第18話 換金方法とオルターの謎
――即断だった。だから俺は組織で働くのは向いてないんだよ!
「……ウェイバー、あんた俺の頭ン中見たんだろ?昔っからそういうチームプレーとか苦手なんだよ俺は」
「待て待て!いくら科学魔法でもお前の過去までは分からん。あくまで分かるのはその瞬間のお前の感情や感覚――楽しい、悲しい、腹立たしい、嬉しい……そういった感情が当事者の様に伝わるってワケだ。名前を知っているのはバロルのギルドで話を聞いたからだな」
「その瞬間の感情や感覚?なんか大雑把だなー……」
もっと俺の全てを理解されるような魔法かと思ってた。
「今の感覚が大事なんだ!お前が安全な人間かを調査するためにはな」
「安全な人間?俺が?」
基準でもあるんだろうか。
「ああ、もちろん!でなきゃわざわざスカウトしにこねーよ!はっはっは」
ウェイバーは豪快に笑い、そしてこうも言った。
「俺も今までこの『読心』と呼ばれる科学魔法で色んなヤツの脳を見てきたが、お前……優秀だぜ?ここまでオルターの戦闘員向きなヤツは滅多にいない」
優秀って言われて悪い気はしないけど、やっぱり会社員にはなりたくないな。
「……ふーん。ま、悪いけど諦めてくんね?俺は冒険者とかyoutuberとか個人事業主しか出来ない社会不適合者なんだ」
ウェイバーはちょっと考え、上を向いて意味深なセリフを吐いた。
「そういえばお前、お友達の女がいるな」
俺はハッとしてウェイバーの顔を凝視する。
ウェイバーは続ける。
「お前、その子好きだろ?『読心』で読み取ったから確かなハズだ。……てかその子も『読心』で心を読んだが、両思いだったぞ!おめでとう」
それを聞いて俺は猛烈にニヤついた顔になった!我ながら単純だぜ。
「そ、そうなの!?……ま、まあ、俺は好きだったけど……アイツもそうだったのか……はは、いやー……はっははっ……」
こういうのを他人に知られてるってのがめっちゃ恥ずかしいな……。でも嬉しい……。
俺が気持ち悪くはにかんでいるとウェイバーはちょっと怖いことを言ってきた。
「その子のところにも俺と同じ様な奴が調査に行ってるかも知れん。何事もなければいいがな……」
「……」
「……」
緊張した空気が流れる。
「何だそれ?アイツを人質にでもする気じゃないだろうな?」
俺は怒りを含んだ目線をウェイバーに向ける。
ウェイバーは下を向き、フゥーと息を吐いた。そして新たな提案をしてきた。
「安心しろ、女に何かするつもりは一切ない。……ところでお前、組織に所属するより冒険者の方が良いというならこういうのはどうだ?」
「境界警備隊が冒険者ギルドに委託している仕事の一部を直接お前に依頼する。依頼報酬もギルドより少し割高にしてやる。難易度は高まるが仕事内容は冒険者ギルドのものとほぼ同じ。これならどうだ?」
お、良いかも知れない……!やってることはほぼ冒険者だしな。
良いなー、この話受けようかな――。そんな風に考えながら、俺はもう一つの問題である稼いだ金の換金方法について頭を巡らせた。
「良さそうなんだけどさ、その……オルターでいくら金持っててもこっちに換金するのにかなり手間取りそうなんだよなー。ウェイバー、何か良い換金方法知らね?」
俺がそう言うとウェイバーはあっけなく解決法を提示してきた。
「ん?オルターで日本円に換金すればいいだろ?」
――俺はその言葉に衝撃を受けた。
「え?……あっちで換金できんの!?」
「できる。あっちの世界には境界人が集まっている『デヴォンシャー』という町がある。そこに換金所がある」
「ええー!?換金所て……そんなんあったんかい!?」
「そもそも個人で向こうのリルを円に換えようとすると相当苦労するハズだが……。一体どうするつもりだったんだ?」
「いやー……、今10万リル金貨から金を抽出して買取ショップに売ろうとか色々考えてた」
とりあえず俺は今考えている換金方法を素直に話した。
「はっはっはー!めちゃくちゃ換金率の悪い方法だな。手間も税金もかかる、まあ俺も昔やろうとしたけどな。ちなみに10万リル金貨から上手いこと金を全部抽出できたとしてそれを全部買い取ってくれたとして、いくらになると思う?」
「え……さあ?……」
「たった5万円程度だ」
少なっ!?マジかよ……。
「それが換金所なら70万円ほどになる。ちなみに現金以外に銀行振り込みもできるし、ドルやユーロにも換えられる。さっき言った境界警備隊の依頼請負人になってくれるならそこに案内してやるぞ」
俺はウェイバーに手を伸ばした。
「俺、向こうの世界って素晴らしいと思うし良い人達とも出会えたし冒険も楽しいしもっとオルターに貢献したいと思ってたんだ!」
ウェイバーはニカッと笑って俺の手を握り返す。そして何やら紙切れを取り出した。
「素直なヤツだな。いいぞタイチ。お前にその気があるなら来週の日曜日にバロルのここに来い。その間に考えておいてくれ」
「明日いくわ」
「早っ!い、いや、嬉しいが新しい口座の用意に大体一週間かかるんだ。それまで待っててくれ。じゃあな」
そう言って公園から去ってゆくウェイバー。その後姿を眺めていて、とあることを聞いてみたくなった。
「なあウェイバー。境界警備隊のエノキってやつ知ってる?」
ウェイバーは若干吹き出して笑いながら答える。
「なんだその食材みたいな名前は!?悪いが知らねーわ」
「あ、そう。有名だと思ったんだけどなー」
「じゃあな」
ウェイバーは後ろ向きのまま手を振りそのまま夜の闇に姿を消した。そしてふと思い出した。
(そういえばエノキって俺が適当につけた名前だったな……)
俺はそのまま公園でスマホを取り出した。
「大丈夫か?変なやつに絡まれてないか?」
香織にそうメッセージを送信した後すぐ帰宅し、部屋で色々な疑問を紙に書き出してみた。
1、境界警備隊は何と戦っているのか?
ウェイバーが境界警備隊に俺をスカウトしに来てるってことは、それだけ戦力が欲しいってことだよな?
何のために?何かと戦うため?強いモンスターか?……いや、多分エノキも言ってた『魔王』か?
『魔王』がいるなら『勇者』とか『賢者』とかもいるんじゃないか?でも今んとこ『魔法使い』しか見てないな。それにあっちの――オルターの人間からそう言うワードを聞いた事もない……。
『魔王』って何者?なんですぐ攻めてこない?
2、なんで『俺』をスカウトするのか?
今回のスカウトの件だけど、ウェイバーは境界人(地球人)な訳だから、別に俺に拘らなくても他の地球の格闘家とかスカウトした方が良くないか?ウェイバーが「こいつをオルターに連れて行こう」って思ってその地球人と一緒に境界に入れば行けるんだろ?なんでわざわざ俺なんだ?
3、境界に対する対処方法がおかしい?
というか境界って科学魔法が使われてるんだろ?って事はおそらく誰かが人為的に作り出してるってことだ。だったらなんであんな山の中に境界を作ったんだ?もっと境界警備隊とか王室騎士団?とかの本部にでも作って境界人が来たら即囲い込めばいい。
なんでわざわざエノキに単体で尾行させたりウェイバーに脳を読み取らせたりそういう回りくどいことをしてるんだ?
4、オルターの上層部はなぜ情報を隠しているのか?
ウェイバーの話を聞いて分かったけど、魔法の違法行為がすぐバレるのは十中八九科学魔法の一種なんだろうな。でも魔法の天才であるエノキが科学魔法の事を知らないっておかしくないか?境界警備隊の上層部は何の意味があって科学魔法の情報を遮断してるんだ?謎だ……。
5、境界人のコミュニティー?
それと境界人(地球人)の集まってる場所があるってのも不思議な話だ。オルターに現代人がいっぱいいるならもっとオルターも発展してそうなもんだけどなー。車とかさ……。どう見ても中世か近代ヨーロッパぐらいにしか見えない、なんで?
6、俺の光の輪、あれ何?
エノキによれば魔法ではないようだけどじゃあ何だ?
「……なんか頭痛くなってきた」
この辺で俺は考えるのをやめた、分かるわけが無い!
スマホを眺めると香織から返信が届いていた。
「変なやつって何?私、家帰ってから外出てないから誰とも会ってないよ?」
ああ、そういえばそうだったなー。
俺は安心して一息つき、それに返信した。
「こっちには来たぞ。そいつも境界人で色々知ってた。向こうにリルを円に変えられる換金所があるらしくて、今その口座を作ってもらってて出来るのに一週間ぐらいかかるらしい。ちなみに10万リルが70万円になるって!」
「ええ!?70万円!すごい……私も行きたいなー」
「来週の日曜日にバロルまで来てくれって、香織来れるか?」
「来週の日曜?……あーごめん。家の用事でちょっと無理かも……」
「残念だな―。ウェイバーって奴と色んな話をしててさ……」
と、ここまで文を打って思った。香織には電話で全部話しとこう。
俺はスマホを操作し通話に切り替えた。
「――というわけだ」
「へー――意外とオルターに出入りしてる境界人って多いのかもね?一週間後が楽しみじゃない?」
「ああ!換金できれば借金一瞬で全部返せるぞ。やったな!」
「良かったー。ヘコムカード使わずに済みそうね。来週の日曜まで何するつもり?」
「小屋建てながらyoutubeの撮影。ウェイバーの話では依頼報酬は向こうのギルドよりも境界警備隊の方が割高らしいから、ギルドで依頼受けると損かもしれないからさ」
「分かった。頑張ろうね!」
……という感じで通話は終わった。
そしてここで俺は思った。
――オルターの謎は謎のままでいいや!とりあえず金だ!――
そう思うと俺はスッキリ眠りにつけたのだった。ZZZ
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