第4話 異世界の洗礼!これが魔法か


 ――異世界に来た俺はとりあえずニコニコしながら出てきた穴を振り返って見ていた。香織の出現を待っているのだ、アイツは絶対来てくれる、そう俺は確信している。


 すると案の定、香織もこちらに来てくれた。


「ちょっとー!どういうつもり!?」


 俺はどう言えば香織を納得させられるか考えを巡らせていたが、いまいち上手く説明出来なそうな予感があった。しかし物は試しだ、とりあえず話そう。


「香織、まず俺はお前に借金がある」


「知ってる」


 香織は即答する。


「――で、なんとか金を稼がなきゃならないけどyu_tubeはその穴のせいで撮影とかが出来ないワケだよな?」


「……まあ」


「んで、俺の知る限りでは――こういう異世界には俺達みたいに人が生活していて。お金が流通してて物の売り買いとかもあるハズなんだ」


「……それ本当なの?どこの情報?」


「まあ色々(アニメ・漫画・小説)だ」


 俺は軽く誤魔化しつつ続ける。


「んで俺が思ったのは、この世界でお金を手に入れてそれを現世にもって帰って稼げないか?ってことだ!」


 香織は眉をひそめた。


「それ、こっちの世界のお金を現代のお金に換金できたらの話でしょ?」


「問題はそこなんだけど、お金じゃなくても何か……例えば野菜とかを買って持ち帰って市場に売るとかでもいい」


「……」


 香織は何か考えてるようだが続ける。


「その前に俺達はこの世界についてまだ全然知らないワケだ。だからここがどういうところなのか知っておく必要があるんだ!」


「……」


「もしかしたらこの穴だって消したり出したり移動させたり出来るかもしれない。だから最初は……なんていうか、こう……色々探索して情報収集しようってことなんだよ!」


 渾身の演説に対し香織は一体どんな反応をするのか?



 ちょっと間をおいて香織は口を開いた。


「なんか色々理由付けてるみたいだけど、ようするに『この世界面白そうだから探検したい』ってことでしょ?」


「お!おお……ま、まあ、それもあるかなー」


 しっかり見抜かれていた――。


 香織はため息を付いて、諦めたように言う。


「アンタの性格上こうなったら私が何言っても聞かないからしゃーない。一緒に行こう」


 おお、流石だ香織さん!もの分かりが良くて助かるぜ!


「ただし何かあったら絶対助けてよね。それだけは約束して」


「おう、まかせろ。確実に守るぞ!」


 拳を目の前に掲げそう宣言した。


「お願いします」


 ちょと目を細めて笑顔になる。やっぱ笑うとかわいいなー、なんて思うのだった。



 香織は例の穴とその奥に生えている巨木を見ながら俺にこう話した。


「穴の場所はこのでっかい木が目印になるから遠くからでもすぐ分かるよね」


 あーそういや帰る時のこと全く考えてなかった笑。その事でちょっと思いつき、俺はスマホを出して構えた。


「一応この風景を撮影しておこう」


 ちなみに撮影は出来るがもちろん圏外だった。


「よし、いくか!」


 テンションも上がったのでその場で全力でジャンプすると、なんと2メートル程の高さまで飛ぶ事が出来たのだ!


「うおおお、コレが異世界かー。あはははは!」


 思わず笑ってしまう。


 香織の方も普段運動するタイプじゃないので、この身軽さが楽しいみたいだった。


「あははっ、なにこれすごーい!」


 とか言って俺を追いかけてきた――。


 この時、俺達は初めてゲームをプレイしたときのような楽しさに包まれていた。


 よーし、出発だ!




 ――しばらくすると俺達はノミのように飛び跳ねるのに飽きて、普通に道を歩いていた。


 穴のあった大木から50メートルほど離れた所に、明らかに人が作ったと思われる幅2メートル程の道があった。


 おそらくこの道を辿っていけばどこかの町や村に着くハズだ。


 それにしてもここは平和そのものだった。今のところはだが、危険な魔獣どころか人間も小動物さえもいなかった。


 やっぱりここ異世界じゃないのでは?という疑いすら出てしまった。しかし――。


 周囲をキョロキョロと見回りながら歩いていた俺が後ろを振り返ったとき、ちょっと離れた巨木の後ろから誰かがこちらを見ていることに気がついた!


