第6話 自分

チャイムが鳴る。さて、午前中の授業が終わり、昼になった。

俺は中庭に出て、朝、台所を借りて作った弁当を広げる。

「いただきます。」

うん、我ながらいい出来だ。

こんな感じで昼食は終わった。


その後、午後の授業も終わり、帰る時間。

昇降口から出て、バス停まで向かう。そしてバスに乗り込む。

そこに、春野さんも乗車してきた。

「よっ、ゆっきー。」

「あっ、春野さん。」

「花恋でいいよ。」

「じゃ…花恋で。家こっちなの?」

「そ。本阿波根だよ」

バスが走り出す。

「──そっか。でも、昨日は驚いたよ。君が突然現れたから。」

「ふふ、でしょ。」

「この町は星空がきれいだ。転校してきてよかったよ。」

「そう思ってくれて、何よりですな」

花恋が急におじさん口調で話し出す。なんとも読めない子だ。

「ところでさ──ゆっきー。」

「何?」

「私がキミのこと、なんでも知ってるって言ったらどうする?」

「?、どういうこと?」

「耳貸して」

…きゅ、急にどうした?

一間、置いて。

「夜羽落葉(よはね らくよう)だよね、ゆっきーのお父さんって。」

「…え?」

「ごめん。…でも私、知っちゃったんだ。」

「…」

バスは橋を渡る。川面が見える。

俺の心は、静まり返っていた。

暗転。


物語の視点は、阿波根から「外界」へと移動する。

久化12年、夏。日本列島は、「明石」と呼ばれる人造兵器・数体によって破壊され、

日本は滅亡の危機に瀕しようとしていた。

その「明石」を製造した研究者にして、世界破滅の組織、「夜羽の黙示録」の長、

「夜羽 落葉」の姿は連日テレビや各種媒体で報道され、日本に知らぬものはもはや居なかった。

こんな噂があった。「落葉」には、その昔ある女性との間に設けた「一人息子」が居ると。

その息子は生きていたら、「17歳」くらいだと仮定されている。


…阿波根はかろうじて、「明石」の被害を免れている地域であった。

しかし刻一刻と、その魔の手は近づいてきているのだった。

俺は夜羽落葉の息子だ。

俺が6歳の時、母と親父…は別れた。

その後、母と俺は各地を転々としながら、逃亡生活を送っていた。

母も「組織」の一人だったから…

国に見つかれば、俺は「夜羽落葉の息子」として「処分」される。

そんな運命だった。

だから、身分を偽って、別人として生きてきた。

「夜羽雪」ではなく、「田中夕季」として。


逃亡生活の途中、母が捕まった。俺は母を見捨てて追手から逃げた。

そして寸手の所で、俺は阿波根に逃げてきた。

ここでまた、俺は別人として生きていこうとして、バレて、失敗した。

…次の行き先はどこにしようか。

俺の存在は、罪…

気づくと、バスが停車していた。

俺は無言で降りる。


「ゆっきー」

「本来、違うと言わなきゃいけないんだろうが、もういい…逃げ回る生活にはもうたくさんだ。

もう捕まったっていいや…町中に知れ渡らせたっていいよ…」

その時。なぜか突然抱擁された。

「大丈夫、夕季。私があなたを守るから。」

「…え? か、花恋…?何を言って」

そう言う花恋の目は、どこか寒気を帯びた、さっきまでの花恋とは別人のようなものであった。

「民宿にひとり、夕季を人質にして外へ連れ出そうとしてるやつがいる、気を付けて」

「?」

「じゃっ、またね、ゆっきー。」

途端、花恋は手を振って、夕暮れの中に消えていった。

……どういう、ことだ?

当惑の中、俺は、「なあしさす」への道を歩き出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る