第2話 チャンネル運営で飯を食う
――資金調達後、俺達はホームセンターで資材を購入し、香織んちの軽トラでそれらを運んでいた。
そこで前から気になっていたことを助手席に座っている香織に聞いてみた。
「あのさ、小屋を建てる場所なんだけど、やっぱ土地……ってか山を買わないとダメだよな?」
香織はちょっと微笑んで安心させるようにこう言ってくれた。
「別に大丈夫じゃない?だってこの辺の山ってほとんどウチのおじいちゃんのだし。昔から好きに使っていいって言われてるから」
「マジか!?流石だな、あーよかった!」
土地代のことは考えてなかったので助かったぜ。ふうー……。
しばらく軽トラを走らせると、道路脇から入れそうな山道を発見した。そしてその山道の奥の方を見てみると、木の少ない広めの土地が広がっているのが見えた。
「お!あそこなら小屋も畑も作れそうじゃね?」
道路から軽トラで空き地みたいなスペースへ侵入する。
ガタン!車体は揺れた。
「ちょっと!安全運転してよ!」
と軽く肘でどつかれた。
「お、おう、ごめん」
車を停め、そこから山道を2~30秒程歩き、周囲の土地を確認した。ラッキーな事にこの辺は水平な土地がまあまあな広さで広がっていて樹木も生えていなかった。まるで小屋暮らしのためにあるような土地だった。
早速俺は小屋をどの辺に建てるかという検討を始めた。よーしやったるぜ!
「あのさーちょっといい?」
唐突に後ろから香織の声がした。
「ん?」
「やる気になってるとこに水を差すみたいでアレだけど、借金どうやって返すつもり?働く気無いんでしょ?」
まあ金を貸した側からすれば当然の疑問だな。
待ってましたとばかりに俺は答える。
「よく聞いてくれたな!これだよ」
俺はそう言ってスマホを取り出し自撮り撮影を始めた。
「こんにちはー、えー、今からここに小屋を建てまーす。広さはこの位にするつもりです!」
身振り手振りも加えつつ説明する俺。一旦スマホを下げ「三脚もいるなー」とつぶやいた。
この流れを見て香織は察したようだ。
「……え?もしかして動画配信者目指すの?」
「ああ、小屋作り系yu_tuberだ。やってる人そんなに多くないから伸ばせる気がするんだ!」
こういうジャンルは上手くやれば伸びる。絶対できる!根拠はないがなぜか自信だけは無限にあった。
香織は何か考えるように斜め上を見上げて、
「ふ、ふーん……まあ建築資材はともかく撮影自体はスマホひとつで元手もかからないし、良いんじゃない?」
と、現実的なコイツにしてはなかなかの好反応だ。
「簡単じゃない」とか、「甘くない」とか、色々言われると思ったが……。
「じゃあ三脚もないし、今日は私がカメラマンしてあげる。――どうぞ!」
それどころか意外と乗り気じゃないか?
俺は自分のスマホを香織に渡し、小屋作りの説明を始めた。
「よーし、じゃー早速今から土台部分を作りまーす。部屋の四隅に穴を掘って砂利石を入れて上から束石つかいしを水平に――」
という具合にちょっと声のトーンを高めにして相手に聞こえるように大きい声で話すのが大事だ。
作業中香織にはずっと撮影してもらっていたので、適当に指示を出して休憩してもらった。
そうでもしないと俺は永遠に休むことなく作業を続けてしまうため、自動的に香織もそれに付き合うことになってしまい酷だと思ったからだ。
香織は何もない時はしょっちゅう文句を言うくせに、俺が何かに夢中になってるときには何も言ってこない。
そのへんが分かってるなー素晴らしいなーと思うのである。
――そこから5時間ほど経って土台部分が完成した!見た感じ普通にちゃんとした「床」がそこには出来ていた。
「よし、こんなもんかな!」
俺は完成した土台の上に寝転がって喜びを表現した。
「うおーーー、床が出来たぞーー!いえーーい」
床の合板はがっしりしていて木の匂いも良い。束石もちゃんと地面と固定されていて、ガタついたりせず土台らしくて大満足だった。
横を見ると香織がげっそりした顔で、
「お、おつかれ……」
と言っている。さすがに疲れたようだ。なんか申し訳無さを感じてしまうな。
香織からスマホを手渡され動画を確認する俺。うん、しっかり作業も音も撮れている。
