第25話 魔王の正体①
「うまっ……うまっ。こりゃイケる!!」
「うん、ちょっと硬いけど脂身もおいしいわ。グッド!」
俺とシャロは肉を食いながらそれぞれ感想をもらした。本当に美味かった。
「意外とクセのない味で美味しいでしょう?味が落ちるので本当は焼き殺して仕留めたくなかったんですけど……」
クロエはちょっと遠慮がちだった。
「いやー十分だよ。普通に豚肉のステーキ並みにうまい!」
俺は解体から調理までさらっとやってのけたクロエに、称賛の意を込めてそう言った。
「コイツは王宮でもしょっちゅうなんか食っとるもんなぁ?」
クレメンスがクロエをからかう。
「た、食べてるだけじゃないですよー……ほら、城下の民に振る舞えば喜ばれますし――」
「あれを持って帰ってやれば彼らも喜ぶやろうな」
クレメンスは岩の上に残った巨大な食材を指差し上機嫌そうに笑った。
「それと、ちょっとでも魔導士のイメージを良くせんといかん!」
やや真面目な顔になってそう付け加える。
「え?魔法使いってイメージ悪いの?逆じゃね?」
俺は素直に疑問を投げた。
それを聞いてクロエも賛同する。
「モンスター退治や魔王討伐のメンバーとして魔道士は重要な存在のはずです。私も一般の方々には良い印象を持って頂いていると思いますが……」
ここでクレメンスはちょっと間をおいてから口を開いた。
「そう思うのはお前らが若いからだ。実際のところ長い魔法の歴史から見て本当に魔法使いが民衆に受け入れられたのはここ3~40年の話。ごく最近のことよ」
3~40年前?それを聞いて俺は何か引っかった。――ああ、たしか境界人が最初にやってきたのがそれぐらい前だってウェイバーかミシェルが言ってた様な……。
ちょっと聞いてみよう。
「なあ、それってもしかして俺達境界人が関係してる?」
「おお、その通りよ!俺ら魔法使いはそういう意味で境界人には感謝しとる。同時に恐れてもいるがね」
「3~40年前、境界人は何をしたの?」
シャロも疑問を投げかける。
クレメンスは顎髭を指で撫でながら答えた。
「俺ら魔法使いと魔法を使えない一般市民との橋渡しをしてくれた。あんまり市民に公にはできんが色んな技術を持ち込んでくれてな。そっちの『科学技術』ってのは凄いもんじゃあ」
「じゃあ昔、魔法使いは一般人と共存出来なかったってこと?そこが分からないわね」
たしかに……英雄視されるなら分かるんだけどな。
「その理由は俺らがお前さん達境界人を恐れるのと同じよ。強力な力を持ったものは恐れられる――ま、当たり前っちゃ当たり前かも知れんのう」
――そういうもんかー。
「それでもモンスター倒してくれるんだから、ありがたさの方が上回りそうなもんだけどなー……」
「ホントですよー。私達魔法使いがいなかったら昔の人達は魔王に滅ぼされていたかもしれないのに」
クロエも俺に同意する。
「ねえ、前から思ってたんだけど『魔王』って何者なの?過去に勇者か誰かが倒したんでしょ?今回また復活したってこと?」
シャロが今聞いた魔王については俺も同じく不思議に思っていた。よし、ここでしっかり聞いておこう。
クレメンスはちょっと考えてから答えた。
「んー、魔王っちゅうのは……まあ災害みたいなもんよ、何度倒しても必ず復活する。ほんで2~30年に一度、魔物を引き連れ町や村を襲ってくる。それを阻止するために王都では勇者や大魔道士、大剣士などを育成しとる」
「あ、私も魔導士育成学校の卒業者です!」
クロエは控えめに手を挙げてニコっと笑いながら自己主張した。
「お前確か首席卒業やったか?クロエ」
クロエの方を向き確かめるクレメンス。
「はい、でもそれはリアが辞めちゃったからですね。ちょっと悔しい……」
クロエは笑顔のままうつむいた。
身内の話になりそうなのを感じ取ったシャロが割って入る。
「ねえ、ちょっっっと話し戻すけど良い?勇者や大魔法使いは魔王を倒して戻ってきたわけでしょ?魔王に関する情報は何かなかったの?」
その質問にクレメンスはかなり険しい表情をしながら数秒考え込み、やっと口を開いた。
