第5話
ダンジョン内での出来事は自己責任になる。
即ち、トラブルがあったとしても賠償責任などにはならない。
だから、裏家業の奴なんかがダンジョンに死体を捨てに来るなんて事もする。
危険な場所だからこそ、利用する奴はとことん利用する。
──さて、なんでこんな話をしたかと言うとヤクザが死体遺棄する現場に居合わせたからだ。
中層エリアまで捨てに来るとはご苦労な事だ。
それ故にこの状況に思わず笑みが漏れる。
先程の配信者とは違い、切った張ったをするヤクザだ。つまり、またとない敵である。
相手が俺に銃を突き付けて来る。
発砲音が響く中、俺は身体を少しずらして飛んで来る弾丸を回避する。
銃は確かに現代文化の戦場に必須アイテムだが、こちとらそんな環境以上の場所で生活しているのだ。弾道を見切るなど造作もない。
俺は身構えるとヤクザ達に向かって突進する。
迫り来る弾丸を見切りながら俺は拳を繰り出そうとする。
刹那、寒気を感じ、俺は緊急停止して素早く後方へと下がる。
その下から光る閃光が走り、俺の前髪を数本持っていかれる。
「兄貴!」
「・・・早くリロードしろ」
兄貴と呼ばれた男は鞘に刀を戻しながら身構え、弟分の銃のリロードを促す。
──これは面白くなって来た。
兄貴と呼ばれるヤクザは居合いの達人だろう。
一対一でも面白い死合いになるが、更には弟分の銃のフォローもある。
普通に殺り合えば、間違いなく死ぬが、このスリルが堪らない。
俺は構え直すと再び突っ込んだ。
今度は兄貴と呼ばれた居合いを使う男が迫って来る。
下手に避ければ、そこに弟分の銃弾が叩き込まれるのだろう。
──で、あるならば、俺の出方はこうだ。
兄貴と呼ばれた男が抜刀するより早く、その腕を掴むと頭突きを喰らわせる。
鈍い音がして兄貴と呼ばれた男が膝から崩れそうになるが、ヤクザとして意地かなんとか踏み留まった。
そんな兄貴分の身体に向かって強引に押し込み、そのまま弟分の元まで迫る。
兄貴分で死角になって弟分は撃つに撃てない。
そんな弟分のヤクザに俺は狙いを定めると兄貴分のヤクザが刀を持つ腕をへし折り、怯んだ隙に刀の柄の先に向かって拳を叩き込む。
叩き込まれた刀の鞘は俺の力に耐えかねてスポンと抜けるとそのまま、弟分の銃へとぶち当たって弾き飛ぶ。
兄貴分って奴を生かしておいた方が面白そうだ。
俺は兄貴分が指を落としながら手放した刀を拾うと完全に戦意を失った弟分のヤクザにゆっくりと近付く。
まずは此方に手を伸ばして赦しを乞う腕を斬り捨てる。
絶叫がダンジョン内に木霊し、弟分のヤクザがなくなった腕を押さえて、うずくまる。
その姿勢は斬首するには持ってこいの姿勢であった。
俺は笑みを浮かべながら刀を振り上げる。
背後から発砲音と衝撃が来たのは次の瞬間であった。
振り返ると兄貴分が指を落とした腕で折れた腕を固定し、そこから硝煙を漂わせながらデリンジャータイプを発砲したらしい。
「・・・見事」
俺はそう言って刀を落とすと銃弾を受けた場所に力を込め、異物である弾丸を取り除く。
「だが、悪いな。その程度の鉛玉じゃあ、ダメージにもならないんだよ」
俺は絶望した顔をする兄貴分のヤクザにニヤリと笑うと再び近付いて、その首を掴む。
「・・・いいだろう。お前達はこのまま帰してやろう。
俺を殺したきゃあ、ショットガンやガトリング砲でも持って来な」
俺はそう告げると兄貴分のヤクザを強引に弟分のヤクザに叩き付け、その場をあとにする。
弟分のヤクザは解らんが、兄貴分のヤクザはまだ仕返しに来る技量があるだろう。
何よりヤクザってのはやったら、やり返す類いの連中だ。
生かしておけば、倍の報復があるだろう。最終的にはバズーカなんかも持って来るかも知れない。
バズーカの砲弾と俺の肉体・・・どちらが上か試すのも悪くないだろう。
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