第10話 魔法具と武器と魔法少女?

 

 香織はちょっと戸惑っていた。


「バロルかー、……新しい小屋はどうするの?」


「後からやる。そんなすぐ動画出すわけじゃないんだろ?」


「まあ、そうだけど」


「よし、じゃ出発!」


 俺はやや強引に香織をバロルに同行させた。


 この時の俺の高揚感は凄まじく、ゲームでいうと主人公のレベルが上がり、技のスキルも上がりいよいよこれから強敵に挑戦!――といった感じのワクワク感だった。


 異世界最高!




 ――そして俺はまたバロルにやってきた。当然前回の4980リルも持っている。


「とりあえず魔法屋にいこうぜ。ちなみに売ってるか知らねーけど俺が香織にオススメするのは雷系の魔法だ」


 香織は俺のいきなりの雷魔法推しに戸惑いの表情を見せる。


「え?なんで雷?」


 香織は当然のようにそう聞いてきた。


「いや、雷って電気じゃん?」


「うん」


「いずれ小屋にポータブルバッテリーとかを持ち込むと思うんだけど、雷魔法が使えたらそれで充電出来るんじゃないかなーと思ってさ」


 香織はそれを聞いてちょっと吹き出した。


「えー!?雷で充電ってそんな……できるの?そのバッテリー壊れない?」


「いや、まあ雷をそのまま使うのは無理だけど、+-の極性をしっかり維持して電圧を100ボルトぐらいに安定させることができれば出来るハズだぜ。俺、実は電気工作とかも得意だから任せてくれ!」


「へー、電気詳しいんだ太一。意外だねー」


 俺は笑顔で香織の肩に手を置いて言った。


「節電出来るかどうかはお前にかかってる。電気ウナギになるんだぞ香織!」


「何それヤダー!」




 ――などとふざけあって歩いているといつの間にか魔法屋に着いていた。


 キィー……とドアを開け中に入る。


「いらっしゃい!」


 とカウンターから声を掛けてきたのは長髪にマントの様な長いパーカーを着た若い男だった。いかにも魔法使いというような風貌だった。


 とりあえず質問してみよう。


「初めて来たんだけど。雷系の魔法ってある?」


「おお!ありますよー。3万リルから取り扱っております」


 ここで香織の方を向いて、


「なあ、エノキの話じゃ雷魔法は5万リルからとか言ってたのに……もっと安いみたいだな?」


「うん、でも3万リルって――どうなんだろ?5万リルのより威力が弱いのかな?」


 とりあえず魔法自体について聞いてみよう。


「実は俺らあんまり魔法に詳しくないんだ。でさ、基本から教えてほしいんだけど」


 と言うと。店員の男は笑顔で説明してくれた。


「あ、初学者の方でしたか。ではご説明致します」


「魔法は人が1日掛けて行う仕事を、ものの数秒で達成させるという素晴らしい力ですが。一から魔法書を理解し魔力を行使できる人間はかなり少ないです」


「へー」


「そこで大抵の方はお好みの魔法の簡易習得が可能な魔法具をご購入頂いてから魔法を使用されています。その魔法具を販売するのが私共のような魔法店です」


「お、なるほど!じゃ全く魔法書とか読んだこと無い人間でもその魔法具っていうのを買えばその日から魔法を使えるんだ?」


「はい、その通りです。しかし大抵の方は高額な魔法具を買おうとしません。本人に『適性』があるか分からないからです」


「適性?」


「ええ、まず代表的な魔法分類として『火』・『雷』・『風』・『水』・『土』等があるのですが――」



 男はちょっと間をおいて続ける


「その適性がなければ各属性における『モンスターを倒せるレベルの魔法』を使うことが出来ません。そして適性があってもほぼ1属性で、複数の魔法属性に適性がある人ほとんどいません」


 なるほど、買ったはいいけど適性なくて実用で使えませんでした――ってなると大損だもんな。


 そこで香織が質問を投げる。


「でもその魔法具を買い占められる財力があれば全部買って1つ1つ試すってことも出来るんでしょ?」


「ええ、もちろん!そうして頂けるとありがたいですがね。こちらとしても」


 男はしっかり営業スマイルをこちらに向ける。


「やっぱり金か……」


 俺は結局その結論に到達した。



 そのときふと思った。


「ってかそれじゃ、あいつ――エノキって実は凄いやつなんじゃね?」


「話聞く限りじゃそうよね。あの子、私達が見ただけでも『雷』と『風』の2種類を同時に使ってたっぽいし。なんか他の魔法も使えそうだったし」


 それを聞いて店員の男は目を見開いた。


「ええっ?それは凄い……お、お名前はご存知ですか?」


 さっきまでの落ち着いた態度から一転してえらく慌てている、


「あいつの本名……覚えてる?」


「いや、ごめんさっぱり」


 だよな。


「でも確か、――なんか境界警備隊の……新入りだとか言ってたような……?」


「ええええ!?」


 めっちゃ叫ぶやん、この人。


「境界警備隊の方なのですか!?それはすごい……どういったご関係ですか?」


 ここで香織が俺に耳打ちする。


「……ねえ、私達が境界から来たってこと言わない方が良くない?」


「ああ、俺もそんな気がする」


 どうもこの世界では『境界』という言葉に大げさな反応をされることが多い。


 注目を浴びると面倒くさいので目立たないように秘密にしておこう。


「いや、たまたまソイツが魔法使ってるとこに出会って魔法すげーなって話をちょっとしてさ……」



 香織が作ったような笑顔で付け加える。


「そうそう、カッコ良かったよねー。で、私も魔法使ってみたいなーと思ってここに来ました!」



 ――とりあえず即席でそういう設定になった。


「あー、そういうことですか。運がいいですねー、境界警備隊は選ばれた方々のエリート部隊ですから。普通はなかなかお近づきになれないんですけどねー」



(エリート!?……あいつが?)


 境界警備隊というのがますます謎組織に見えてきた。



「今日はどうしましょう?こういう魔法が欲しいといった希望があればお伺いしますよ」


 と言われたので、香織と俺は店にある魔法具をざっと見回ってみた。しかしどれも高価で、一番安い『風』の魔法具でも2万2000リルだった。


「ちょっと現時点では購入は無理そうだね」


 香織はちょっと顔をしかめて言った。


「今でなくとも、また欲しくなっときに是非きて下さい!」


 俺達に金が無いことが分かっても態度を変えず笑顔で接する店員。ちょっと聞いてみるか。


「なあ店員さん、どうやったら手っ取り早くお金稼げると思う?」


 それを聞いて少し上を向き、


「それでしたら冒険者が断然オススメですねー、店の前の道をずっと行くと冒険者ギルドという寄合所があります」


「異世界の定番だなー」


「え?」


「あ、いや。何でもない」


 思わず口を挟んでしまった、黙って聞いとこ。



「そこで依頼受け達成させ、それに見合った報酬を受け取るというものです。この報酬は普通の職業では得られないぐらい高額なものもあります。腕に自信がお有りでしたら挑戦してみてはどうでしょうか?」


 それを聞いてめちゃくちゃやる気が出てきた。


「冒険者か!いいなーおい。行ってみようぜ!」


 俺はすぐに隣の香織を誘ってギルドに行こうとした。


「ちょっと待ってよ太一」


 どうやら店員に何か聞きたいみたいだ。


「その依頼というのはどの程度の危険度なんですか?」


 そういえば香織は俺と違い特に能力もないし魔法も使えない。慎重になるのも致し方ないか。


「うーん、基本的に報酬に比例するとしか……、私もあちらの店員ではないので詳しくは分かりかねます」


「任しとけ香織!ピンチになったら俺がなんとかしてやる」


 とりあえず香織の背中にポンと手をおいてそう言っておく。


「じゃあ任せるね、よろしく!」


 おーけー、元々そういう約束だからな。



「またくるかもー」


 俺はそう言って親切な店員に別れをつげ、二人で冒険者ギルドへと向かった。



 その途中で武器・防具屋があったので寄ってみた。俺は剣が欲しかったし、香織にはちょっとでも防御力のある装備を買っておこうと思ったのだ。



 ……結果として両者にとって不服な買い物になってしまった。


 それぞれ何を買ったかというと、俺は剣を買うつもりが鉄パイプ。お値段230リル。無骨でカッコ良さは0だ……まあしゃーないか。


 香織は衝撃に強い服を選んだはずなのだが、なぜか魔法少女みたいな格好をしている。値段は4050リル。


 香織が試着室から出てきてしばらくうつむいて顔を赤らめていた。なんとも気恥ずかしそうにしている。


「ねえこれ!ちょっと露出多くない……!?足とか……は、恥ずかしいんだけど……!」


「だってこれが一番物理防御力が高かったんだから、しょうがねえだろ」


 実際香織はその衣装の上から拳で体を強めに叩くと、見えない膜のようなもので弾かれる。しかしゆっくり触る分には普通の服と変わらない。まるで片栗粉のダイダランシー流体のようだ。


 店員に聞くと、魔力によって体内のエネルギーを耐衝撃力に変換できるとかなんとか。


 ま、とにかく準備は整った。あとはギルドへ直行するだけだ!

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