第3話 部屋へようこそ
「――うわっ、部屋の中が何ひとつとして華やかじゃないね。倉庫?」
「いや……さすがにそこまで殺風景じゃないだろ」
まさか駅から帰ってきて早々、部屋の悪口を言われるとは思わなかった。
そんなわけで、那月と一緒に帰宅した状態である。
形ばかりの黒髪美少女こと那月は、初めて訪れた俺の部屋を見回して改めて口を開く。
「いやぁ、でもこれは地味過ぎでしょ~。必要最低限の家具しか揃ってないしさ。こんなんじゃ昔からなーくんの無頓着な性格知ってるあたしにしかモテないけど、もしかしてそれを狙ってる感じですかな?w」
「狙ってねえし。いいからほら、コートはそっちにでも掛けとけ」
「うん。そういえばこの部屋の間取りってどれくらい?」
「1LDK。このリビングが10畳。そっちの個室が6畳。個室はお前に明け渡す」
「いいの?」
「そのつもりでもうリビングに俺の新しい寝床を用意してるからな。遠慮すんな」
新しいベッドを買うのは場所的に邪魔だったので、安物のマットレスを寝るときだけリビングの隅に展開することにした。昨晩試しに寝てみたが、意外と悪くなかった。
「個室、見てもいい?」
「ああ。お好きにどうぞ」
ほーい、と返事をして、那月が個室のドアを開けた。
俺も一緒にそちらへ向かう。
「あ、結構綺麗に片付いてるね。なーくんの匂いが強いけど」
「それはまぁ……あとで喚起してアロマでも焚く感じで頼む」
「え、そんなことしないよ。あたし別になーくんの匂い嫌いじゃないもんw」
どういうつもりでそんなことを言ってんだよ……。
でもこいつは昔からそうなんだよな……故郷では家が近所で、那月のことはそれこそ赤ん坊の頃から知っている。物心ついた頃には俺の部屋によく遊びに来ていた那月は、俺の布団によく寝転がっては「くっさ! でもしゅき!」とか言ってキャッキャしていた。
今も匂いの好みはまったく変わっていないのかもしれない。それが良いことなのかどうかは判断出来かねるけどな……。
「ねえ。このベッドってなーくんが使ってたヤツ?」
「ん? あぁそうだぞ。一応シーツと枕と毛布は洗ったから安心しとけ」
「えっ、洗ったのっ? もぉ、なんでよー……あたしはお日様の香りよりなーくんの香りなのに……」
そう言ってベッドにダイブし、「うわぁ洗剤臭い……」と絶望した目付きで俺を睨み付けてくる那月である。
「……もったいないよー……変に気なんて遣わなくていいのに」
「物好き過ぎるだろ……雑菌とかもあるし、洗うこと自体はしょうがないってことで勘弁してくれ」
「……まぁ、確かにしょうがないね」
ムスッとしつつも、一応納得してくれたらしい。
にしても……マジで見た目と中身が釣り合ってない。こんな奔放な黒髪美少女見たことねえよ……。
「――あっ!」
「……今度はどうした?」
「へっへっへっ、ベッドの下にえっちな本、あるんじゃないの~?w」
急に悪い表情を浮かべて、那月がベッドの下を覗き込み始めていた。
ったく……落ち着かないヤツである。
「あのな……今どき現物のエロ本なんて買わないからな?」
「じゃあFANZA?」
「なんでそのプラットフォームを知ってんだよ……!」
「そりゃ、あたしだってもう子供じゃないもんねっ」
えっへん、と謎に胸を張る那月。
まぁ確かに……立派なモノをお持ちだが……。
「とにかく……、エロ本なんてここにはないし、他の場所を漁っても面白いモンは出てこないから騒ぐのはここまでにしとけ。ここはお前の実家と違ってマンションだからな、騒いだら苦情が来るかもしれないし、なるべく静かに過ごせ。分かったな?」
「おっけい! FANZA見るときはイヤホン使うね!」
「FANZAを引っ張るな! てか見るな!」
「ふふん。動画じゃ物足りなくなったら、あたしに触ってもいいからね?w」
「へいへい、バカなこと言うのもそこまでにしとけ……いいからほら、お前の実家から軽く荷物が届いたりもしてるし、荷ほどきすんぞ荷ほどき」
「了解っ」
かくして、俺たちはリビングに戻って荷ほどきを開始した。
この自宅に俺以外の誰かが住み着くのは初めてのことだ。
先が思いやられる部分はあるものの……まぁ、引き受けたからにはしっかりやっていけるように努力するしかあるまい。
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