快晴と風船とコバヤシ

ニルニル

快晴と風船とコバヤシ

晴れていると、思い出す記憶がある。



「無茶だ! いくらヘリウムより軽い水素を詰めた風船でだって……」


俺の親友が怒っている。そりゃあそうだろう、俺がやろうとしていたことは、とてもじゃないが誰も賛成できることじゃない。

俺は風船で空を飛ぼうとしたのだ。


「無鉄砲すぎる……! 理由は、理由はなんだ!」


俺はうっそりと笑った。


「……空飛ぶピ〇チュウを、見ちまったからさ……」

「なに……!? 空飛ぶピカチュ〇だと……!?」

「あの愛らしいふわもちイエローボディに風船を括り付け、青空を飛ぶ彼を見ちまったら、もうこの気持ちは止められない」

「くッ……なるほど、世の幼稚園および小学生男女が夢見るふわふわ風船フライハイ、あれに魅入られてしまったということか……!」


親友が頭を抱えて身もだえる。しかし、やつはすぐに目に強い光を宿した。


「わかった。ふうせんピカ〇ュウを見てのことなら、僕にだってその熱い思いはわかる!」

「わかってくれるか親友!」

「ああ、わかるさ親友!」


俺たちはがっしりと熱い握手を交わした。


「こんなこともあろうかと、コバヤシにも来てもらっている! コバヤシー! 準備はいいかー!」

「いつでもいいでふよー!!」


このいつもの元気な声! 俺たちはコバヤシの方を振り向く! すると、『水素! 取扱注意!!』と書かれたボンベと大量の膨らませる前の風船の束を持った巨大な丸い肉塊、コバヤシが待ち構えていた!


「コバヤシ、頼んだ!」

「任せるでふよ!」


親友とコバヤシがやり取りをする。すると―――! コバヤシは水素ボンベに口をつけ、ぷーっと頬を膨らませる! そのまま膨らむ前の風船に口をつけ、ぷぉーッと風を送り込んだ!


「な……! 人力であの大量の風船を……!!」

「任せるでふよー!」


息継ぎの間に、コバヤシが答える。親友は俺に向かってウインクをした。


「それだけじゃないぞ! ホラ!」


親友が取り出したのは、パラシュートなどを取り付けるハーネスだった。そのままカチャカチャと俺の体にハーネスを取り付けてくれる。そして、ハーネスには大量の輪っかが取り付けられており……


「コバヤシ―! 準備はいいかー!」

「いつでも準備できてるでふよー!」


カチャチャチャチャチャッ!

大量の風船をあっという間に膨らませきったコバヤシが、目にも止まらない速度でその風船たちを俺のハーネスに取り付ける!


「ありがとう、親友、コバヤシ! よし、これで空を飛べるぞ!」


俺は親友とコバヤシに心から感謝し、すぐ近くにあった崖―――今行われた全ての作業はこの崖の近くで行われていた―――から飛び出した!


「いけえええ!」

「頑張るでふよー!」


二人の応援を背に受けて、俺は晴れ渡った空に身を躍らせる―――!


「すごい! すごいぞ! 飛んでる!!」


俺は親友とコバヤシを振り向く。親友は大きくうなずき、コバヤシは両手をグーにしてまん丸な肉体からガッツポーズをくれた!


「どんどん高くなってるぞ!」

「すごいでふよー! 見上げるほど高いでふー!」


二人の言う通りだった。俺はどんどん高度を上げ、空に昇って行った。

まるでイカロス……!! 俺は近づいてくる太陽に手を伸ばした。

と、その時!

ジリッ、ジリリ……

まばゆい太陽の輝きに、風船がなにやら音を立て始めた!


「まっ、まさかーっ……!」


遠くから親友の声が聞こえる!


「太陽に近づきすぎてーっ……! その恒星のアツさによって、風船の中の水素が爆発しようとしているのかーっ……!?」


俺の親友は遠くからでも冴えている。しかし、ということは―――!?

ジリリリ……、プツッ……

それは風船の中の水素が、限界を迎える音のように聞こえた。俺は上を振り仰ぐ。すると間髪入れず、

バグオオオオオンッッ!!!

水素の詰まった風船が、巨大な爆弾と化して破裂する音が聞こえた!

落下する―――! 母さん、父さん、妹、親友、そしてコバヤシ―――! 走馬灯の中のコバヤシが、なぜか大きく近づいてきて―――その巨大な腹と胸が、間近に迫り……

バイーンッ! どさっ

気づけば、落下していた俺はコバヤシの豊満な腹と胸にバイーンとはじき返され、俺は事なきを得ていた。親友は「そうか!」と気づく。


「コバヤシの腹と胸が、トランポリンの要領でお前を受け止め、その弾力でバイーンと跳ねさせることで、落下時の衝撃を相殺したんだ!」


俺の親友は頭がいい。

こうして晴れたある日のこと、俺のふうせんピ〇チュウ未遂事件は終わった……。



けれどその思い出を、俺は思い出のまま終わらせたりはしない。


「コバヤシー! 準備はいいかー!」

「いつでもいいでふよー!!」


振り返れば、親友が『ヘリウム注意!』と書かれたボンベを持ち、そしてコバヤシのふくよかな手には前回の十倍の量の風船が掴まれていた。

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快晴と風船とコバヤシ ニルニル @nil-nil

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