第2話

「──で、その場のノリで女の子の方も殴り倒したと?」

「そうなる。防具着ていたし、肋骨折れた程度だろ?・・・そんな大事になるとも思わなくてな」

「あのな、防具を着ていて肋骨折れるって事が普通はねえから──てか、同じ冒険配信者をぶっ飛ばして、どうする?」


 病院の自販機の隣で俺は八谷忠哉と喋りながら、缶コーヒーを飲みながら考え込む。

 現在、俺は元有名配信者であった忠哉と共に病院で七海の見舞いに来ていた。

 当然、七海は俺を見て、錯乱していたが、鎮静剤を打たれて安静状態になっている。

 とりあえず、見舞いの理由だった「また強くなったら死合おう」と言う内容をエールとして送ったのだが、七海は涙目で金輪際、ダンジョンには入らないと断言するまでになってしまう。


 ・・・何故だ?


「・・・やっぱり、俺は配信者に向いてないんだろうか?」

「そりゃあ、向いてないだろう。モンスターはあんたの事をビビって避けるし、冒険配信者はこんなんになる訳だしな」

「最近の配信者は軟弱になっちまって手応えないし」

「いや、そこじゃねえよ!──マジで戦闘狂だよな、あんたの頭ん中?」

「そりゃあ、ダンジョンで戦ってなんぼだろ?・・・強者のいない人間同士の戦争は飽きた」


 呆れる忠哉に俺はそう言うと缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に捨てる。


「もう、いっそダンジョンの最深部に住んじまえよ?」

「やりがいのあるモンスターが"また"出たら考えておく」


 ダンジョン最深部のボス・カオスガイアドラゴンとの死闘を最後にダンジョン内で刺激的な事はなくなってしまった。

 まあ、それからモンスターにも避けられるようになっちまってしまったんだが。


「やれやれ。マジでダンジョンのレイドボスにでもなれや。

 レイドボスから見た配信ってのはねえだろうからな」

「・・・それ、面白そうだな」


 忠哉からすれば、冗談の類いなのだろうかも知れないが、良いアイデアだ。


「まあ、俺も京司さんに半殺しにされて引退した身だからな。京司さんがこのまま、どうなって行くかは知っておきたい」

「・・・それはリベンジを楽しみにして良いって事か?」

「でなきゃ、あんたに付き合う理由なんてねえだろう?」


 忠哉はそう言って飲み干した缶コーヒーを捨てると俺の事を見据える。


「あんたは俺から全てを奪った相手だ。それは俺だけじゃない。

 あんたに関わった奴はみんな、あんたを敵視している。その事を忘れるなよ?」


 忠哉はそれだけ言うと手をヒラヒラさせて、その場を去って行く。

 それを見送ってから俺はいつものようにダンジョンへと向かう。


 ──全てが敵か。悪くない響きだ。

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