「……おい香織、今誰かに見られてるぞ」


 歩きながら隣の香織にそうささやく。


「え?なにそれ……怖い。どこ!?」


 あたりを見回すがどこにいるか分からないようなので場所を示してやる。


「アレ」


 小声でそう言い、今歩いてきた方向にあごを向ける、


「あのデカい木の後ろ」


 よく見ると木の後ろの根本に足のようなものが見える。あと人の頭らしい輪郭も出ている。


「なんだろう?あれって尾行してるつもりなのかな?」


「さ、さあ……どうすんの?太一」


 香織は若干怯えているようだ。だが俺には危機感はほとんど無かった。


「あの下手くそな尾行してるぐらいだしあんまり大したやつじゃないと思うけど。でも、もし俺達に危害を加える気があって機会をうかがってるとかだったらマズイから一応捕まえてみるよ」


「え、大丈夫……?」


「多分な。まあさっきの約束通り危険は取り除くさ。まかしとけ!」


 俺のこの自信はどこから来るのだろうか?と考えたが恐らくこっちの世界の体の軽さが原因な気がしている。まるで自分が強くなったかの様な感覚になっていたのだ。



 早速俺はなるべく足音を立てないよう直径2メートルはあろうかという大木に向かって猫みたいに走っていった。ジャンプ力があるということはそれだけ速く走れるということなのだ!


 尾行していたソイツはこちらの動向を見るためか、木のから体がちょこっとはみ出ているのが見えた。俺はソイツの背後に回ろうと思い、木のに向かって素早く全力で走った。木で相手から見えない位置を取りつつ音を立てずに近づいていく……。


 そして木を軸にぐるっと回り、みごと俺は静かに相手の後ろに立つことに成功した。そしてまだ相手には気づかれていない!よし!


……ん?後ろから見てみるとそれは香織より小さく、きれいに日焼けした少女だった。魔法使いっぽくも盗賊っぽくも見えるな。


 俺はそのまま相手の首筋に腕を回し後ろに引き倒して上半身に覆いかぶさった。するとソイツは、


「ぎゃあぁあぁぁ!」というバカでかい叫び声をあげた。


 俺はその女に柔道の寝技である袈裟固めをかけた。女は必死に暴れているようだが余裕で抑え込めた。というかコイツいくら女とはいえ力無さすぎじゃねーか?



「やっ、やめろーこの私を誰だと思ってんだバカー。はなせー!」


 もちろん離すつもりはない。


「やっぱりお前ら野蛮で危険なヤツだったんだなー!?絶対に許さないからなー」


 ジタバタもがきながらも口は減らないヤツだ。そしてなんか野蛮人扱いを受けてしまった。



「くっそー魔法さえ使えたらお前なんか一撃で倒せるのにー!はなせー」


「え、やっぱ魔法とかあるの!?……でもこの状態じゃ使えないんだな?なら絶対外せね―わ」



 なんかあまりに発言が幼稚で本当に子供かと思ったが、その割に結構女らしい体をしている。


 正直興奮した!



「はあっ……はあっ……私をどうするつもりさ!?」


 しばらくその状態でいると、少女は涙目で観念したように聞いてきた。ちょっと誤解を解く必要があるなこれは。


「あー、あのな、俺達はお前の敵じゃない。ただ聞きたいことがあるだけなんだ」


「う、嘘つけ!じゃあなんで私にこんなことしてんだ?」


「……だってお前、俺達を尾行してたし敵だったら何されるか分かんねーし」


「それに今言ってたけどお前、これ離したら俺に魔法?で攻撃してくんだろ?」


 と言うと、ハッとして急に大人しくなりボソッとつぶやく、


「……しない」


「え?」


「魔法攻撃しない、だから一旦放してよぉ……」


 お、なんか落ち着いてきたようだ、良かった。まあとりあえず信用しよう。このままじゃお互い進展しないしな。


 俺はその女から離れると女はすぐさま起き上がり俺から逃げた。まるで痴漢から逃げる女性のように……。


 そして少女は怪しい笑顔を見せながら何やら唱え始めた。アレ?


 次に魔法陣らしき円陣が女の足元に描かれる。え……魔法!?話が違うくね?


「あっはははー!バカ正直な奴め、よくもやってくれたな!受けた痛みは3倍返しだー!」


 やべっ、どんな魔法か知らんが多分攻撃される。もう一度拘束しないとマズい!


 俺は再び全力で女を押さえに走ったが女の周囲にできた空気圧の壁のようなもので押し返された!くそっ、これも魔法か!?



 気づくと俺の上空に雷雲が発生してゴロゴロと鳴っている。女は俺を見ながら悪そうな笑みを浮かべる。――ああ、やばいやばいやばい!あ、あの雷落とされたら多分死ぬ!なんとかしないと――!



 ……とその時だった。



 俺の手から光の輪のようなものが出現した!!!



 大きさは直径1メートルほど、太さは家庭用ホースぐらいだった。


 その輪は女のいる方へ飛んでいき、まるで輪投げで成功した時のように女の頭上から一気に下降しすぐに収縮した!



「ぎゃあぁあぁぁー」



 女は腹部を両腕と共にその光の輪に締め上げられ、また大声で叫んだ。と同時にさっきまであった魔法陣と雷雲が消え去った。



 とりあえず助かった……のかな?

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