「……それがよく分からんのよ、姿もシルエットみたいで声も発しないから会話もできん。だがこちら側に攻撃はしっかりしてくるから敵なのは確かだ。魔王の目的も何者かも分からんまま結局最後は大魔道士が古代の極大魔法を使って死体も残らず消滅させたらしい。しかし何故か必ず復活する」
クレメンスは表情を変えず淡々と説明した。
「……ふーん、結局魔王の正体は謎のままってことね」
シャロはため息交じりにそう言った。
俺も魔王のことは知りたかったのでちょっと残念でもあった、まあしょうがないか。
俺はふと境界の方を見た。すると、世界樹の麓にあったはずのあの黒い穴は見事に消え去っていた。まるで元から何も無かったかのように。
本当に境界って消えるんだな……そのことも聞いておこう。
「あのさ、境界ってクレメンス達の科学魔法をかけたらその後はもう消えないの?ないと思うけど科学魔法を解除されて消えちゃったりとかしたら俺達すっげー困んだけど……」
「それは大丈夫だ。科学魔法の解除は大変だしそもそも解除する必要がない。唯一例外があるとすれば一つ――境界からやって来た人間が危険なやつだと後から分かり、ソイツが一旦向こう側に帰っていった場合に初めて解除しようという話になる。……それぐらいかのぉ?」
クレメンスは何か考えるように上を見上げてそう言った。
「なるほど、じゃあ俺達の境界が消えることはないんだな。とりあえず良かった」
安心した俺は残ったイノシシ焼肉の最後の一切れを頬張り、その味を噛み締めた。ホントに旨い!是非また食べたいぞ。
しばらくして、まずクロエが食べ終わり次に俺、クレメンス、シャロの順に全員食い終わった。
なんか皆満足したようなゆったりした顔をしている。
俺は手づかみで焼肉を食べるという珍しい経験ができたが、当然手は油まみれだ。
すると俺の前に30センチぐらいの水球がフワフワと飛んできた。
「どうぞ」
どうやらクロエの水魔法のようだ。俺はその水球に手を突っ込むと、クロエが作った水流により丁寧に手が洗われていく!クロエの魔法技術が凄いのか油汚れなのに手はめっちゃきれいになった。すげー!
「サンキュー!」
俺はクロエにお礼を言って隣のシャロをチラッと見ると、シャロも自分の水魔法で同じ様にして手を洗っていた。しかし油汚れが綺麗に落ちないようで、結局自分のハンカチで手を拭っている。
「やっぱり水じゃ油は落ちないわね」
この辺はやはり魔法使いとしての能力の差なんだろうか?
――それから数分後。一通り昼飯も終わり、俺とシャロは科学魔法班の二人と分かれることになった。
「じゃあな、またどっかで会おうぜ!」
俺は二人に言った。
「はい、タイチさん、シャーロットさんもお元気で」
クロエは笑顔で返してきた。
一方クレメンスは真剣な表情で俺に近づいてこう言ってきた。
「タイチよ、お前のその強力すぎる力。くれぐれも慎重に扱うようにな!約束やぞ」
その言葉からは本気で俺を心配している感じが伝わってきた。
俺はちょっと戸惑ったがすぐに笑顔で返事をした。
「ああ。もちろんそのつもりだ!」
そのあと俺とシャロは二人に手を振って世界樹を後にした。
帰る途中シャロはこんな事を言ってきた。
「あのクレメンスって爺さん。魔王について何か隠してるわね。多分……」
「え?なんでそう思うんだ?」
「なんか微妙に質問をはぐらかそうとしてるように感じたのよ。まあ勘みたいなもんだけどね」
「ほーん」
正直俺にはよく分からなかった。まあこの世界も色々あるんだろう。
それより大事なのはこの後だ。この交渉で数百万円が動くかもしれない!
「ウェイバーなんて言うかな?」
俺はシャロに聞いてみた。
「アイツのことだから確実に拒否されると思うわ。後は私達の演技次第ね」
「やっぱり?よし、頑張ってみるか!」
俺は気合を入れてシュミレーションを開始した。
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