その底辺虚無配信者、狂戦士の為に注意

陰猫(改)

第1話

 ダンジョンと言う未開のエリアが出き、更にダンジョン配信なるものが出来て早数年。


「・・・はあ」


 俺はため息を吐き、無人のエリアを徘徊する。

 俺も動画配信者になってだいぶ経つが、今日もただダンジョンを歩いて終わる配信に終わってしまった。

 動画配信に向いてないんだろうか、俺?


 今月もダンジョン内はボウズだし、配信を見てくれる人間がいる訳でもない。俺もそろそろ引退して新しい仕事を探した方が良いかも知れないなあ。


 そんな事を考えていると悲鳴が聞こえた。

 風に乗って微かに血の臭いも感じる。

 俺はダッシュでその場へと向かう。


「見付けたあああぁぁーーっっ!!」


 俺の笑みを浮かべて叫ぶ俺を見て、女の子とモンスターが怯む。

 どちらが獲物かなどは関係ない。


 俺は持っていたスマホをしまい、怯えたモンスターへと襲い掛かる。


───


──



『なん、だ。これ?』

『鬼だ』

『誰だ?こいつ?』

『それよりも七海ちゃんは平気なのか?』


 最下層レベルから上層エリアのワーウルフと血で血を洗う男の殴り合いを見て、七海と呼ばれる少女は腰が抜けたまま、その殴り合いを呆然と眺めていた。


 あまりにも壮絶過ぎる原始的な戦い方に七海はただ眺める事しか出来なかった。


「ふははははっ!これだ!こんな戦いを待っていたんだ!」


 愉快そうに自身とワーウルフの血に濡れた状態で男は歓喜するように叫ぶ。

 そして、ワーウルフが爪を振り上げようとした瞬間を見計らい、ダッキングしながら懐に入り、満面の笑みを浮かべる。

 ワーウルフにはそれが死神の鎌にも思えた。


 ──次の瞬間、男のリバーブローが炸裂し、ワーウルフの身体がくの字に折れる。

 リバーブローで身体の浮いたワーウルフに男は右のフルスイングしたフックでワーウルフの頭部を狙う。

 瀬戸物が割れるような乾いた音と共にワーウルフは耳や目から血を出し、そのまま男の力任せの右フックで地面に叩き付けられる。

 ワーウルフがピクリとも動かなくなると男は七海に振り返る。


「──ひっ!?」

「・・・あんた。怪我はないか?」

「あ、はい。大丈夫です。かすり傷程度ですから」


 一瞬、優しい人なのかと思ったが次に発せられた言葉に七海は恐怖する。


「あんたもなかなか、修羅場をくぐってそうだな。他の冒険配信者と死合うのも一興か・・・」

「えっ!?──ちょっ!?」

「さあ、ぶっ倒れるまで楽しもうぜ!!」


 そう言って男は七海に襲い掛かる。


 余談ではあるが、冒険配信者にも様々なタイプがいるが、男の戦い方はどれとも違う。

 ダンジョン内でぶっ倒れるまで闘争を求め、いつしかモンスターすら戦闘を避けるダンジョンのレイドボス扱いにされる程の男である。


 男──一ノ瀬京司は今日も今日とてダンジョン内で本能の赴くままにダンジョンを練り歩いていた。

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