第4話 最初の朝

「おふぁよー……」


 翌朝。

 6時半に起床して洗面所で顔を洗っていた俺は、居候中の従姉妹、もとい那月が、あくび混じりに起きてきたことに気付いた。


「なんだよ那月、春休みなのに早いな」

「まぁねー……あんまし生活リズム崩したくないから……」


 長い黒髪をボサつかせている那月は、まだ目をぱっちりと開いていなかった。

 格好も当然、寝巻きのままだ。

 グレーのスウェットを着ている。

 色気の欠けらもない。


「よく眠れたか?」

「うん……なーくんのベッド寝心地良かったし……」


 俺の隣でじゃばじゃばと顔を洗い始めながら、那月はそう言った。

 そいつは良かったと思いながら、俺は俺で歯を磨く。

 それを済ませたのち、洗濯機を回すことにした。


「なあ、俺とお前の洗濯物は一緒に洗っていいんだよな?」

「うん、ぜんぜんいいふぉー」


 歯を磨きながら返事を行う那月。


「下着はなんかこう、ネットに入れた方がいいのか?」

「ううん。やっすいスポブラとやっすいショーツだし、別にテキトーでいいって」


 確かに洗濯機に入れられている下着は安そうだ。使い古しているようで、完全にくたびれている。色気なんて微塵も放っちゃいない。


「がらがらがらー、ぺっ。――あ、そうだなーくんっ、このスウェットも洗っといてくれるっ?」


 そう言って那月がこの場でスウェットの上下を脱いで俺に手渡してきた。

 ――って、オイ……!


「お、お前なっ、俺の前で脱ぐなよ!」

「むふふ、脱がれて困ることって何かあるんですかな?w」


 すっかり目が冴えた様子の那月は、スウェットを脱いでしまったわけで、当然のように下着姿……。洗濯機に入れられているモノと同じく安っぽいグレーのスポブラとショーツが丸見え。


 ……まだ中学を卒業したばかりのくせに、やたらと色っぽい身体付きだ。

 胸は大きいし、くびれもある。

 白い肌にはムダ毛がないし、無駄な肉も存在しない。

 目の保養にはなるが、目に毒とも言える……。

 

 俺は目のやり場に困り果てて、那月に背を向けた。


「い、いいからほらっ、さっさと服着てこいよ」

「お?w もしかしてなーくん照れてるんですかな?w」

「て、照れてねえよ。お前みたいなクソガキボディにゃなんの感慨も湧かねえっつーのな」

「ふぅん、クソガキボディねえ……一応、身長160越えてるし、Eカップなんだけどなあ」


 ふにゅり。

 背後から腕に抱きつかれ、胸を押し付けられた。

 こ、こいつ……!


「な、何やってんだよお前っ」

「なーくんにあたしがクソガキじゃないってことを教えてるに決まってんじゃん。ほらほら、こんなにおっぱい大きいクソガキなんて居るのかな~?w」


 ふにふに。

 

「お、おい……親戚にこんなことすんな……!」

「イトコ同士は結婚出来るんだからいいじゃん別にw」

「何も良くねえ……っ!」

「頑なだねえ。こうされるのイヤなん?」

「イヤっつーか、単純に困ってんだよっ。やめろってマジで」

「じゃあクソガキボディって蔑称は撤回してくれる?」

「ああ幾らでも撤回するさ! お前はクソガキボディじゃない! アダルトボディだ!」

「うむうむ、そこまで言うなら許したろうやないかい」


 謎のキャラで応じた那月は「じゃ、ワシは着替えてくるぞい」と言って洗面所から出て行ってくれた。


 解放された俺はふぅ、とひと息。

 構われるのは嫌いじゃないが……さすがに今のはなぁ。


「はあ……無事にやっていけるんだろうか俺は……」


 ずっと独り身かつ1人が好きだった俺に那月は劇薬過ぎるように思えてきた。

 こんなのが続くようだと……俺は持たないかもしれない。

 

 そんな風に思いながら、ひとまず洗濯機を回した。

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