第12話 ゴブリンとの戦い


 んんんん……どう答えよう?いっそ正直に言っちまうか?いやでも――。


 そのとき周りを見渡すと人々の顔つきがおかしいことに気づいた。


 さっきまでまるで「新しい用心棒が来てくれたぞ!」という期待の眼差しで俺を見ていたのに、今は警戒するような表情になっている。



 香織は適当に

「あ、あーなんか私聞いたことある。この世界のどこかに境界っていうのがあってそこから外の人間がやってきて……その中にごく稀に殺人鬼みたいな危険な人間も来たりするとか……」


「お、俺も聞いたことあるなあ。ヤバい奴もいるもんだよなーうん……」


 この辺はすべてエノキから聞いた話だった。



 ザワザワ……


「――どうやら境界人じゃないみたいだな」


「全く、ちょっとハラハラしたぜー」


 ……等と周りの空気はやや緩んだようだ。やっぱり俺達は境界から来ましたとは言えないな。


 ミシェルは少し上を向き、「そうか」とだけつぶやいて何かを思い出すように話しだした。


「疑ってすまない、私が今まで見てきた人間の中で1人だけ桁違いに強い人間がいたんだが、その彼に話を聞いたところ『境界人』だと言っていた」


「へー」


 正直に言うんかい……。


「ちなみに彼は周りが言うような危険人物では無かった、それどころか私は彼に助けられたぐらいでむしろ感謝している」


「へー」


 いいぞ!境界人の評判をもっと上げてくれ。



 ザワザワ……。


「あれっ?境界人って残虐で冷徹なんじゃなかったのか?」


「いやいや、むしろ逆でほとんどがこっちの世界に色々貢献してくれてるって話だったが」


「アレだよ……ペロド村虐殺事件の印象が強すぎて、境界人=危険人物のイメージが先行してるんだ……」


 周りの見物人も各々違った意見を交わしていた。


 誰だよそんな虐殺事件とか起こした奴……。



 ミシェルはあらためて俺を見て言った。


「そして今の君はその彼と比較しても遜色ないほどの強さに思えたんだ」


 まあ同じ境界人だしな。


「境界人って強いんだなー」


 自分で言ってて白々しくて恥ずかしくなった。嘘は苦手なんだよ。




 ミシェルはしばらく何か考えていたが、思い出したように俺達にこう言った。


「よしっ!約束通りレッドゴブリンの討伐に同行しよう。すぐに行くかい?」


「ああ、もちろん!」


 俺は笑顔で返した。


 ってかミシェル意外とフットワーク軽いな。そんでいい人だ、助かるぜ。


 俺は隣りにいる香織に声をかけた。


「おう、行くぞ魔法少女!」


「魔法少女はやめてー!!」


 香織は気恥ずかしそうに俺を叩いてくる。ははっ、なんか楽しいな。



「ん?そういえばお連れの娘は魔法使いか。何を使えるんだい?」


 ミシェルが香織に尋ねるが、香織は慌てて否定する。


「いやっ、私魔法全然使えないです。この服はたまたま防御力が高かったから買っただけです!」


「そうなのか。だったらせっかくだ、私の後ろにいると良い」


 おお、ありがてえ!正直香織はギルドにいてもらおうと思ってた。


 香織を守りつつ戦うのはかなり大変そうだしな。あ、そういや自己紹介忘れてた。


「俺の名前はタイチ、んでこいつはカオリ」


「――タイチにカオリか。了解だ」



「あと一つタイチに言っておきたいんだが、初めてで戸惑うかもしれないが敵には絶対に容赦はするな!相手が何者であれモンスターはモンスター、全力でトドメを刺しておかないと逆にこっちが死ぬ。いいかい?」


「オーケー。相手が人に近い形のゴブリンでも全力で殺す……うん、問題ない!」


 俺はいよいよ異世界で本気の戦闘に参加するという日本ではありえない事態に少しずつ興奮してきた。


 この時、俺は自分に強さに自信があったせいでこの依頼は成功するとしか思えなかった。いや、別にフラグとかではない……よな?




 俺達3人はギルドでレッドゴブリンの場所を聞き、早速討伐に出かけた。


 ――クラリア山という山の山腹にソイツは生息しているらしい。



 そこは木々に囲まれた山道で、いかにもゴブリンが出そうだった。


 で、俺達3人は現在1時間ほど歩きまわっているが、一体どこにいるんだ?



「なあ、なかなかレッドゴブリン見つかんないな。こんなもんか?」


 ミシェルに聞いてみた。


「こればかりは運だな。すぐ見つかる場合もあれば泊まり込みで狩る場合もある」


 マジか……なんか楽なイメージだったのに。


「まあレッドゴブリン自体は基本的に弱いモンスターだから、1対1で君の強さならまず圧倒出来るはずだ。問題は他のゴブリンも数匹引き連れている場合――」


 そこまで言うと先頭のミシェルは足を止め、俺と香織に止まれの合図をした。



「いるな」



 ミシェルは道の前の岩陰にいるゴブリン2体が弓を構えているのを発見したらしく、1~2秒ほど魔法の詠唱した。


 彼女の足元を見ると魔法陣が出来上がっていた!


「これからゆっくりあの岩場に近づく。私がこの風魔法を使ったらタイチはあのゴブリン2匹をダッシュで攻撃しに行ってくれ」


「お、おっけー」


 ってか魔法も使えたのかこの人!




 それから俺達はゆっくり歩き、岩場に近寄っていく。


 同時にゴブリン達の弓がしなっていくのが見て取れた。


 ――ビッッッ!


 矢が放たれる音がした!!


 ビュオオオオーーッ!


 ほぼ同時にミシェルの風魔法で俺達に向けて放たれた矢が横方向へ吹き飛ばされる。


 ミシェルは俺に目で合図した。


「うおおおおおっ!!」


 俺はダッシュで次の矢をつがえようとするゴブリン達の前に到達し、鉄パイプで一振りする。すると二匹のゴブリン達の首から上が吹っ飛んでいった。よしっ!!



 次に岩場の上方に目をやると、……いた!


 さっきの2匹とは違い体が赤い。きっとコイツだな!



 俺の姿を見たレッドゴブリンは奥の洞窟に逃げようとしていたので、俺はその場にあった野球ボールぐらいの石を全力で投げつけた。


 その石はゴブリンの背中に直撃し、めり込む!ゴブリンは「ギョオッ」という叫び声をあげて倒れた。



 すぐにそこにダッシュし、のたうち回るゴブリンの首めがけて俺は鉄パイプを振り下ろした。


 ザンッ!レッドゴブリンの生首が転がる。


「……うおおおおーっ、やった!」


 依頼モンスター討伐に初成功だ!俺の鼓動は高まった。


 そして俺はやや躊躇しながらもゴブリンの生首を掴み上げ、香織とミシェルの方を振り返った。しかし――!



 香織とミシェルにが襲いかかろうとしていた!!何だアイツ!?


「ぎゃー!」


 悲鳴をあげてミシェルの後ろに隠れる香織。俺も行かねば!


 そのデカブツは剣と棍棒の二刀流、体格はゴブリンの倍ほどある。


 早速ミシェルに斬りかかる。ミシェルは剣でそれを受け流す。


 ガキィン!


 しばらくそのモンスターの攻撃を受け流し続けながらミシェルは叫んだ。


「タイチ!コイツの後ろに回れ。挟み撃ちだ!」


「おう!」


 2対1の利点を活かすぜ!


 俺は素早くソイツの後ろに回り込んだ。そして2人で一斉に攻撃を仕掛けた。


 そのデカいやつは両方から接近されうろたえながら、いそいそと俺とミシェルを交互に見ていた。この時点で勝負は決まっていた。



 ザザン!



 両方からたたっ切られ敵のデカい体は3つに分断された。


 ふうっ……



 俺はミシェルのもとに歩いていく。


「ミシェル、コイツは?」


「コイツはゴブリンソード。力はある程度強いが知能は低い、油断しなければDランク冒険者でもそこそこ戦える相手だ」


「へー……」


 倒したモンスターがあまり大した奴じゃなくてちょっとガッカリ。


「モンスターによっては頭のいいやつもいる。今の局面、敵にしてみれば挟み撃ちだったろ?」


「うん」


「その場合2人のうちどちらか一方に全力で突進しながら攻撃するか、一旦横に逃げるなりして私達から距離を取るのが正解だ」


「今のコイツは私達両方をまとめて相手しようとしただろ?だから簡単に負けた。もちろんそれだけの強さがあれば別だがね。戦いにおいて次にどう動くかという判断力は常に必要だ」


 なるほど、勉強になります。


「そういう戦闘分析を日頃からやっとおくといい。タイチならBランクぐらいはすぐ行けるハズだ」


「分かった。やっぱアンタと来て良かったよミシェル!」



 ……ってか俺と香織だけだったら普通に最初の弓矢でやられてたんじゃね?


 そもそも弓矢って俺の装備でどうやって防ぐんだ?




 とりあえず俺は顔面蒼白になって地面にペタンと座り込んでいる香織に声を掛けた。


「大丈夫かー?」


 それを聞いて香織はフラッと立ち上がりそのまま俺の前まで歩みを進め、


「だっ、だっ……大丈夫なわけあるかー!」


 ――というなり俺に抱きついてきた。


「怖い怖い怖いーやだーもういやだー!」


 震えながら俺にしがみついて叫ぶ。安全志向な香織にとって今のは相当な恐怖体験だったようだ。


 うーんまあ気持ちは分かる。どっちかって言うと俺の方が普通じゃないからな。と思いつつ背中をさすってやる。


「最初はこんなもんだよ」


 ミシェルもそう言っている。



 しばらくそのまま香織が落ち着くまで待っていたその時だった。




 ――ドオン、ドオン。と遠くから何かの足音のようなものが聞こえだした。

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