第6話

 炎上効果を狙ったのは正解だった。お蔭でダンジョンを練り歩いていたらと面白い奴と出会った。


 エージェント【風魔】。


 外部からダンジョンを管理する組織の人間だ。前から一度、戦って見たかった奴である。


「よう」


 此方に背を向けていた【風魔】に俺が声を掛けると【風魔】は黒いロングコートを翻しながら此方に振り返る。

 目元はサングラスでわからないし、無表情だが此方に二丁拳銃を構えているので敵と判断したのだろう。


 【風魔】が構えると俺も身構え、例の如く突進する。

 【風魔】が発砲するのが見えた。


 ──先程のように最低限の要領で軌道を読み、迫ろうとすると額に何かが直撃し、俺は大きく仰け反る。

 額を押さえる俺が再度、顔を戻すと【風魔】の靴底が見えた。

 距離にして2、30メートルはあった離れていた筈だが、恐ろしい速度で間合いを詰めて来た。


 鈍い音を立てて脳が揺さぶられた。


「バースト・バレット」


 そんな【風魔】の声を聞いて俺は肝が冷え、反射的に回避行動を取る。

 放たれた弾丸が着弾し、爆発した。

 ダンジョンの影響で人間は魔力を大気から取り入れられるようになっている。

 俺もその影響で自然治癒や身体強化の恩恵を受けているのだが、【風魔】は明らかにその上を行っている。


 久々に良い戦いが出来そうだ。


 俺は再び身構えて再度、突進する。

 今度は視野を強化して弾丸に注意し、再び最低限の動きで避け──ようとしたところで弾丸の死角を縫うように放たれていたもう一つの弾丸に気付く。


 こいつ、俺が避ける事を予想して弾丸を放ってやがる。しかも的確に俺の行動を先読みしやがった。


 俺は更に身体を反らせる事で回避するが体勢が悪い。次弾を回避するのは不可能だろう。


 俺は強引に上空に飛び上がる。


 刹那、ガンと言う音と共に強い衝撃が襲い、俺の身体はくの字に曲がる。

 視線をそちらへ向けるとダンジョンと同化していた迷彩柄の兵士がいた。

 どうやら、いままで気配を消していたらしい。

 俺は無様にダンジョンの壁に叩き付けられ、ドサリと落ちる。


 そんな俺にマガジンを換えながら【風魔】が近付いて来る。

 そして、立ち上がろうとする俺の眉間に銃口を突き付け、引き金を引こうとした。


『ミスター【風魔】。トドメを刺すのは待って貰いたいですネ』


 そんな事を言う奴が現れ、風魔は銃口を下ろし、踵を返して去る。

 そして、入れ違いで『ん~♪ふ~ふ~♪』と鼻歌を歌いながら浮遊するナビゲータータイプのまるっこいロボがそのモノアイを俺に向ける。

 このダンジョンを管理する人工知能【エメリッヒ】だ。

 【エメリッヒ】は俺の生体データを回収──分析してから、こう質問して来る。



『お久し振りです、ミスター・イチノセ。更なる力をご所望されますか?』

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