第21話 デヴォンシャー
ちょっと嫌な気分を引きずりつつも俺はその虐殺者の『光の能力』のことが気になった。
「なあ、その殺人犯の光の能力って形は俺のと違うと思うけど材質的にはこんなやつであってる?」
フワッ……。
俺はあの光の輪を5つ出した。
「おおっ!これが噂に聞く光輪か!すげえな」
ウェイバーは光輪を見上げながらちょっと恍惚とした表情をしている。
しかし良かった。殺人犯と全く同じ形だとなんか誤解されそうだもんな。
「ウェイバー、これって何なの?」
俺の直球の質問にウェイバーは答えづらそうにしている。
「何?……と言われてもな。俺には使えないし分からん。恐らくなんかの魔法の一種だろう」
「ふーん。境界人のベテランのアンタでも知らないのか」
「おいおい俺はここに来てまだ3年だぜ?まだベテランって程ではねーよ」
ウェイバーは謙遜して笑った。
「境界人が最初にここに来たのはいつ頃?」
「……今から50年前。最初の境界人の名前はアルフレッド氏――と文献にはあったな」
「へー、意外とオルターでの境界人の歴史って浅いんだな。もっと前からいるのかと思ってた」
ウェイバーは俺の光の輪を見上げ、あらためて褒めてきた。
「これは境界人なら誰でも出来る技じゃないんだ。俺も使えないし、むしろ境界人50年の歴史の中でも4人しか使い手のいないめちゃくちゃレアな能力だ。良かったなタイチ!」
「……まあそれは。嬉しいけど」
今まで嬉々として使っていたこの技も、この村の惨状を見た後だと何か怖く感じる。
「でもこの技って反則級に強くないか?魔法使いと比べてもさ」
魔法の天才であるエノキでさえも初見で拘束できてしまったワケだしな。
ウェイバーは顔を引き締めてこう言った。
「そうだろ?現時点では魔法より強力だと俺も思う。しかし強すぎる力を持つってことは厄介なことでもあるんだ。ちょっとぐらいじゃ大したことないが、強すぎると問題が出てくる」
『境界人って皆残虐で冷徹な奴らじゃなかったの?』
『ペロド村虐殺事件の印象が強すぎて、境界人=危険人物のイメージが先行してるんだ……』
俺はバロルでミシェルと勝負したときの見物人達の話を思い出す。
「うんまあ、境界人が恐れられるのは分かる気がする」
「そうだろ?だから初めてこっちに来た境界人はすぐに『調査』されるんだ。オルターに入れても大丈夫な奴なのかをな」
なるほど、俺もあんたらに『調査』されたわけか。
「一つ疑問なんだけど調査するなら境界を境界警備隊の本部とかに作れば良くない?すぐに囲えるし危険人物にも対処し易いじゃん?」
ウェイバーはニッと笑って答えた。
「無理だ」
「なんで?」
「オルターと地球を繋ぐ境界は意図的には開けられないんだ。一応『サモナー』と呼ばれる定位置に境界を開けられる魔法使いが一人だけいたんだが、開けられるのはオルターからオルターへの境界だけだ――あとその人は32年前に死んでいる」
え?
「いやいや、俺と香織は最近出来た境界からこのオルターに来たんだぜ?一体誰が開けたんだよ?」
「オルターから地球への境界は2パターンあって、自然発生か魔王側の『サモナー』が開けたかのどちらかだ、――と言われている」
「魔王!?」
「ああ、王室と魔法協会の魔道士達の調べではそうらしい。だからオルターのどこに境界が発生するかは誰にも分からない。もちろん地球に繋がった境界には後から俺達が『ハイド』等の科学魔法をかけにいく。地球人側に見つかると大混乱だからな。これだけでも大変な作業なんだぜ?それに加えて境界人の調査やスカウト……今は圧倒的に人手が足りん!」
ウェイバーは半ば愚痴のような言い方になっていった。要するにこの人はかなりハードな仕事をしているらしい、なんかちょっと気の毒になってきた。
だが、それとは別に一つ気になる事があった。
「なあ、境界ってオルターと地球以外にも繋がんの?」
「ああ、というよりオルターにいる魔王側の『サモナー』が魔界から強力な魔物を呼び込もうとして、魔界に開けるはずのゲートがたまたま地球に開いてしまった――という説が有力だな」
「はー……」
なんか急に色んな情報が入ってきて混乱してきた。
しかし俺はこのオルターの謎を解明するために来たんじゃない。――現金を得るためにここに来たんだ。初心忘るべからず!
