第7話

 ──ダンジョン最深部に広がる東京都の戦ヶ崎市と呼ばれる場所はそこに存在している。

 戦ヶ崎市が先か、それともダンジョンが先かは未だに解明されていないが、そんな事はどうでも良い。

 この地を訪れる資格があるのは力ある存在のみだ。


『ん~♪ふ~ふ~♪』


 【エメリッヒ】は相変わらず上機嫌に鼻歌を歌っている。


 奴は本当に変わらない。


 俺はそんな事を思いながら寝台で横になる。


『さて。前回、お試しになった魂変換のあとは如何でしでしょうか?』

「悪くはないが、外の世界に出れば退屈な日々の繰り返しだ」

『ミスター【風魔】は他重因子と魔素を克服し、更に鍛練もされている御方です。

 通常の特殊個体が更にハードな鍛練をし、己を追究する。

 私にとっては理解に苦しむ行為ではあります。

 しかし、ミスター【風魔】以上にあなたは素晴らしい判断をされる。これ程、戦う為の素質を持ったあなたが私の技術で更なる高みを追究する・・・これ程、素晴らしい事はない』

「前置きはそれくらいにして今回の実験内容を教えてくれ」


 【エメリッヒ】は『おっと、失礼』と言って説明を再開する。


『今回、試すのは魂の融合。前回の魂の質を戦ヶ崎市レベルまで上昇させ、戦ヶ崎市内の一般的な侍レベルまでステータスを向上させるのとは違い、魂そのものを異世界の魂と融合させるとどうなるかの試みで御座います。

 下手をすれば、人格そのものが崩壊するかも知れませんが、承知されていると私は判断します』

「なんでもいい。いまより強くなるのならな」

『good!』


 【エメリッヒ】はそう言って眼前のモニターでデータ準備を開始する。


「そうだ。この状況を動画で公開したいのだが、構わないか?」

『ふむ。では、ミスター・イチノセのデバイスにアクセスして私が動画を公開しましょう。タイトルは如何しましょうか?』


「そうだなあ。底辺配信者、人間を辞める」


 俺は最後になるかも知れない配信を開始し、その動画の一部始終を公開した。

 無論、超高性能な人工知能の【エメリッヒ】を騙せるとも思っていないし、都合の悪い部分はカットされるだろう。

 しかし、それでも俺は俺である証を残した。


 魂の質を上昇させるのと違い、今回は魂の融合──同化だ。

 ならば、俺自身、別の存在となるだろう。

 それでも、この配信を見る人間が増えるのなら悪魔にも魂を売ろう。


 次に目を覚ました時を楽しみにしつつ、俺は重くなって来た瞼を閉じる。

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