だな。


「そういや、ここって私立なんだな」

「うん、なんか結構良いところらしいんだけど、試しに受けてみたら受かった感じ」


 校名をスマホで検索してみると……うげ、ここ偏差値67なの?

 待て待て……ひょっとして那月って頭良いのか……?


 信じられない気分で那月に目を向けてみると、俺の内心を読み取ったかのように、やたらと勝ち誇った表情を浮かべていた。


「ふふんっ、あたしすごいでしょ?」

「ああ……結構やるな」

「なーくんのそばに来るために頑張ったもんね! 『地元を離れるなら離れるだけの価値がある学校に入ってみろ。永春くんだけを目的にするのは許さん』ってお父さんに言われたからチョー頑張ったし!」


 ……俺はぶら下げられた人参か何か?


「まぁ……どんな目的だろうとここに入れたのは良かったな」


 学歴としちゃあ悪くないはずだ。


「へっへっへっ、大学も良いところに入って、良い企業に就職して、なーくんのこと養ってあげちゃうから!」

「あのな……ひと回り以上年下のガキに養われてたまるかっての」

「じゃあなーくん、あたしのこと専業主婦にしてくれるの?」

「なんでどのルートでも俺とお前のあいだで扶養関係が成り立つ前提なんだよ……」


 おかしいだろ色々と。


「……それより、下見はこんなもんでいいか? マンションからここまでのルートは覚えたな?」

「うん、ばっちし! じゃあこっからはデートねっ♡」


 那月が俺の腕に絡み付いてくる。ぎゅっと抱き締められ、よく育っちまった胸を押し付けられる。もう完全にわざとだ。ニヤニヤしやがってこいつ……。


「ねえほら、早く行こっ? 渋谷とか行ってみたいなあ♪」

「へいへい……行くだけ行ってさっさと飯食って帰るぞ」


 こうして俺たちは、学校の門前をあとにした。

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