第8話 ハッピー焼き
ケチャップだ。母はお好み焼きに、マヨネーズとケチャップをかけたのだ。
ケチャップなら、トマトと調味料で作ることができる。少なくとも、ソースを作るよりも簡単なはずだ。より、高度な組み合わせを目指すなら、手作りマヨネーズと相性の良い手作りケチャップを発明すればいい。
いや、いっそのこと、マヨネーズとケチャップの風味を兼ね備えたものを開発すればいい。それを〈マヨップ〉と命名してもいいだろう。お好み焼きにぴったりのマヨップを発明するのである。
サチコは異世界に来てから、何度かお好み焼きを作った。父とショウは喜んで食べてくれたが、大絶賛だったというわけではない。現世の野菜と豚肉に似たような材料を使ったとしても、それは異世界風お好み焼きである。
何かが足りない、とサチコ自身も感じていたのだ。
マヨップが決め手になりそうな予感がある。例えば、トマトの酸味と甘みを最大限に生かせば、新鮮な味わいを出せるのではないか。もしかすると、それはお好み焼きというよりも、ピザに近いのかもしれない。
サチコは調理場にこもって、試行錯誤を繰り返した。ブレスレットの蓄えを切り崩して、新鮮な食材や原料を購入すると、試作品を作り始めた。マヨップを塗って、一口食べてみる。食感はお好み焼きに近いが、味わいはピザに近かった。
そうだ。ピザに近いなら、チーズを加えてみてはどうだろう。細切れにしたチーズは、お好み焼きに入れることもある。濃厚な味わいは、消費者ニーズにマッチするにちがいない。サチコには確かな手ごたえがあった。
試作品を作り上げるとショウや子供たちに食べてもらい、彼らの意見を取り入れて、さらに完成度を高めていった。ブレスレットの蓄えがなくなる前に、どうにか満足のいくものができた。
アニーの宿屋で試食会を開かせてもらった。アニーや宿泊客たちに食べてもらい、感想や意見を聞いた。反応は概ね好意的だったし、酒のつまみになることがわかったのは、大きな収穫だった。
「姉ちゃん、商品名はどうするんだ? ブレスレットと同じように〈願いの叶う食品〉かい?」と、ショウに訊かれた。
「ううん、そうじゃない。この食品を口にした人には、みんな笑顔になってほしい。ハッピーになってほしいの。だから、これは〈ハッピー焼き〉よ」
サチコは新たなビジネスを展開することを周囲に宣言した。ショウと子供たちには〈ハッピー焼き〉の作り方を叩きこんだし、道具屋の父には屋台を三台つくってもらい、鉄板などの調理ツールをそろえてもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます