第9話 チート木材加工

 

 ――「お疲れー、はい」


 撮影を終えた香織に麦茶を手渡された。喉が乾いていたので一気に飲み干す。


「ぷはーっ、うめぇー!サンキュー香織」


 完成した小屋を外から眺めながら俺と香織は感慨にふけっていた。


「すごーい。大工さんでもないのにホントに小屋建てちゃったね太一!……私も頑張ろっと」


 頑張るとは動画編集のことだな。


「編集マジで感謝してます!」


 俺は大袈裟に頭を下げた。そして実際心から感謝しているのだった。



 香織は小屋を眺めながらも色々考えているようだった。


「動画のことなんだけど、近いうちにあと2~3本は作れると思う。でも、できれば決まった曜日に週一で出したほうが良いと思うの。だから何個か動画が完成しても一旦ストックとして置いとこうと思う」


「え?編集出来たらすぐにアップしねーの?」


「頻繁に更新してたらすぐネタ切れになるでしょ?」


 なるほど。たしかに小屋なんて建ててしまえば終わりだもんなー。



「それで次の動画を出すまでに間が空きすぎるとyu_tubeからのチャンネル評価が下がるみたい」


「なるほどな。考えてみたら俺、小屋作る以外何すればいいか全然分かんねーわ」


 そう、俺は昔から長期的な計画を立てるのが苦手で思いつきで行動することが多かった。


「畑作りとか電気を引くとかお風呂をつけるとか色々あると思うけど……」


 香織にちょっと呆れたようにそう突っ込まれる。


「あ、確かに!言われるまで気づかなかった。小屋作ることしか考えてなかったわ俺……用は小屋暮らし生活はこんな感じですよーみたいなのを出せば良いんだな?」


「うん、でも視聴者がそれを求めるかどうかは別だから、色々試してウチのチャンネルで何やったら伸びるのかを分析して視聴者のニーズに合ったものを出さないとダメなの。でないと伸びないからね」


 なるほど……。


「だからもし太一本人に人気が出てくるようなら『俺がニートになった理由を話します』みたいなのも良いんじゃない?」


 香織の鋭い分析力に感心した。頼りになるぜ。



「あ、そうだ。香織、ちょっと提案なんだけど――」


「何?」


「この小屋を「俺が住む家」としてyu_tubeに上げるのはキツイと思うんだ。ずっとこのクローゼットが映されることになるし、もし何かの拍子に扉が開いたら――とか俺も気になるし」


「まあ確かに……え、それで?それで?」


 香織はちょっと笑顔になって何かに期待している雰囲気を醸し出した。



「隣にもう一件小屋を建てるんだ!そんで今のこの小屋はyu_tubeでは物置という設定にする。いいだろ?」


 そう言うと香織は目を輝かせてこう言った。


「大賛成!小屋なんてなんぼあってもいいですからねー。動画のネタとしても小屋作りが多分一番伸びると思うしー。あ、でも太一、まだもう一件分の小屋の木材とか買うお金あるの?」


「正直金はない、でも木材の事でちょっと試してみたい事があってさ」


「というと?」


 俺は設置したクローゼットを指差して答えた。


「あっちの世界で木材を調達する!」




 ――俺達はその後、今取り付けたクローゼットを開け、中に入り再び向こうの世界に降り立った。


 さて、ではちょっとした実験も兼ねて木材を獲得しにゆこう。こちらの世界には群馬の山奥と同じような縦長の木が大量に生えている。


「あの辺でいいか。ちょっと離れててくれ」


 俺は香織に注意を促すとジャンプして目当ての木の前に着地した。やっぱりこっちの世界は体が軽いぜ!


「よし」


 最初にまずあの光の輪をイメージする。するとこの前のときと同じような輪が右手から出てきた。


 その環は初めドーナツ状だったが、下にナタのような刃の付いた金属の環を脳内に想像し、その形にさせる。ちょうど王冠のような形状で、下の部分が刃物状になっているものだ。


 それを木の直径ぐらいの大きさに調整し、木のてっぺんまで動かすイメージを頭に描いた。するとその光輪は俺のイメージ通りの動きをして、木の頂上まで到達した。



「はーっ!」


 俺は右手を下ろし一気に下降させた!


 するとザザザザザッ!という音とともに、木材として余計な枝は全て切り落とされる。


「よーし!上手くいったぞ!おっけーおっけー」



 そして自分の足元ぐらいまで降りてきた輪を見て、今度は別の形に変形させる。


 今まで王冠のように縦長にしていた輪を次は横長にして巨大なワッシャーのような形状にし、その内側に日本刀のようなめちゃくちゃ鋭い刃の形を想像する。


 すると輪は俺の想像通りに変形し、さっきより強い輝きを放ち出した。


 そしてそのまま俺は右手をグッと握りその木に光輪を食い込ませた。


 しかし――光輪は木の幹に2~3センチ食い込んだところでそれ以上縮まらなかった。


「くそっ駄目か……」



 俺はちょっとがっかりして後ろに下がっていた香織の方へと戻った。


「んー、いけると思ったんだけどなー太い木の幹は切断出来なかった……」


 香織は一連の俺の動きを見て感心したように言った。


「いやいや十分でしょー。向こうから持ってきて切ろうよ」


 それを聞いて閃いた。


「あ、そっかそれだ!」



 再び俺はさっきの木の前に立つと光の輪を出して、また木のてっぺんから輪を下ろす。


「さっきの切りかけの所に高さを合わせて……」


 今回は輪の内側のイメージを鋭い刃でなくノコギリ状の刃にしてみた。


 これは結構イメージの維持が難しかったがなんとかできた。次にその状態で輪を高速回転させてみる。


 ブウーーーーン、とういう音がしてきた。これはイケるぞ!


 そのまま俺は右手をゆっくり握り、輪を縮めていくと削り取られた木の幹からおがくずが吹きててきた。


「よし、いける!」


 そのまま慎重に輪を縮めてとうとう――ビキッ!パキッ……バキバキバキ……ドザンッ――。



 大きな音と共に木は切断された!



「おおー、凄ーい!!」


 後ろから香織の声がする。


「やったぜ!ふはははは」


 自分の特殊能力に満足する俺だったがこの作業、体はあまり動かしてないのに軽く息切れする程度には疲れる……頭も少しふらつくし。


 なんて考えていたら突然、体が発光しだした!


「!?」


 何だこれ?湯気のようなものも出ている――ああ、もしかしてコレが噂に聞く……。



 しばらくすると俺の体を包んていた光と湯気は消えた。


 ――なんだろう、さっきまでと違いさらに体が軽い!試しにジャンプしてみる。


「うおっ!」


 俺は今までの1.5倍ほど高いところまで飛び上がった。高さは3メートルぐらいだろうか?


 おおおお!これがっ……これがゲーム世界の定番の「レベルアップ」――なのだろうか!?



 香織は光ったり飛び跳ねたりしている俺を不思議そうに見ている。


「あっはっはっは。これ凄い!本当にレベルアップしてるぞ。めちゃくちゃ体が軽いっ!」


 自分の身体能力の向上に興奮していた俺は、一通りはしゃぐように体の動き具合を確かめた後、あの光輪で出来ることも試してみた。


 さっきの光輪をまずは両手に2つ出してみる。フワッ……。



「おお!」



 今までは輪を出すのに約2秒ほど集中しなければならなかったが、今回は0.3秒ほどで出てきた!しかも2つ同時に……。


「と、いうことはもしや……」


 ――そう、3つ目も出せるのでは?と思い早速試してみる。



 ホワワン……!



 出た!今、俺の目の前には3つの光輪が輝いている。よく見ると光量も以前と比べ上がっている気がする。



 ここで、ちょっと試したかったことをやってみよう。


 まず2つの光輪を四角形にし、それらを陸上競技のハードルのように7~8メートルほど離して置き、さっき切り倒した丸太を3つ目の輪を使って持ち上げ、2つの四角形の光輪の上に乗せる。


 そしてまた3つ目を出現させ、その光輪の一部を刀のような刃物状にしてまな板の上の魚を捌くように木を平坦に加工していく。


その時気付いたが、レベルアップ?前とは段違いに切れ味が良くなってた!


 あっという間にいい感じの板材が8枚ほど出来てしまった。これはスゴイ。のこぎり不要だ!うははっ。


「凄いな。これめちゃくちゃ便利だぞ!なあ香織」


「うん!……うん確かに凄い。けどなんで太一ばっかりー……羨ましい――」


 ……まあ気持ちは分かる。


 俺はその時、エノキのあのセリフを思い出していた。



 『魔法屋で買ったら最低でも5万リルはする』



「なあ、またバロル行ってみないか?魔法屋で魔法買ったら香織も使えるようになるかも知れないしさ」

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