第5話 エノキ
――「ねえ、もういいんじゃない?離してあげたら?」
香織は俺にそういった。いやいやいやいや。
今、俺達2人の2~3メートル先にさっきの少女を歩かせている。もちろんあの光輪を軽くハメていつでも拘束できる状態にしてだ。
「ダメだって、コイツ野放しにしたら何してくるかわかんね―もん。俺さっき雷打たれそうになったんだぜ?」
あの雷はまともに食らったら普通に死ぬ、……そんな気がしてならない。遠くから香織も見てたハズだ、ただ直にヤバさを体験したわけではないので呑気なもんだ。
「なあ、ちょっと質問していい?」
その少女に問いかける。聞きたいことは山ほどあるのだ。
眉を釣り上げてその少女は、
「はあー?お前に話すことなんて何もないわ!」
……と即拒否してきた。うーむどうしようか、ちょっと考えてみる。
まず今優先すべきはこの光の輪っかのことだ、これのお陰で俺達はこの少女に攻撃されずにすんでる。
どうやらこれは俺の頭の中のイメージと連動しているらしい。ちょっと試しに締めたり緩めたりしてみよう。
「フギィ――ッ!」
輪を締めると少女が声をあげる。涙目で後ろを振り返り「おぼえてろよ」といわんばかりに睨んでくる。いや、別に俺はそういう趣味はないんだが……。
もう一つの輪を出すことは出来るかやってみよう。左手にもあの光の輪を想像してみる。
すると2秒ぐらい経過した後でフワッと出てきた。
あらためて形容するとデカい光る輪ゴムみたいな感じだ。また、そっちに意識を集中しすぎると、少女にかけている方の輪は細くなり光の密度も下がるようだ。なるほどね。
3つ目は出せるだろうか?今出している2つの輪を維持したままもう1つの輪を想像してみる。すると、ぼんやりとした薄い輪っかが出てきた。
コレは多分使えない、現状で俺が操れる輪は2つまでのようだ。
あとこの輪っか、遠くに移動させればさせるほど徐々に薄く・細くなっていく。なるほど、まあ大体性質は分かったぞ。
香織は俺の光輪を眺めて、感心したように言った。
「へー、こんなこと出来るんだ。これが太一が最初に言ってた『能力』ってやつ?」
「うん、多分な……まあ魔法の一種だと思うぜ」
とりあえずそう考えておこう。
「ちなみに今みたいに魔法使ってて体が疲れたりしないの?」
と香織は聞いてきた。いい質問だな。
「んー、疲れはあんまりないなー。なんていうか自転車や車の運転みたいに慣れたらこうやって話しながらでも輪が出せるんだ」
「ただし輪に意識を集中し続けてないと薄くなって消える」
「へー、面白いね。でもなんで太一だけそんな魔法使えるの?……私は?不公平じゃない?」
香織も手を前にかざし魔法使いっぽい動作をしてみるが何も起こらなかった。
「まあ確かに不公平だな、でもなんでかは俺にも分かんね。まあそのうち出来るようになるよ」
……と適当に合わせておく、しかし確実な魔法の使い方は本当に知らないし、できればこの少女に聞きたいところなんだが……。
「おい、お前ら!」
おっと、そう思ってた矢先に少女はこちらに何やら言いたげな様子だ。
「はい!」
俺も香織も待ってましたとばかりに笑顔で返事をする。
「魔法は勝手に使えるような安っすいもんじゃないんだよ!さっきから聞いてりゃ適当なことばっかり言いやがってホント腹立つー……魔法バカにすんなよ!」
どうやら簡単に魔法が使えると言ったのが気に入らなかったようだ。そして横から香織が聞いた。
「あなたみたいな魔法はどうやったら使えるの?さっきの雷みたいなやつ。私も使ってみたいなー」
それを聞くと少女は急に見下したような腹の立つ顔をして香織を指さしこう言ってきた。
「ハァーッ甘いねー!雷魔法は全属性の中で一番習得難易度が高いんだって!それに魔法屋で買ったら最低でも5万リルはするしー。貴族でもなさそうなアンタみたいなやつが簡単に使えるわけ無いじゃん。残念でした~!お前らホント愚かの極み――」
「おい嘘つくな!」
俺は無表情で光輪を締め上げる。
「ぎえぇえぇぇ!」
「俺は1円も支払ってないぞ。でもこうして魔法使えてるだろ。嘘つくんじゃねえ」
「ぐっ……こ、これは魔法じゃないっ。魔法だったら私解除できるもん!この光る輪っかはお前等
涙目で訴える少女。なんとなく嘘はついてないような気はする。ってか俺達、境界人って呼ばれてんの?
