第5話 偽ブレスレット
サチコのブレスレットは装飾品であると同時に、もう一つの意味合いをもっていた。現世の言葉を借りるなら、付加価値である。物語といってもいい。「願いが叶う」というストーリーが魅力的であったため、異世界の人々の心を鷲掴みにしたのだ。
マーケなど影も形もないため、サチコの思惑は予想以上にハマった。第二弾、第三弾と倍々ゲームのように売り上げはうなぎのぼり。アニーの宿屋を起点として、〈願いが叶うブレスレット〉は大ブームを巻き起こしたのである。
しかし、「
どうやら、異世界にもパクリというものがあるらしい。ブレスレットブームをあてこんで、偽ブレスレットが出回り始めたのだ。ショウが知人から入手したそれは、本物と同じ木の蔓を使ってはいるものの、かなり粗雑な代物だった。
ショウはサチコに偽物を見せながら、
「こんなものを平気で売るなんて、恥知らずもいいところだ。道具屋の風上にもおけないね」と、息巻いていた。
「ひょっとしたら偽物が出回るかもって思っていたけれど、予想よりも随分はやかったな」と、サチコは平然と言ってのけた。
「えっ、姉さんにはわかっていたの? わかって放置していたの? 偽物を作っている連中は、僕らの尻馬に乗って荒稼ぎをしているのに、どうしてさ?」
サチコは首を傾げて、
「うん、どうしてだろうね。尻馬にのるなんて、私たちの商品を認めてくれた証。そういったところかなぁ」
「何だよ、それ。こっちの売り上げを横取りされるなんて、やっぱり気分がよくないよ」
確かに、ショウの言うとおりである。
サチコはアニーからも同じようなことを言われた。
「偽物を手掛けた奴は盗人だね。言わば、アイデアの泥棒だよ。そんな奴は百叩きなんかじゃ足りない。地獄に落ちてしまえばいいんだ」とまで言い切った。
「アニーさん、大げさすぎるよ」サチコが笑いながら、「でも、偽物を作った人たちには興味があるな。どうせ作るなら、もっと手間暇をかけないと。どんな顔をしているのか、一度会ってみたいよ」
「それは私も同感だよ」アニーは頷いて、「偽物づくりを手掛けた連中は、この手で捜し出してみせるよ」
その後もサチコのブレスレットは売れ続けた。偽物が粗雑だったため、かえって本物の良さが証明されたのか、一時的なブームに終わることはなかった。アニーの宿では定番商品になり、遠方から買い求めにくる客が増えたせいで、受注に生産が追い付かないほどだった。
そんな時、偽物を手掛けた連中の正体が判明したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます