第13話 エノキと再会


「な、何だアイツ!?」


 ソレはさっき戦ったゴブリンよりさらに巨体のモンスターだった。4メートルはあるように見える。


 山道を下から駆け上がってくるが、その音の大きさだけでも強敵!と予感させるに十分な迫力だ。



「あれは……オーガ!なんでこんなところに!?」


 ミシェルが叫ぶ。


「え?もしかして見た目通り強い奴?」


「ああ、冒険者でいうとAランク相当だ」


「え?アンタたしかCだったよな?」


 いざとなったら俺が光輪を出すしかない。しかし俺達の正体が……でも死んだら元も子もない、――か。


 など、色々な考えが頭の中を交錯する。その時だった――。



「グオオオォッ……」


 オーガが走ってきた。巨体の割に速い!そして俺めがけて巨大な棍棒を振り下ろした!


 これは流石に鉄パイプでは受けきれない――、ので身をかわした。


 棍棒はドゴッ……と響く音と共に地面に叩きつけられていた。


「今だ!」




 俺とミシェルは大振りした相手のスキをついて、先ほどと同じように左右両面から攻撃!


 しかしオーガは右手に持った棍棒をそのまま横に振り払い、それがミシェルを直撃する!


「がはっ……」


 ミシェルは腕と脚でなんとかガードはしたものの、そのままフッ飛ばされ岩に激突した。


 それとほぼ同時に俺は渾身の鉄パイプの一振りをオーガのアキレス腱めがけて放った。もちろん両手持ちだ。



 ドスッッ!



 手に持った鉄パイプはくの字に曲がり、オーガの脚からは紫の体液が漏れる。


「ギェアアア……」


 うめき声を上げるオーガ。よし、効いてるな!


 思わぬ強烈な攻撃をくらい、俺を警戒したのかオーガは30メートル程先にいる香織に襲いかかった。まずい!人質にするつもりだ――。俺は光輪を出すが間に合わない!!



「香織ーーー!!」



 その時だった。ガララララッという轟音と共に雷がオーガに直撃した!



 ドオオオオオオン……。


 シュー……。



 オーガの体からは雷の熱によって、体液の蒸発によると見られる大量の湯気が吹き出ていた。そしてその時点でオーガの意識は失われていた。


 オーガはそのまま香織の数メートル前にズドンと倒れ込みピクッピクッと痙攣している。


 俺はそのオーガの背中に飛び乗り頸椎めがけて曲がった鉄パイプを振るった。するとバキッという音と共にオーガの体はピクリとも動かなくなった。


「勝った……のか?……それとさっきのあの雷はなんだったんだ!?」




 ――そう考えている内に俺の体は光りだした。これは前も経験したレベルアップの発光だ!


 その嬉しさとミシェルの体の心配と香織のメンタルの心配と謎の雷とで頭が混乱してきた俺。


 しかしミシェルは流石に経験豊富なだけあってフラつきながらもすぐこちらへ歩いてきた。



「はあっ、はあっ……よ、よくやったな。流石だタイチ……」


 だいぶ息切れしているが致命傷レベルではないようだ、良かった。


「大丈夫そうで安心したよミシェル。しかし今の雷一体何だったんだ?」


「……分からん、カオリ……ではないしな」


 ミシェルはちらっと香織の方を見て言った。


 当の香織は感情を失ったかのように呆然としていた。まあ無理もない。



 ……ここで俺はまた別のモンスターが現れるのを警戒し、あたりを見回した。


 すると誰かが歩いて来るのが見えた!その姿は小さかったが油断は全く出来なかった。


 俺達は身構えた。この状態でまた強い敵が出てきたら今度こそヤバい。俺とミシェルは緊張の面持ちでその人物を見つめた。



「おいこらー」


 そいつの方から何やら聞こえてくる。


 なんかどっかで聞いた声だった。あっ……。



 ソイツは一瞬でそこから50メートルほど離れた俺達の前まで走ってきた!


 同時にビュオオーと大きな風の音があたりに響く。


「エノキか!」


 格好も前と変わらず魔法使いというより盗賊っぽい。しかし前見たときより何か風格みたいなものを感じる。


「タイチー。今レベル3つぐらい上がっただろー感謝しろよ―」


 眉を釣り上げ偉そうにふんぞり返って俺を指差すエノキ。そういえばこういう奴だったな。



「じゃあやっぱりさっきの雷はお前の魔法だったのか?」


「あったり前じゃん、他に誰がいんの?」


 ミシェルが不思議そうにエノキを眺めているが、やがて笑顔になって謝辞を述べた。


「助けてくれてありがとう、感謝する」


 ミシェルはなんか大人だな。


 対してエノキは横を向き、腕を組んで少しバツが悪そうな仕草を見せた。


「助けたっていうか……、勘違いすんなよ?アンタ等じゃオーガの相手はきつそうだったし、しゃーなしっていうか……フン!」


 どっかのエリート戦士かお前?


「しかしあのレベルの雷撃魔法を撃てるとは、相当な使い手とお見受けする。名はエノキ……?でいいのかな?」


「それはタイチとカオリが勝手にそう呼んでるだけだよ!ま、呼ばれ方とかどうでも良いしエノキでいいよ」



 ここで俺は単純に気になっていたことを聞いた。


「っていうかエノキがなんでここにいるんだ?」


 エノキは目を見開いて答える。


「そう、それだよ!私あれから上の人に怒られたんだぞ。お前のせいだタイチ」


「は?意味分からん」


 エノキは腰に手を当て俺と香織を指差し、なぜか笑顔で成り行きを語りだした。


「最初会ったとき私、アンタとカオリを尾行してたじゃん。んでタイチに見つかって光の輪で拘束されたじゃん」


「……う、うん」


 光輪のことは言うな!ミシェルに勘付かれる……と内心思った。


「でも二人共危険な奴じゃなかったし、その後カップラーメン食わしてくれたじゃん?んで、それをそのまま上司に報告したら『なんですぐ尾行がバレるんだ!』って怒られちゃってさー!これもタイチが私の尾行に気づいたせいだからな!」


 いや理不尽すぎる。


「だから数日どっかで尾行の練習してこいって言われて……そしたらたまたまバロルにいる2人を見つけてさー」


 なるほど、そういうことか。とりあえず俺は何も悪くねーだろ……。


「そしたらなんかミシェルと一騎打ちが始まったりしてさー、私見てて超楽しかった!あははっ」


 話しながら笑い出したエノキを見て、コイツ本当に上司に言われたこと反省してんのか?と思うのだった。……まあ今回は俺達にバレてないから上手くなってるのかも知れないが。



 ここでミシェルが口を開く。


「エノキは私のことは知っているのかな?」


 そういやミシェルはエノキに自己紹介してないよな。


「一応ギルドの冒険者のBランク以上とCランクの一部は記憶してるよ?でもさっきオーガをミシェルが倒してたら絶対レベルアップしたと思うし、ギルドに帰ったらBランクに昇級できたかもね?」


「――かもな。しかし私よりタイチのランクが適正でなさすぎるからタイチが仕留めて良かったと思う」


 ミシェルは相変わらず心に余裕があるな。



 3人で色々話していると、そこへ今まで座り込んでいた香織が歩いてきた。


 その魔法少女風の格好を見て真っ先にエノキが反応した。


「あはっ、カオリお前なんだその服!それって――」


 エノキが余計なことを言おうとするのを遮ってカオリはエノキの両肩を掴んで言った。


「エノキ……ちょっとお願いがあるんだけど!」


「な、何だよ?何か怖いぞお前?」


 エノキの言う通りたしかに普段見せない迫力だった。どうしたんだ?



「魔法教えて!」



 香織の口から出たのは以外なものだった。


「え?」


 香織は続ける。


「このままじゃ私ただの足手まといじゃない!だから魔法のこと色々教えて!」


 俺は驚いた。てっきりもう戦いに参加しなくなると思ってたのに……。


「ええ!?ウチそんなこと言われたん初めてなんだけどー。え、えー!?」


 エノキはどうしていいか分からないといった感じだ。香織の顔がガチすぎて即断ることが出来なかったようにも見えた。


「エノキにも仕事があると思うし空いた時間でちょっとでもいいから、お願い!!」


 エノキは腕を組み悩ましげな顔をして言う。


「いやー、でも魔法ってほら才能が全てじゃん?私は元から全属性の魔法が使える天才だったから何も苦労しなかったけど、――っていうか今香織って何の魔法使えんの?『風』?『水』?」


 ナチュラルにマウントを取りつつ香織に問いかける。


「ない。適性も分かんない。――でもやる気はある。このままじゃ何か負けっぱなしみたいで悔しいっ!」


 お前のそのたまに見せる男みたいな思考回路、俺は結構好きだぞ。


「じゃとりあえず魔法屋で買って試してみてよ。何が出来るか分かんないんじゃ教えようもないしさー」


 まあそうだな。そこまでは良かった……、がエノキの次の一言が俺と香織の背筋を凍らせた。



「それに二人共同じ境界人なんだからタイチの光の輪みたいにカオリも何か出来るんじゃないの?魔法以外のさ」



 あーミシェルの前で全部言っちまいやがった――。

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