第5話 FM123.4 from登校

二階に降りて、窓から自分の部屋に入る。

「…」

手には、サイダーの瓶が一本。何だったんだ、今の。

そう思いながら、忍び寄っていた睡魔に気付く。

寝るか…瓶を置き、目覚まし時計をかけて、ベッドに横になる。

…そうだ、ラジオつけてみるか。小机の上のラジカセをいじる。

「ザザーッ…ザ、ザーッ」

チューニングしていくと、ノイズはやがて音楽に変わった。

…いい音だ。音量を絞って聴いてみる。

明日は転校初日。という訳で、俺は眠る。


…深夜3:33分。ラジオから流れてくる放送。

「えー、現在、ザー…、は、○○県○○を南下中。

北部境界線にて、自衛隊と交戦中です。

今後の見通しは、ザー…、明るくな、ザー…ザー…

(ここでノイズで聞こえなくなる)」


…目覚ましが鳴っている。手探りで時計の上部を叩くと、音は鳴りやんだ。

時計を見ると、朝6時。起床の時間だ。

俺はベッドから立ち上がり、ズボンを履いて、部屋から出る。


一階では塚原さんが食事をしていた。

「おはよう。」

「おはようございます。」

「ま、ゆっくり食いなよ。」

「はい。」

座布団に座ると、手を合わせて「いただきます。」と唱える。

今日の朝御飯は、白米と焼き鮭と海苔、漬物、豆腐の味噌汁であった。

炊き立てなのか、白米は艶を帯びている。うまそう。

早速頂く。

「その漬物、となりの山田のばあちゃんから貰ったんだよ。うまいだろ。」

「すげぇ美味いです。」

「はは、後でばあちゃんに言っとくわ。」


…朝飯を終え、歯を磨き、その後制服に着替える。

色々準備をしていたら、もう予定の時間の5分前だ。

俺は「なあしさす」の玄関に出る。塚原さんと大ちゃんも来ていた。

「道わかるな?」

「ええ、転校には慣れてますから。」

「おう、昔の俺と一緒だな。じゃ、大丈夫だ。」

「夕季くん、これからの学校生活、楽しんでな。」

「ありがとうございます。大ちゃん。」

「はは。」

「よし、行ってきます!」

「おう、行ってらっしゃい!」


かくして、俺は高校へと歩き出した。

高校への道のりは、結構距離があった。

俺が滞在…いや、俺の住む「本阿波根」から南に下った所に、その高校はあった。

バスから降り、高校の校門を抜け、校舎へ。

まだ早いからか、生徒の姿はない。一階を右往左往して、見つけた職員室に入る。

「…」

教師たちは各々朝の準備している最中だった。

「おはようございます。」

「…ん?」

女性の先生が振り返った。

「おっ、田中くん。」

「どうも。田中夕季です。よろしくお願いします。」

「やっと来たかー。待ってたよ。」

この人は、「遠峰 貴子」(とおみね たかこ)先生。

転校手続きの時、一度会った。それ以来だ。

「へへへ、元気してた?」

「は、はい。」

「ならよかったー。」

…少し変な先生である。

「ホームルームまでまだ時間あるし。自己紹介の内容でも考えてたら?」

「…自己紹介か。」

「そうそう。‘‘アガんない‘‘ようにさ。」

「アガんない?…はぁ。」


その後。

「そろそろ教室行くよ。」

「わっかりました。」

遠峰先生の後について、階段を登る。やがて教室へ。なにやら賑わっている。

…ピンポンパン。チャイムが鳴る。

ガラガラ。扉が開かれる。

「おはよー。元気してた?」

遠峰先生の変わった挨拶の後。

「ここでビッグサプライズ!転校生の登場だ!」

先生自らアガらせに来てるじゃないですか…俺は教室に入る。

「ざわざわ…」

「ども。転校生の田中、」

「あっ、ゆっきーじゃん。昨日ぶりー。」

その時、あの子が手を振った。

「⁉(教室中)」

(か、花恋どういうこと…⁉なんで転校生の名前を?)

(昨日ぶりってどういうことだよ…)ざわざわ。

「ゆ、夕季です…よろしくお願いします…」

ヒャホーイ。

「田中の彼女~♪エビバリセッ、田中の彼女~♪」

「…」

教室中に響き渡る、謎の合唱。

「ええいおまえら、やかましい!」

ピタッ。

「という訳で転校生の田中だ。仲良くするように。」

「はーい。」


席に着く。しかもその席は、「春野花恋」の左隣。

「よろしくー。ゆっきー。」

「よ、よろしく。」

「んじゃ、私は寝るから。明日学校だしぃ~。」

「もう学校だよ!」

俺は早々にツッコミ役に回ってしまった。


「どういう関係なの?花恋ちゃんとは。」

隣の男子に話しかけられる。

「?…あ、ああ。昨日下宿先で偶然会ってさ。そこで顔見知りになった感じ。」

「そ。僕は真鍋。真鍋 轍(まなべ わだち)。よろしく。」

「ああ。よろしく。」

「じゃあ、授業始めるぞー。」

「「「はーい。」」」」

授業開始。

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