第7話 そういう年頃

 マンションから徒歩数分のところにデカいスーパーがある。店内には陽気なBGMがいつも木霊していて、いつしか耳からこびり付いて離れなくなる。気付けば入浴中に鼻歌として奏でていたりする恐ろしさ。まさに洗脳である。


 ともあれ、かのスーパーを訪れた俺と那月は、その陽気な店内BGMを聴きながら野菜コーナーから見回っていた。


「あ、オクラ買おうよ! ネバネバは健康に良いってお母さん言ってた!」

「オクラはいいよな。納豆に混ぜると旨い」

「うぇ~……あたし納豆嫌い」

「お前昔からだよなあ。もったいねえ」


 納豆なんか食べるくらいなら容器食べた方がマシ! と言い切るくらいに那月は納豆が嫌いらしい。まぁその言い分は分からんでもないからなんとも言えない。


「俺が納豆食うのは別に構わないよな?」

「んー……納豆食べるならチューはしてあげないからね?」

「どういうことだよ……」


 お前とキスする予定なんざないんだが。


「納豆食べたあとにチューしたいときはちゃんと歯を磨くこと」

「無駄な想定はやめろ」

「将来的にしたくなるかもしれないでしょ? だからルール決めは大事」


 どんな将来だよ……俺たちの関係性はいとこだっつーのに。

 ん? ……あぁでも、いとこ同士は結婚出来るんだったか……。

 つっても……こいつとそうなるわけがないんだけどな。

 

「まぁ、今日はオクラも納豆もナシだ。健康志向で行くつもりだったが、少し豪勢に行くか」

「え、なんで?」

「お前が来たばっかの昨日はノーカンとして、今日が最初の夜だろ? だからこれから仲良くやってこう、って意味も込めて、すき焼きだな」

「――すき焼きっ! いいのっ!?」

「ああ、良い肉買ってくぞ」

「やったー! なーくんチョー好き愛してるー!」

「今日はカロリーと塩分なんざ気にしない。いいな?」

「おうさ!」


 ずびしっ、とサムズアップした那月と一緒にすき焼きの具材をカゴに放り込んでいく。

 えのき、ネギ、しいたけ、しらたき、春菊、焼き豆腐、牛肉。

 卵は家にあるし、調味料も右に同じく。

 あとは無料の牛脂を貰っとく。


「ねえなーくん、食べ物とまったく関係ないんだけど、これ買ってもらってもいい?」


 そう言って少しのあいだ隣から消えていた那月が戻ってきた。

 その手には……生理用ナプキン。

 少し息が詰まった。


 まぁでも……そうだわな。

 ……そりゃそうだ。

 当然ながら……もうとっくに始まっているわけだよな。

 赤ちゃんのときから知っている那月は、もう単なる無邪気なお子ちゃまってわけじゃ、ないわけだ……。


「どったのなーくん?」

「え? いや、別になんでもないが……」

「ホントに?」

「ホントだ……とにかく、それは遠慮せずカゴに入れとけ。叔母さんたちに生活費は貰ってるからな」

「うん、じゃあお願いね」


 にへらと笑う那月。

 その笑顔は少し、大人びて見えた。

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