「よーし早速この動画をyu_tubeにアップしてみよう!いや、その前に編集だ」
撮影した動画を見て俺のテンションは一層高まってゆく――かのように思えたのだが。よく考えたら動画を何処かのサイトにアップロードしたことなど一度もなく、yu_tuberとしてほぼ必須だと言われている編集ソフトとやらも使ったことがない。
それを考え出すと頭が痛くなった、だが借金を背負っているのでなんとかせねば……。
ところがここで香織は嬉しい提案をしてくれた。
「ねえ、多分だけど、太一って動画編集とか得意じゃないでしょ?」
「お、その通り!よく分かったな。……まあやったことないけど多分そうだと思う。基本体動かしてなんか作ってんのが好きなんだ、座ってジッとしてて夢中になれるモノなんてRPGとかのゲームぐらいだ」
その性質は昔から変わっていない。
「じゃあ編集、私がやったげようか?」
え!?なんと素晴らしいとこを言ってくれるのだ……神か!もちろん頼んでおく。
「いいのか!?俺としてはスゲー嬉しいけど、ほんとに良いのか?編集とかめっちゃ大変そうなんだが?」
「いいよ、前から動画編集やってみたかったし……。それにチャンネル運営が軌道に乗れば就活のネタになるかもしれないし」
さすがだ、しっかりしておられる。
「香織、今大学3年生だっけ?」
香織はうなずき、
「ただし炎上はしないでね」とだけ忠告してきた。
「おう。まかせろ!」
俺は自分のスマホを一旦香織に預け、小屋作りの次の工程を頭の中でこねくり回していた。
――そして次の日の早朝、また同じ場所に集まった。
あ、香織もなんか暇人っぽく見えるけど大学の単位をほとんど取ってて今は余裕があるとかなんとか。
「はい、これ!」
と嬉しそうにスマホ画面を見せてくる。
―― 『ニート脱出!20代の小屋ぐらし自給自足生活』 ――
俺達のチャンネル名はこれに決定した。
なるほど、これなら俺の年齢、現状、そしてなんのチャンネルか分かりやすい。さすが香織だ。
そして初投稿の動画が限定公開で投稿されていた。これはまだyu_tube上に公開されておらず、URLを知る俺達だけが視聴できる。香織は動画の最終チェックをして欲しいとのことだ。
早速見てみると、初投稿にしてはかなりのハイクオリティーだった。
無駄な部分をしっかりカットし、作業の要点はテロップで分かりやすくし、俺のちょっと聞き取りにくいセリフも字幕でフォローされている。
そしてテンポも良く、穏やかな音楽も流れていて、鑑賞するだけの動画としても悪くないと思った。
「うおおすげえ!完璧じゃん」
「ここを変えてほしいとかある?まだ編集で変えられるからあったら言ってね!」
声が生き生きしている。香織も結構楽しんでるのかも知れんな……。
「全然ない。これでいいぜ」
実際俺がやったらこれより数段クオリティーの低い動画になるのが目に見えたので即オーケーした。
香織はスマホの「公開」をタップし動画はyu_tube上に投稿された。
投稿された動画は動画分析アプリでその情報を見る事ができるらしい。
チャンネル登録者数・再生数・再生時間・インプレッション数・視聴者の年齢層や性別・視聴維持率、等細かく知ることが出来る。
俺達は動画を投稿してから分析アプリをじっと見ていたら30秒ほどしてそれは起こった。
「おお!早速1回再生されたぞー!」
「え!わっ……マジ!?ほんとだー」
「登録者も0人から1人になってる!」
「えー……やった!めっちゃ嬉しいんだけど!」
俺たちはリアルタイムで更新される動画の情報に感激し、しばらく釘付けになっていた。だが次の作業もやっていかないといけない。
俺は香織に撮影を促した。
「なあ、動画は気になると思うけどそろそろ次のヤツ撮影しようぜ」
「あ、うん、そうね。それにしても気になってしょうがない……うーん」
よっぽど気になるのか香織にしては落ち着きが無い。ひょっとして俺よりハマってんじゃねえか?
まあいいや、よし今日は頑張って屋根まで終わらせてやる!俺のテンションは跳ね上がるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます