第4話 無限星空

鮎、とてもうまかった。夕食後の会話。

「早速、明日から高校か。」

「はい。阿波根高校に通うことになってます。」

「夕季くんは高2だよな。」

「はい。」

「まぁー、阿波根も年々少子化で、外からの生徒もあんまいねぇって聞くし、

人数は少ねぇかもしんないけど、面白いやついるといいな。」

「そうですね…」

俺は明日から高校だ。7月からの転校生。

予定では、ここから高校3年の終わりまで阿波根にいることになっている。

「なあしさす」には長期滞在することになる。


「さて、俺らはこれから歯磨いて寝るから。田舎の夜は早いのよ。おやすみな。」

「おやすみなさい。」


この夜は割と早くお開きになった。俺は、洗面で歯を磨いたあと、

二階の部屋に戻った。窓を開けると、夜風が舞い、夜空があった。

「お、この町って星空きれいなんだな」

天気が快晴だったのも手伝ってか、夏の満天の星空を見ることができた。

俺は星空を眺める。すると。


「ほーしーぞーらーはー、きーれーいーだーなー。」

窓の外から、唐突に、女性の声がした。

「?」

「ねえ、キミだれ?」

「うわっ⁉」

な、なぜか、目の前の窓枠に、女が昇って来た。

「だ、誰?なんでここに?」

「あたし?‘‘かれん‘‘っての。こっから屋根に登ると、

星空、すっごいきれいに見えるんだよ。」

彼女のロングヘアーが、風に舞っている。

「そ、そうなんか。俺はた、田中。」

「田中くんね。一緒に星、見る?」

「え?」

なぜか、俺は今、民宿の軒を伝って屋根に上っている。

「な、なにをやっとるんだ俺は…」

「まだ~?遅い~。」

「い、今行くよッ。」


屋根に登ると、そこには何にも邪魔されない、本物の360°のパノラマの、

壮大な星空が広がっていた。

「ね、きれいでしょ?」

「本当だ…」

「これ飲む?」

ん?…と、目の前にはサイダーが。

「うん。」

「星空見ながらのこれ、格別よねー。」

俺は蓋を開け、サイダーを喉に流し込む。炭酸が、鮮やかに弾ける。

「キミ、下の名前、なんての?」

「…夕季。田中夕季。」

「夕季くんか。あたしは春野花恋(はるのかれん)。花に恋だよ。」

「花恋さん、か。…ひょっとして、高校生?」

「そ。高2だよー。」

…ちょっと待て。

「阿波根高?」

「そうだよ。」

「…そっか。」

明日会うことになる、とはここでは言わないでおくか。

「あー、なんか眠くなってきた。」

花恋があくびをする。

「あたし帰るね~。明日学校だしー。」

…じゃあなんでここに?まぁいっか。

「…サイダーありがとう。いずれこの借りは返すよ。」

「いいよいいよ、気にせんといて。」

そして彼女は、別れ際にこう言った。

「じゃっ 夏なんで」

そう言って去っていく彼女の背中は、俺の記憶に鮮烈に残った。

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