第10話 神性の獣
その夜。花恋の夢。
私は、夏の午後、どこかの海岸線沿いの、町の外れを歩いている。
道の向こうに、陽炎がゆらめいている。
さとうきび畑の傍で、私は麦わら帽子を被ったおじいさんに出会った。
おじいさんは何かを私に言っているのだけれど、その内容が聞き取れない。
どこか、違う言語で話しているかのような…
私はおじいさんに会釈すると、さらに道を歩いて行った。
すると、突然、私の体、いや、私を包む空間全体を猛烈な寒気が覆った。
世界が昏睡する。
…そこに、「一匹の獣」が、…否、‘‘神様‘‘が現れた。
それは一瞬の出来事だった。
「神様」は、私の脊髄系の神経と同化し、
私を刺し殺すかのような快楽と焦燥の渦に飲み込んだ。
それは一瞬の出来事だった。
別れ際、神様は「何か」を私に告げた。けれど、何を言われたのかが思い出せない。
神様は離れていった。世界に温度が戻る。
そして、私は夢から醒めた。汗をかいていた。
夕季の夢。
朝、阿波根町外れの白いトンネルの内に、朝の日差しが差し込んでいる。
そこには一つ、ドアが在って、そのドアは開いている。
中は、「遺構都市」へと通じていた。
そのドアの向こうに見えるドアも開いている。
中から、「人造の生き物」がいくつもいくつも、こちらに手をのばしていた。
俺は夢から醒めた。
と。
「おはよう、田中夕季」
と、「大ちゃん」の声をした目出し帽の人間が、朝の青空を背景に俺の顔を覗き込んでいた。
はっきりと目覚めると、俺は阿波根を見下ろす山の山頂にいるらしく、
眼下には町の眺望が見えていた。そして俺の付近には陣が敷かれていた。
目出し帽の人間が10人ほど。銃を持って立っている。
目の前にはカメラが。
そして、町中にサイレンが鳴り響いている。
「…どういう状況ですか、これは。」
「田中夕季、父親に言いたいことはあるか」
「大ちゃん、ですよね…」
「このカメラは夜羽側と回線が繋がっている。
言いたいことがあるならそちらへ言え」
「…無駄ですよ。俺を人質に取った所で、あの親父は来ない。」
「…果たしてそうかな?」
ラジオの音声が聴こえてくる。
「現在、「明石」が山間部を急速に前進中。間もなく阿波根町に到達します‼
阿波根町一帯、そして付近の地区の方は直ちに避難してください!繰り返します、」
繰り返される微振動。そして…山の向こうに、「あれ」が見える。
「そんな…親父の野郎」
「来たぞ。」
「なんてデカさだ…」
「構え。」
やがて、振動は極大になり、「あれ」が目前に現れた。
鳥たちが木々から一斉に逃げる。
屈んだ「あれ」の頭部から声がする。
‘‘迎えに来たぞ、夕季。‘‘
「撃てーッ!」
背後から銃弾が発射される。
「無駄だ」
そんなことをしても。
案の定、バリアーで弾き返された。
「やはりか…」
‘‘随分探したんだ。さぁ、父さんと一緒に帰ろう。‘‘
…やかましい。
‘‘夜羽の家族がお前を待っているぞ。父さんと世界を作り直そう。‘‘
うるせぇ…
‘‘夕季。‘‘
俺は、「明石」の両目を見据えて、小声で唱える。
‘‘明石、あなたの名前は明石頼子、俺の母親だ‘‘
‘‘夕季、私と共に行こう。‘‘
「ほっとけ、クソジジイ‼」
途端、俺の身体は光を放ち、空中に舞い上がる。
「明石」の頭に立った俺は、「明石」に「自己破壊命令」を下す。
「コマンド00。さよならだ。どこか人のいない遠くで、他の明石諸共消えろ。」
すると「明石」は、ゆっくりと俺を地面に下ろし、空へと舞い上がっていった。
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