「ふーん、なんかよく分からんけどこの光輪は俺特有の能力なんだな。いいじゃん!」
ちょっと優越感を感じる。ふふ。
「あ、でもコレさっき言ったかな。別に俺らはお前を攻撃したいわけじゃないし、ましてや敵でもない。なあ?」
隣にいる香織に同意を促した。
「うん、それは間違いないよ」
「……」
疑りの視線を向ける少女。このままじゃどうもやりづらい。
もう光の輪は消そう、向こうが何かしてきたらまた出せばいい。
俺は輪が消えるイメージを頭に描くと、その通りにフッ……と消えた
「……!」
束縛を解かれたことで少女の表情は緩んだ。こうして見ると、ごく普通の可愛らしい14~5歳ぐらいの女の子だ。格好は魔法使いというよりやや盗賊っぽいが。
「ところでさー君名前は?」
答えてくれなそうだけど一応ダメ元で聞くと、意外にも少女はちょっと迷ってから名乗ってくれた。
「……エウラリア=ノビレ=キアルージ」
「は?」
俺と香織は顔を見合わせる。
「エウラリアノビレキルアージ……?」
「……長いから、お前『エノキ』な」
「いいんじゃない?」
香織も同調した。
「エノキ?なんか変な感じだなー……まあいいけど」
ちょっと従順になってくれて俺達はホッとした。
おっと、失礼。自己紹介を忘れてたぜ。
「俺は佐々木太一、タイチでいいぜ」
「私は……カオリ。よろしく!」
「タイチとカオリ……ふーん……分かった」
やっぱり人間関係は北風と太陽だなー。
3人ともやや緊張が緩んだところで香織はカバンの中の何かを探し始めた。
「ねえ、皆お腹へってない?」
香織が取り出したのは大きめのおにぎりだった。昨日も食ったけどめちゃめちゃ美味かった。
「おお。飯だ、飯にしよう!」
時間的にもちょうど昼頃でバッチリだ。
「一応太一のカバンから水とコンロとカップ麺も持ってきたから」
それを聞いてマジで神だと思った。
道端の適当な場所にコンロを置いてお湯を沸かし始めると、エノキは驚いていた。
「えっ、何コレ!?凄い……火魔法?いや違う。これが噂に聞く境界人の科学技術ってやつなんだ……へー面白ー!」
正座の状態から猫のように目線を落としコンロの火に向かって独り言を言うエノキ。
でもこの発言からしてこちらの世界の文明は現代より4~500年前ぐらいかな?――と勝手に推測した。
エノキには色々聞きたいけど何から聞こう。金のこと?世界観?なんで俺らを尾行してたか?様々な考えが頭を巡っていた。
その横で香織がエノキに、
「多めに持ってきたからエノキも食べなよ」
と優しく促していた。
とりあえず俺も腹は減ってるし細かい事はいいや、メシだメシ!
――それから3人はおにぎりとカップ麺をすすっていた。
エノキはカップ麺のうまさに感動したらしく目を見開いて獣のようにむさぼっていた。そして食い終わると、
「プハッ、うまーーーい!もっと無いの?ちょうだい!ちょうだい!」
遠慮ねえなコイツ。
でも生まれて初めてカップラーメン食ったら旨すぎて俺も同じ反応するかもしれないな。
「残念ながらもうないの。ごめんね」
香織にそう言われて「う~~~」としょげるエノキ。
俺も食い終わったのでとりあえず聞きたかったことを順番に聞いていくことにする。
「なあ、エノキはなんで俺らの後付けてたんだ?俺達てっきりお前になんか攻撃でもされるのかと思ったぜ?」
「……えーーだって仕事だもん。しょうがないじゃん」
妙にシュンとなってつぶやくエノキ。
「え?お前の職業って探偵?」
とりあえず安直に聞いてみた。
「たんてい……って何?ウチは『境界警備隊』の隊員だけど?」
「……何だそれ?」
「2人が出てきたのが境界。んでそっから出てきたヤツを監視して上に報告したりするのがウチの仕事」
「……ふーん。でも俺達の何を報告するんだ?名前・年齢・住所?」
――どれも全然違う気がする。
「違うよ。そんなんじゃない」
「大事なのは――そいつが危険な存在かどうかってこと」
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