第15話 この世界の魔法は規制が多い

 

 俺達4人はクラリア山から下山し、無事に冒険者ギルドに帰ってきた。



 ギルドに着くとお待ちかねの報酬の受け渡しが行われる!……と思っていたが、すぐに貰えるワケではないようだ。



「では、レッドゴブリンの皮膚と角、ゴブリンソードの牙、オーガの角……以上お預かりします。これらの鑑定が終了し次第報酬をお支払い致します。その際、ゴブリンソードとオーガの依頼手数料はこちらで引かせていただきます」


 ギルドのお姉さんはそう説明した。


「ねえ。報酬額……」


 隣の香織につつかれた。どうも俺がお姉さんの胸ばかり見ているのが気に入らないようだ。


「ちなみにレッドゴブリン以外の報酬額っていくら?」


 お姉さんはノートのページをめくり金額を答えてくれた。


「えー、現在ゴブリンソードが4万リル。オーガのほうが28万リルになります」



 マジか!?



「うおおおお!合わせて――32万リル!ひゃっほーうー!!」


 ミシェルの言った通り報酬額はかなり高額だった。特にオーガ!俺は歓喜の声をあげた。


「やったー!すごーい……!トマト換算で320万円だって!ヤバー!」


 香織も大興奮して俺と手を合わせる。イエーイ!


 どうしよう、一気にまとまった金が入っちゃったぞー!……いやまだ貰ってないけど落ち着かないぜー。


「よーしちょっと曲がった鉄パイプ買い替えよう!」


「お!太一さん。剣とか買っちゃう?」


「いや俺、あれ気に入ったから今度は鋼鉄製の鉄パイプ買うぜ!」


「いやいや太一……なんで鉄パイプなのよ?もっと強くてかっこいいのあるでしょー?」


 お互いニヤニヤが止まらないぜ。ふふふ。



 俺と香織が興奮を隠さず話し合っているとエノキが横から呆れたように入ってきた。


「まったく、二人共浮かれちゃってさー……。ってゆーかカオリは魔法何買うか決めてんの?」


「え?あー、ちょっと分かんない。オススメある?」


 俺は雷。理由は前言った通り。


「風」


「風だな」


 エノキとミシェルが同時に答る。残念、雷じゃなかった……



「風が一番習得が簡単だし、適性ある奴も一番多いし、魔法具の値段も安いぞ!」


 エノキはそう説明した。


「『風』は防御面でも役に立つんだ。今回の戦闘でも使ったように弓矢や軽い投石を逸らしたり、空気圧の壁で相手の打撃を緩和したりな。もし適性があってレベルが上がれば竜巻で攻撃もできるし威力としても他の魔法にそこまで劣らない」


