第7話 新たなビジネス
新たなビジネスのきっかけは、サチコ自身がずっと感じていたことだった。
異世界の食事は、あまりにもお粗末なのだ。現世のサチコは決して食通ではなかったし、いたって庶民的な舌をしているつもりだが、それでもひどく
味付けは大雑把だし、やたらと塩辛いのは、塩、ニンニク、カラシなどの香辛料を多用するからである。素材の旨味を損なうほど香辛料を使うのは、食中毒を防ぐ意味合いもあるのかもしれない。
ただ、現世の薄味になれたサチコには、これが一般的な食事とは信じられなかった。
実は、サチコが転生後に受けた最も大きなショックは、二年前に亡くなった母の塩辛い味付けだった。とりわけ、シチューが塩辛くて閉口した。同じ量の水を飲まねばならないほどの辛さだったのだ。
異世界の人々は、少なくとも庶民たちは、食べる楽しみを感じていないように思われる。腹を満たすだけでいいのだろう。だから、食文化という言葉さえ存在しないのだ。
しかし、人間は食事なしには生きてはいられないのも事実である。
ここに潜在的なニーズがある、とサチコはずっと考えていたのだ。
三ツ星グルメを目指す必要はない。誰にでも手が出せるほど安価で、食べやすくて、癖になるような美味しさが望ましい。その上に、味付けや形状のバリエーションが出せれば、大きな訴求ポイントになるだろう。考えに考え抜いて、サチコは一つの結論を導き出した。
「粉もんでいこう」と。
つまり、小麦粉を主原料とした、たこ焼きやお好み焼きなどである。味付けは自由に変えられるし、食べやすい形状にしてやれば、おやつ・軽食にもなる。
食材に関しては心配ないだろう。異世界にも小麦粉はあるし、豚は家畜として飼われている。キャベツなどの野菜も同じである。粉もんと相性のよいマヨネーズも、卵黄や塩、植物油を使えば作ることができるはずだ。
ただ一つ厄介なのはソースである。野菜と果実、香辛料を使って、ウスターソースを作ってみたのだが、風味がイマイチなのだ。満足のいくものが未完成なので、今後も研究を重ねるつもりである。
最悪ソースなしでいくことも考えておく。もし、ここに母がいたら、烈火のごとく怒るだろう。現世の母は大阪出身だったので、ソースには一際こだわりがあった。お好み焼きをつくる時には、専用のソースを使うほどだった。
そういえば、お好み焼きを作ったのに、うっかりソースを切らしていたことがあった。あの時はどうしたんだっけ? マヨネーズと何を組み合わせたんだっけ?
その時、サチコの脳裏に閃くものがあった。
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