光の戦士 ~殺人犯と同じチート能力を持ってますが悪用しません~
池田大陸
第1話 無職になったから小屋を建てよう
金がない、一体なぜこんなにもお金がないのか?答えは簡単。無職だからだ。
――三週間ほど前。俺は会社に出勤するとある事に気づいた。
「あれ?机がない……あの、俺の机無くなってますけど?」
「おい佐々木、お前今日から何もしなくていいぞ、机も処分しといた。でも給料は出るってよ、羨ましいなーオイ」
「え……」
「あ、暇だからって俺らの仕事の邪魔はすんなよ?」
「あ、あの……」
「んだよコラ邪魔すんなっつっただろ!どっかその辺でずっと突っ立ってろボケ!」
上司に理不尽にキレられて困惑した俺は誰かに事情を聞こうとするも、皆ササーッと俺を避けていく。
こ、これは……。
それからしばらく何もせず会社で立っているだけというのを二週間ほど続けたところ――。
「ああああああああああああああ!」
会社のトイレで俺のメンタルは無事崩壊した。
次の日、俺は会社に退職届けを出していた。
――そして今では自分の部屋に寝転がり動画を眺める毎日だ。
あー、ホント会社ってクソだなー。
あー、何もやる気起きねー。
完全な無気力状態になっていた俺はもちろん再就職やバイトなどするはずもなかった。
「お前これからどうするんだ?」
家でyu_tubeばかり見ている俺に親父が言ってきた。
「え?どうもしないけど?」
「仕事辞めて求職もしてないんだろ?とりあえずバイトでもいいから家に金を入れろ!」
――という具合に親父とも険悪な状態だった。正直なところ黙々と作業するだけで人間関係を必要としなそうな工場とか清掃員とかをやろうかとも考えた……が、面白みのない仕事というのもダメで長続きしないのだ。
ああ、どこかに金が稼げて人間関係を気にしなくてゲームみたいにワクワクするような仕事。ないかな?……ないんだよな、世の中は俺に厳しすぎる。
コンビニにおいてあった求人広告を眺めてみてどれも無理だなと諦めた帰り道、道端の畑を見て俺はふと思いついた。
そうだ!
仕事せずに畑で何か作って小屋を建てて自給自足の生活をやろう!いわゆる小屋暮らしというヤツだ。
人間相手は苦手だが物を作る作業は何時間やっても飽きない。そんな俺にピッタリじゃないか?
俺は自作の小屋で畑で取れた野菜を食ってのんびりくつろぐ自分の姿を思い浮かべてニヤリと笑った。コレだ!と思った。
そう思うと今までの虚無に満ちた心が燃えて、体から熱が湧き上がってくるのが分かった。うおおおお!
よし!善は急げだ、まず小屋を建てる場所を探す。次に畑ができそうな土地を確保する。そして小屋を建てる材料を買って……そこまで考えて気付いた。
――最初に大金がいるじゃねーか!
早速俺は軍資金を借りるため親に頼んでみた。小屋暮らしがしたいという理由は伏せ、就職活動費として50万円貸してくれと頼んでみたが、まあ当然断られた。
「なんで就活に50万円もかかるんだ!?貸せるわけないだろ!」
当然の反応だ。
だが俺は諦めない、家族がダメなら……そう、アイツだ!一瞬プライドが決断の邪魔をしたが今の俺の勢いを止める事は出来ない!
俺は家族以外の唯一の知り合いである一人の女にスマホアプリで簡潔なメッセージを送った。
「今から家に行くぞ」
その返事を全く待たずに俺が向かった所はここだ。
やたらでかい一軒家に「石田」と書かれた表札がある。その隣のインターホンを押して待つ。
ガチャ……誰かがドアを開けて出てきた。
「よう香織!久しぶりだなー」
香織は高校時代の同級生で、高卒の俺と違い大学に行って今3年生だとか。
「太一……なに急に?」
怪訝な顔をする香織。
「なあ、お前ってすげえ金持ちだろ?俺に100万……いや50万円ほど貸してくれ」
とりあえず絶句している香織に、追い打ちをかける。
「仕事辞めて就職もしたくないから山に小屋建てて畑作って自給自足生活しようと思ってる、だからそのための資金を貸してほしいんだ!大丈夫返すあてはあるから――」
と一気にまくし立てている途中で香織は、「バイバイ……」とドアを閉めようとする。当然の反応だ。
――しかしそこで食い下がらなくては何も始まらない!
「待ってくれ!俺は本気だ。何としても誰にも邪魔されずに山奥で自由に暮らしたいんだ!お前の助けが必要だ。頼む!」
ここで俺がコイツを頼ろうと思ったのは高校時代のとある出来事がきっかけだった。
――高校の文化祭の時。演劇をやることになった俺のクラスは脚本にこだわるあまり、舞台の小道具の製作が大幅に遅れていた。
小道具とはダンボールで作る建物や岩等だ。その時俺は香織に言った。
「こんなもん俺が1日で全部やってやるよ」
その言葉を聞いた香織は唖然として否定した。
「いや、絶対ムリでしょ。クラス皆で頑張っても3日はかかるもん」
しかし俺は、強く答える。
「まかせろ。絶対できる!」
俺は年に2~3回こういうスイッチが入るのだ。この時の俺の勢いは特に凄かったらしい。後から香織に何度も聞かされた。
そこから俺は下校時刻を過ぎても教師に見つからないように身をかわし学校に潜み続け、皆が帰ってから作業に没頭した。
夜間の警備員の見回りも、事前に調べておいた巡回時間に明かりを消すことで乗り切った。
夜が明けて皆が登校してきたころには全ての小道具を完成させることができた。
普段はクラスで疎まれてた俺も、さすがにこの時ばかりはクラスの一部から称賛されたりもした。まあ大半が「勝手なことしやがって――」的な反応ではあったが……それでも俺は感謝されてちょっと嬉しかった。
「見直したよ太一」
と香織にも褒められた。ということは普段は見下していたのか……?
