第14話 魔法と謎と


 それを聞いたミシェルは、


「ん?やっぱりタイチとカオリは境界人なのか?」


 と自然に俺達に問いかける。



 俺は香織と目を合わせた。そして同時にミシェルを振り向いて潔く白状した。


「ま、まあ実はそうなんだよ、な……」


「うん……そうなんだよね……」



 ミシェルは気まずそうにしている俺達を見て、


「あ、いやさっきも言ったが私は別に境界人に悪いイメージはないぞ。むしろ逆だ」


 とフォローしてくれた。


「境界人を極端に怖がっているのは中年から高齢の方々だろう。なんせ事件があったのは3~40年前の話だ。私は生まれてもいない」


 俺と香織も20歳だからもちろん生まれていない。しかしそんな昔の事件の恐ろしさが未だに色濃く伝えられているってのは……、よっぽど事件の衝撃が強烈だったんだろうな。



 ここでエノキはこんな事を言った。


「ってか情けないよなー魔法が使えるヤツも居るのに、そんなぽっと出の人間一人に負けるなんてさー」


 いやエノキお前……。


「思い出させてやろうか?」


 フオオオオオオォン……。


 俺は光輪を一気に複数個出した。数えると6つあった。……ん?6つ!?前は3つしか出せなかったのに、……ああ、さっきのレベルアップでか!



「うげっ!やめろっっそれ怖いっ!」


 エノキは冷や汗をかきながら後ずさった。


「はっはっ、トラウマになってんじゃねーか」


「おお!?タイチ……これは、この光る輪は一体なんだ?」


 ミシェルが興味津々で聞いてきた。よーし、一つお見せしよう!


 俺は適当な岩を見つけ光輪をはめた。そして一気に縮めると岩はパキパキバキン!と砕けて小さい石片になった。うん!明らかに前より威力は上がっている。


「おお!素晴らしいな。しかし、なぜさっきオーガに使わなかった?――ああ、私がいたからか。すまん」


 ミシェルは申し訳無さそうにしたがアンタは何も悪くない。


「ま、これからはこのメンバーなら隠すことなくこの技を使える。エノキが暴露してくれて良かったかもな」


「ふんっ!」


 エノキは何か不満な様子だ。


「なんだよ?もしかしてお前、魔法より強そうな技使える俺に嫉妬してんのか?」


 そう言うと悔しそうな顔で俺を睨んでくるエノキ。


 ははっ。コイツ素直で単純だからからかうと面白いな。



「言っとくけどっ。昔の魔法はもっと威力があって使い勝手も良かったんだからな!呪文の詠唱とかも無かったし!!」


「え、そうなの?昔って……誰かに聞いたのか?」


 エノキはちょっとうつむいて答えた。


「……ウチが小さい頃、大魔道士だったひいおじいちゃんが言ってた」


「ふーん、今の魔法って劣化してたのか……」


 俺は正直あまり興味はなかったのでそれ以上聞かないことにした。



「……」


 しばらく皆無言になった。――アレ?何の話してたっけ?


 香織が口を開いた。


「あ、じゃ、じゃあさっきの話だけど……もし私が魔法使えるようになったら教えてね!エノキ」



 エノキはちょっと間をおいて真顔でこう答えた。


「……おっけー」


「ありがと!私頑張るね」


 香織は安堵した表情でやる気を表明した。



 そういえば魔法具を買うのに結構なお金がいるんだったな。今回みたいに複数匹倒した場合どうなんだろ?


「なあミシェル。今俺達レッドゴブリン以外に色々倒したけどコイツ等も金になんの?」


 ミシェルは即答した。


「なる!むしろ後から倒したゴブリンソードとオーガの方が断然報酬が高い、特にオーガはかなり高額だったはずだ」


「マジ!?やったぜ!うっひょーー」


 高額と聞いて正直ワクワクが止まらない。


 隣の香織を見るとキラキラと目を輝かせていた……現金なやつめ。俺はもう一つ質問した。


「あと、倒したモンスターなんだけどさ、あいつらの死体ってギルドまで運ばなきゃ駄目かな?討伐した証明として」


 ミシェルは冗談めかして笑って言う。


「いや、それぞれモンスターごとに特徴的な角とか牙とかを持って帰ればいいよ。巨大なオーガの死体なんて運ぶだけでも報酬が欲しいぐらいさ」


「ははっ確かに!」




 ――といった感じで色々有意義な情報交換を交わしながら俺達はバロルへ帰ることにした。それにしても今日は色々あったなー。



 やや重たい足取りで俺達4人は山道を下りていた。


 俺は倒したモンスターの一部の入った袋を眺めているうちに一つ疑問が生まれた。


「他の冒険者に襲われて、これ……モンスターの牙とか角とか奪われたりとかしないかな?」


 ミシェルはあごに人差し指をあててちょっと上を向いて答える。


「んー、そういう輩は冒険者資格の一発取り消しはもちろん自警団に引き渡されて禁錮プラス罰金だから誰もやらんと思うが……」


 いやー、それはさすがに性善説が過ぎるんじゃね?