「ウェイバー、仕事は受けるから換金所へ急ごう!」
「お!やる気十分だな」
そう言うとウェイバーは村のハズレにある小屋まで俺を案内した。
アーチ状のレンガの入り口をくぐるが中には特に何もなかった。
「ここは……?」
ウェイバーは何もない空間に手をかざして俺に説明した。
「タイチには見えないだろうが、実はここに『転送用境界』がある。まだサモナーが生きていた時に作ったものらしいな。行き先はデヴォンシャーという境界人の町だ」
「え?」
「もう少し前だ」
ウェイバーはその転送用境界があるらしい場所に俺を誘導する。
「よし、行け」
ウェイバーは指をパチンと鳴らした。すると俺の視界は急激に真っ暗になった。
――ズダッ。
そこは四方を白い壁に囲まれた部屋だった。天井には現代の蛍光灯らしきものが明るい光を放っている。見回すと一つだけ出入り口があったので、そのドアを開けて外に出ようとした。
ちょうどその時、ウェイバーがその転送用境界から出現したので俺は振り返った。
「タイチ、一度この境界を通って境界に認証されたからこれからはお前もこの境界を自由に行き来できるぞ」
「おおー。やった」
これで稼いだリルをいつでも換金出来るぜ!俺はほくそ笑んだ。
そのままドアを開けてみると、そこはまるで現代の屋根付きの商店街のようだった。
さっきの部屋を見たときも思ったが、この辺りの建築物や道路は全て現代のものだ。鉄筋コンクリート製の建物に石畳風の舗装がされた道路……。正直びっくりした。
「あの転送用境界もオルター側の人間に発見されないようにしている。極力、地球の文明をこちらに持ち込まない為にな」
ウェイバーはそう説明した。
しかし単純な俺はこう考えた。
「なんでそうしてんの?もっと車とか色々持ち込んだら便利でいいじゃん」
「そりゃだめだ。オルターはオルターで独自の文化がある。地球の文明の利器を持ち込んだり、商売したりするとそれを壊すから基本的に厳禁だ」
うーん、なんかどっかで同じ様なセリフを聞いた気がする――思い返してみるとそれは魔法屋の店員との会話だった。
『魔法の威力は強力ですので、それを商売の道具として使用されますと競合を圧倒し市場を破壊していしまいます』
まあ、なんとなく分かる気はする。
しかしウェイバーはこうも言った。
「ただ、これはオルターに出入りし始めた初期の境界人がやった事だが、当時のここの食い物が地球と比べてその……不味すぎてな。地球の野菜や果物の種、家畜等に関してだけは当時大量に持ち込まれたらしい」
それを聞いてハッとした。香織の言ってたことだ。
『現代の野菜ってほぼ全部品種改良で美味しく栽培しやすくなってるハズだけど、この世界でそんな野菜が存在してるのっておかしくない?』
あー理由が分かった。……ってか昔のオルターの食い物どんだけ不味かったんだよ……。
「お待ちかねの換金所はこっちだ」
俺はウェイバーに案内されるままに歩いていき、とある建物に到着した。
――「オルターセントラルバンク」――
アルファベットでそう書かれた看板が目に入ってくる。どう見ても異世界にある様なもんじゃなかった。
俺達は自動ドアを通り中へ入ると、境界人とみられる人が三人ほど見える。
ウェイバーと俺を見るとそのうちの一人の西洋人っぽい女性が話しかけてきた。歳は若く20歳ぐらい?Tシャツに短パン姿でセクシーな出で立ち、背は160センチぐらいで、スラリとした体型だ。なんとなく営業スマイルのようなニコニコとした表情をしている。
「こんにちはウェイバー、そちらは新入りかしら?」
「ようシャロ!こいつは日本人のタイチだ。まだこっちに来て一週間の新人さ、色々教えてやってくれ!」
ウェイバーはハキハキとした口調でそう話す。どうやらこの子はアメリカ人のようだ。俺も挨拶しとくか。
俺はやや硬い動きで手を上げこう言った。
「お、おっす……俺はタイチ、よろしく」
「こんにちはタイチ。私アメリカ人のシャーロット!シャロでいいわ。よろしくねー」
流暢な日本語でこう話すシャロ。……ん?ここで一つ疑問が出てきた。
「なあ、今思ったけどオルターの人間って全員日本語話してるよな?あれ不思議なんだけど」
とウェイバーに尋ねる。
「ああ、それなんだが――太一、お前は今みたいに俺やシャロが日本語を話しているように感じているかも知れんが、実際に俺達が喋ってるのは日本語じゃなくて各々の母国語だ」
「え?」
「オルターでは日本人なら日本語に。イギリス人やアメリカ人なら英語に。という具合にそれぞれ母国語に脳内で変換される仕組みだ」
「……それは科学魔法のおかげで?」
「ああ。言語ってのは結局のところ脳内の電気信号だからな」
うわー。めっちゃ便利じゃん科学魔法!しかし同時に脳を勝手に支配されているようで怖くも感じる。
「……もしかして人間を意のままに操れたりとか出来るんじゃねーの?」
ウェイバーは即答した。
「それは絶対に無理だ。人の意思決定にはアクセス出来ない!それができりゃ地球人を片っ端から科学魔法で兵隊化して簡単に戦力を増やすことが出来る……まあ出来てもやらねーけどな」
あー、確かに!……と思うと同時にウェイバーがある程度良識がある人間で良かったと思った。
ここでシャロが質問してきた。
「ねえ、タイチは魔道士系?それとも物理?」
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