第6話 一石二鳥


 偽物を手掛けていた連中と聞けば、ほとんどの人は目つきの悪い犯罪者を思い浮かべるかもしれない。だが、真実は小説より奇なりという。偽ブレスレットを作っていたのは、八歳から十二歳までの子供たちだったのだ。


 偽物業者は、ただ同然の労働力を使って荒稼ぎをしたのだろう。子供たちによると、目つきの悪い男に仕事を斡旋されたらしい。小汚い小屋で粗末なごはんを与えられ、昼夜を問わずブレスレット作りを命じられたとか。


 その上、手が後ろに回りそうだと知るや、子供たちの賃金を支払わずに、さっさと逃げてしまった。跡に残ったのは、途方に暮れた子供たち、行き場のない偽ブレスレットの山である。


「年端のいかない者を食い物にするなんて、絶対に捕まえて尻をひっぱたいてやる」

 そんな風にアニーは息巻いていたが、サチコはそれよりも、子供たちが不憫ふびんでならなかった。両親が亡くなったり親に捨てられたりして、身寄りのない者ばかりだったからだ。


「行き場のない子供たちをどうにかしないと。このまま放っておくことはできない」

 サチコは子供たちの面倒をみることにした。文字通り、衣食住の世話をすることにしたのだ。その代わり、労働力を提供してもらう。もっとも、労働条件に関しては偽物づくりの時よりも格段にアップする。


 サチコの考えには、アニーも賛同してくれた。それからの展開はスピーディーだった。腰痛の癒えた父ジャックに頼んで、宿屋の中庭に新たな小屋を作ってもらい、そこを子供たちの住処と作業場を兼ねたものにしたのだ。


 ブレスレット作りに関しても、子供たちは呑み込みが早かった。ショウの指導を受けると、すぐに出来の良い本物をつくることができたので、おそらく手先が器用な子供たちがそろっていたのだろう。質の高いものをキチンと作ってくれたのだ。


 こうして、ブレスレットの生産性は飛躍的に高まった。子供たちも美味しいものが食べられるし、生活が保障されているので、やりがいがあったのだろう。サチコが子供たちに救いの手を差し伸べたことは、結果的に大きなプラスに働いた。


 一石二鳥どころか、三鳥、四鳥を手に入れることになったのだ。サチコのビジネスは拡大して、ブレスレットの売り上げは三倍まで跳ね上がった。


 ただ、そこがピークだった。どのような商品でも成長期・安定期を終えると、衰退期を迎える。ゆったりと売り上げが下がり始めた。端的に言えば、〈願いが叶うブレスレット〉ブームの終焉なのだろう。


 サチコは、こうした状況を予期していた。だからこそ、新たなビジネスを速やかに展開させることができたのだ。


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