 ミシェルも戦闘での効果を助言してくた。



「じゃ、とりあえず風の魔法具買うことにするね。いい?太一?」


「お好きにどうぞ!」


 俺は魔法には口出ししないつもりだ。



 などと会話していたら受付から呼び出された。


「タイチさん、鑑定が終了しましたのでこちらへどうぞ!」


「はーい!」


 俺はものすごい笑顔で飛び跳ねるように受付に向かった。しかし――。


 俺はてっきり硬貨がどっさり用意されていると考えていたのだが、受け皿に置かれた硬貨は意外と少なく7~8枚しかない……大丈夫か?なんか不安になってきたぞ……。



 受付の姉さんは受け皿を俺の前に差し出して言った。


「ではこちら、今回の討伐報酬から手数料引きまして、合計31万8000リルになります」


 ほっ。どうやら杞憂だったようだ!俺は安堵の表情を浮かべた。


「それと、今回でタイチさんの討伐モンスター数が3体、指定モンスターのオーガを倒しているので冒険者ランクはEからDとなります。おめでとうございます!」


 お姉さんは追加で説明してくれた。


「あ、ありがとう!Dランクってのがどの程度かよく分かんないけどなんか嬉しいわ!」


 俺はとりあえず素直な気持ちを表明した。


 お姉さんはニッコリ微笑んで言う。


「Dランクは冒険者の平均的なランクです。今後もがんばってくださいね!」


「はーい!」


 俺も笑顔でそう答えた。



 そしてその硬貨をポケットにしまい3人の元に戻る途中、いま受け取った硬貨の中に金色の硬貨があったことに気付いた。


「なあ、これ……この10万リル硬貨ってもしかして金貨?金きん含まれてる?」


 とりあえずミシェルとエノキに質問してみる。


「10万リル金貨は一応金が含まれてるハズだぞ。純度は低いらしいけど」


 エノキが即答した。


「そういえばエノキお前この前金貨を自慢してたな」


「……ああ、100万リル金貨ね!あれは純度めっちゃ高いけど記念コインだからお金としては流通してないんだなー。残念でしたー!」


 なんか勝ち誇ったように言うエノキ。


「実は俺、お金じゃなくて『金きん』も欲しいんだ……生活のために」


 それを聞いて不思議そうにミシェルが尋ねてきた。


「生活のため?……というと今そちらの世界の仕事だけでは食っていけないということかな?」


 嫌なとこを付かれた。


「い、いやー……まあ、ちょっと、そんな感じっていうかー……」


「いやいやアンタ今ニートでしょ!」


 香織に突っ込まれる、事実だがやめろ!ニートという言葉は俺に効く……。


「ニートって聞いたことないな、どんな職業よ?」


 エノキも俺に追い打ちをかけてくる。――違う!俺は仕事辞めて今は求職中なだけだ!


「あーもーうっせーな!……とにかくどこの世界でもお金は必要って事だ。――こっちと一緒!」


 と適当に誤魔化す。一応日本に帰ったとき金きんの相場確認しとこう。


「……ま、まあとにかく魔法屋行ってみようぜ」




 というわけで俺達は一旦ギルドから魔法屋に移動した。




「いらっしゃい!」


 例の愛想のいいお兄さんが出迎えてくれた。


「また来たぜ!『風』の魔法具買いたいんだ」


「ありがとうございます!こちらです」


 お兄さんはにっこり笑って俺と香織を案内する




 一方ミシェルとエノキはそれぞれ違った目的で店内の魔法具を閲覧し始めた。


 ミシェルは冒険者として、エノキは魔法使いとしてそれぞれの目線で魔法具を観察しているようだった。




 お兄さんが俺達に聞いてきた。


「一応お聞きしますが魔法は冒険者として使用されるということで間違いないですね?」


 香織はすぐに答えた。


「はい、でも他にも色々便利に使えそうですよね」


「……というと?」


 香織は何かを思い出すような仕草をして例を上げた。


「例えば風魔法で体を押してもらいながら速く走って移動したり、あと具体的には思いつかないけど他の商売とかにも応用が効きそうでしょ?」


 お兄さんそれを聞いてハッとしたような表情を見せた。


「あ、一つ言い忘れてました。魔法を営利目的で使用するのは禁止されてます。使用すると魔法協会から魔法使用権限の剥奪や罰金などの罰を受けます」


「ええ!?」


 俺と香織は同時に驚きの声を上げた。


「魔法の威力は強力ですので、それを商売の道具として使用されますと競合を圧倒し市場を破壊していしまいます」


「あー、まあ確かに……」


「でも……バレないようにこっそり使ったりしたら?」


 香織は俺も気になったことを聞いた。


 お兄さんは眉をひそめて言う。


「そう思うでしょう?でもなぜか絶対バレます。なのでくれぐれも魔法はモンスター相手の攻撃手段として、もしくはあくまで個人の為に初歩的な魔法――例えば風魔法で暑さをしのぐとか、水魔法で手を洗うとか――その程度に留めておいて下さい」


「思ったより魔法って厳重な扱いなんだなー」


 俺は正直な感想を述べた。



 そこへ、その話を聞いていたエノキが横から口を挟んだ。


「でも例外はいるぞ。境界警備隊と王室の騎士団は任務中なら無制限に魔法を使えるんだ!」


「そうなん!?なんで?」


 エノキはちょっと得意になって言う。


「そりゃーまあ、それだけ危険な任務も多いからさー。いちいち規制されてたらこっちの身がヤバいもん。それにいずれは魔王も攻めてくるらしいし」


 ――なるほど、そいつらは地球でいうところの軍隊みたいなもんだな、と納得した。ってかやっぱり魔王っているんかい。



 香織は話の続きでお兄さんに弁明した。


「あ、一応大丈夫です。私は冒険者以外する気ないので。商売の話は知らなかっただけです」


 良かった……と言う感じでお兄さんは引き続き説明をはじめた。


「安心しました。では引き続きご案内いたします。こちらの4万5000リルの『風』魔法具ですがいかがでしょう?適正があった場合、大岩を動かせるレベルの竜巻が出せます!」



「いいじゃん香織。これにしようぜ」


 俺は適当にそう言った。


 香織は、遠慮がちに聞いてきた。


「いいの?結構高いけど……」


「良いよ。この兄ちゃんのオススメなら実際良いやつなんだろ?」


 俺はその店員に軽いプレッシャーをかける。店員はニッコリ微笑んで説明を追加した。


「はい、値段にしては魔法の威力は強力な方です。まあ適性の有無までは保証出来ないですが」


 なんか上手く売りつけられているような気がするが……まあいいや、考えるの面倒いし。



「じゃ、これで!」



 これがこの世界で購入した初めての魔法具だった。

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