「奪ってから相手を殺したら証拠も残らないしバレないんじゃねーの?ギルド側も依頼者が死んでもモンスターに殺されたと思うだろうし」


 ここで歩きながら眠たそうにしていたエノキがあくびをしながら横槍を入れてきた。


「ファー……、分かってないな―タイチは。誰が、どこで、どんなモンスターを狩ったとか、どんな魔法を使ったとかは全部上層部に把握されてるんだよ!……多分ね」


「えっ?」


 ミシェルも含めた他の3人は同時に驚きの声をあげた。



 真剣な顔をしてエノキは続ける。


「私も昔冒険者やってた頃、依頼受けてモンスター狩りまくってたけどさー。ギルドにたまたま今の職場の上司が来てたんだ」


「……うん」


「まあ、その上司にスカウトされて今の境界警備隊に入ったんだけどねー」


 ミシェルは境界警備隊と聞いてちょっと驚くがあえて黙っていた。


「なんかその上司がウチの行動ぜーーんぶ把握しててさー。いつどこでどんな魔法使ったとかバッチリ言い当てられてさ。正直怖かったよ、最初は尾行されてるとか疑ったけどそういうの一切なかったし」


 そこで香織が聞いた。


「でもそれってエノキだから、……エノキが注目されてたからじゃないの?他の冒険者一人一人まで見られてたわけじゃないんでしょ?」


 エノキはニヤッと笑った。


「ウチも最初はそう思ったよー。やっぱ天才は目立っちゃうよねーって思ってた」


 ……息を吸うように自慢するエノキ。面倒くさいので特に突っ込まない。


 そしてエノキはまた真面目な表情に戻った。



「でも違った!他のどんなヤツもみーんな事細かに行動がバレてたんだ!で、そんとき思ったよ。――この人(上司)やべーって……」


 そこまで聞いてちょっと怖くなってきた。しかし逆にこうも思った。



「でもよーエノキ。それで冒険者同士での盗みとか殺しみたいな犯罪が抑制されているって考えたら逆に頼もしくねーか?」


「私もそう思う」


 香織は俺に同意してきた。


「私もその派だな。特に不都合もないし、治安が守られるのは良いことだ。行動を把握されているというのは気になるがそういう魔法があるんじゃないのか?」


 ミシェルも俺の意見に賛同してくれた。



 皆の意見にものすごく渋い顔をするエノキだった。


「魔法って本来、ウチらの身の回りの自然現象を人の意思の力で無理やり起こすものなんだ、――でもさ、人の動きを監視する自然現象って何?ありえなくね!?」


「いや知らんがな」


 そもそもエノキ以外の3人にとって魔法の細かな種類とか正直どうでもいい。しかしエノキはまだ喋りたいことが残っているといった感じで、ちょっと嬉しそうに笑いながら話し続けた。


「私はさー、そういうのを知りたいと思ったから警備隊に入ったんだ。そこで出世すれば必ず何か情報がつかめる。そんで今の魔法をもっと良いものに出来るかもしれない」


 エノキは目を輝かせ、少年のように夢や強い好奇心を秘めたような目をして俺達に問いかけた。



「ね!それって超ワクワクしない?」



「……」


「……」



 唯一笑顔でコメントしたのは香織だった。


「エノキはホントに魔法が好きなんだね」


 エノキはちょっと照れた様に答える。


「……あ、あたりまえじゃん」


 香織はエノキの正面に立って笑顔のままエノキを褒め称えた。


「私、何かに向かって一生賢明頑張る人って凄いと思うし応援してるよ!」


 エノキは気恥ずかしさを誤魔化すように香織に言い返した。


「な、なんだよカオリ!そんなことよりさっさと魔法使えるようになって来いよな――ったく私、弟子を取るようなタイプじゃないっちゅーのに……まったく……」



 そういう二人の姿を見て、俺はほっこりするのだった――。

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