「次になんかやることがあったら私も手伝うから言ってね!」
なるほど、よし、このセリフ覚えておこう。
――というわけで今こそあの言葉を有言実行してもらう時!今の俺はあの時と同じ勢い……いや、それ以上の熱量を帯びている気がした。香織ならなんとかしてくれる!そんな気がする!
「50万とか冗談でしょ!?無理無理!」
現実は非常だ。しかしめげずにいこう。
「じゃあ40万円!見た目にこだわらず雨風しのげるだけの最低限の小屋でいいんだ。頼む!」
香織はジッと俺の目を見ている。整った顔立ちで愛嬌のある可愛らしい顔だ、高校時代は男子にそこそこ人気があったのもうなずける。
あごに手を当て何やら考えた後、香織はちょっと迷う素振りを見せながらこう言った。
「……太一、本当にやる気あるんでしょーね?途中でやめたりしない?」
おおっ。この反応、俺に何か期待している風にも見える!手応えありか!?
「当たり前だろ!俺はやると決めたら絶対やる。とにかく本気だ!」
嘘偽りは全く無い。今のこの俺の熱量が嘘であるはずがない!きっとある種オーラのようなものが出ているような気がした。
「……分かった」
「おお!良いのか!?ありがとう香織!」やったぜ!
「ただし条件があります」
「何?」
「運転免許書と今まで働いてた会社の給料明細をもって明日吾妻川の橋まで来ること」
「??なんだそりゃ?まあいいや、それで本当に40万貸してくれるんだろ?」
「嘘はつかない。じゃ、また明日ね」
ちょっと笑って軽く手を上げて香織はドアを閉めた。
うひょー!!やったー!これで俺もマイホームを持てるぞ―!
気分は最高だった。資金がなんとかなると分かると、小屋をどういう設計にするかを想像し、その材料について考えた。
そして家に帰り小屋作りの方法についてネットで調べまくった。明日が楽しみで眠れなかった。
――そして翌日、朝。香織に指定された場所に着いたとき、俺は嫌な予感がした。
先に到着していた香織は、「じゃ早速カード作ってきて」という。
目の前には大手消費者金融ヘコムの看板のついたATMが目に入る。
おいおいマジか!?さすがに文句を言いたくなった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ香織。これじゃ俺が自分でカード作ってサラ金で金借りるだけじゃねーか!約束が違うぞ?」
「いーや、40万はちゃんと私が貸すから心配しないで。ただ担保がほしいだけだから」
香織はカバンから40万円入っている封筒を見せてくる。
「何?担保て?」
「いいからさっさと作って来て!嫌ならお金は貸さないから。あと利用可能額の上限は40万円にしてね」
ちょっと困ったが早く小屋作りがしたくて俺はヘコムのATMに特攻した。
一番面倒くさい職場への在籍確認が無かったのが幸いし、すぐにカードを作ることができた俺はすぐATMから出てきた。
「おかえり、暗証番号何番?」
早速香織が聞いてくる。
一瞬躊躇したが「◯◯◯◯」と普通に言ってしまった。なんとなく香織に言わなくてはならないという気配があった。
香織はニコニコしながら「素直でいいね!」などと言ってくる。俺は素直に可愛いなコイツ……とか思っていた。
そして同時に香織がしたいこともなんとなく分かった。
「アレだろ、このカードと40万円を交換すんだろ?」
「正解!」
ニコニコしながら香織は続ける。
「今から……んーそうね、半年!」
「半年以内に全額返済されなかったら――私、このカードで未返済分借りるから」
なるほど、少なくともコイツが損することは無いってわけか、しっかりしてんなー。感心感心。
まあ俺がカードを紛失したふりをして作り直せば……なんて考えが一瞬頭を巡ったがもちろん俺はそんなクズ野郎ではない!
「つまり香織、俺は半年は無利子でお前に40万円借りられるってことだな。にしても俺って信用ねーなー」
頭を掻きながらぼやいてみる。
「誤解しないでほしいんだけど」
「ん?」
「私は信用してない人に40万なんて大金貸さない」
「お、おう。それもそうだな」
「それとね……その、なんかもっと単純に……やる気のある人を応援したいっていうか……その……」
なんかもじもじしている香織。その姿が新鮮で可愛らしかった。
「ああ、やる気は十分だ。まかせろ!」
そう言って俺は香織にカードを差し出す。香織もバッグから封筒を取り出しお互いの物を交換した。
――よし、準備は整った。
「香織、良かったら小屋作り手伝ってくんね?」
香織はちょっと微笑み「いいよ」と言ってくれた。
―― 貯金総額 -400000円 ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます