第32話
<あらすじ>
訪れた二人をもてなす、くさむら農家の娘、
しかし野菜の準備には時間がかかるため、三人は待合室に移動する。
始めは緑子に警戒心を抱いていた千鶴も、アニメに通して意気投合。
二人は、仲の良い姉妹の様に絆を深めていく
しかし事件は起こった。
アニメのキャラの解釈違いにより、千鶴と緑子の間でカップリング論争が起こったのだ
巻き込まれた幸喜は、身の危険を感じ逃亡。
命からがら部屋の外に逃げることに成功する。
そして、部屋の外で緑子の父親に遭遇。
突然のことに驚きつつも、幸喜は野菜を受け取ることに成功。
あとは帰るだけになった。
部屋の様子を伺いながら、部屋の中に入る幸喜。
しかし先ほどまで言い争っていた千鶴と緑子の二人は、何事もなかったかのようにアニメを見ているのであった。
1
「さようなら、緑子さん!」
「ごきげんよう、千鶴様!」
『まだアニメを見る』と駄々をこねた千鶴を引きずってやってきた、草村宅の玄関。
千鶴と緑子は、元気よく別れの挨拶をしていた。
どちらも何でもない風を装っているが、お互い目には涙を浮かべて手を振っている
今生の別れでもあるまいに、何が二人を突き動かすのか……
何を考えているのか全く分からない。
「ほら、いつまでやってるんだ。
早く帰るぞ!」
考える事を放棄した俺は、無理矢理千鶴を引っ張る。
千鶴は不満そうな顔をするが、それは無視。
そのまま敷地の外へ引きずって歩く。
根気強く説得し千鶴をやっとここまで連れてきたというのに、気が変わっては時間をかけた意味がない
面倒ごとはとっとと終わらせるに限る
それに時間はもう十二時前。
もう昼だぞ!
家で飯を食いたいんだ!
緑子の家族が昼食に誘ってくれたが、俺は丁重にお断りした
昼食後、千鶴が『アニメを見る』と言いだすのは想像に難くないからだ。
そのまま晩飯まで厄介になるのは、さすがに避けたい。
それにしても、野菜を取りに来ただけだっていうのに、めちゃくちゃ疲れた。
今回はこの程度で済んけど、次回来た時は一体どうなつてしまうのか?
次も緑子が張り切ると思うと、今から気が重い。
正直もう来たくないけど、そういう訳にも行かないだろう。
なんだかんだで母親に言い包められて、また来る羽目になるんだろうなえ……
まだまだ先の話だというのに、すでに面倒くさい気持ちでいっぱいだ。
どうにかして、面倒ごとを回避する名案はないものか……
そうだ!
次に野菜を貰う時は、千鶴一人で来てもらおう
一回来たし近場だし、次は一人で来れるはず。
いくら千鶴が子供っぽいと言っても、お使い位はできるはず。
俺は家でのんびり出来るし、千鶴はアニメを見れる。
緑子も、仲間と気兼ねなくオタクトーク。
きっと楽しんでもらえるだろう
誰もが幸せになるハッピープラン。
次の機会までに、うまく乗せる作戦を考えないとな。
皆の幸せのために。
俺はそう心に誓うのであった
2
草村宅が小さくなっても、千鶴はずっと手を振り続けていた。
『疲れないのか?』と聞きたかったけど、聞くのも野暮だろうと思い、黙って見守ることにした。
そして曲がり角を曲がり、家が見えなくなったところでようやく千鶴は手を下ろす。
「楽しかったですね」
満面の笑みで俺に笑いかける千鶴。
俺の苦労も知らずにと思いつつも、俺は「そうだな」と言って返す。
楽しそうにしている人間に対して『楽しくなかった』と言うほど、俺は無粋な人間ではない。
それに疲労感のほうが大きいとはいえ、なんだかんだ楽しかったのも事実。
でもこそは次は平和に過ごしたい
「でもアニメの続きが気になってしまいます。
この先どうなってしまうんでしょう?」
「気になるのか?」
「かなり気になるヒキで終わったので……
うう、気になって夜眠れないかも」
『夜眠れないかも』という千鶴の言葉に、急に変な汗が出始める。
数日前、千鶴は寝不足になって体調を崩した(第13話 寝不足の朝 参照)。
その時は俺の心臓が止まるほど焦った他のを覚えている。
さすがにあの経験は二度はゴメンだ。
比喩とは思うけど、可能性は極力潰したい。
「原作貸してやるよ。
そうすれば眠れるだろ」
『先が気になったら、原作を読む』。
原作付きアニメのメリットである。
これを読めば、先が気になって寝れないという事は無い。
結構刊行されているし、当分は大丈夫だろう。
……読むのに熱中して、徹夜でもしなければだが。
こいつ前科あるからな
後でよく言っておこう。
ちなみに緑子も普通に持ってるし、設定資料やグッズとかも持ってるが、それは口に出さない。
戻るのが面倒なのもあるが、このまま戻ってアニメを見ると言い出す可能性大だから。
聞かれない限り、いや、聞かれてもしらばっくれる事にする。
「じゃあ、早く帰りましょう!
早く読みたいです」
「おい、引っ張るなよ!」
千鶴は善は急げと、俺の手を引っ張っていく。
だが、そこまでしなくても家はすぐそこ。
と言うか見えている。
原作が待ち切れないからだろうが、張り切り過ぎだ。
という訳で、走り出し当て10秒足らずで、愛しき我が家に到着。
半日くらいしか離れていないのに、とても家が懐かしい。
やっぱり自分の家が一番落ち着く。
緑子の相手で、気の休まる暇がなかったからな。
そして俺が感傷に浸っている横で、千鶴はふーふーと息を切らせていた。
あれだけで息が切れるだと……?
以前、冗談で運動部で鍛えろとか言った事があるが、本当に鍛えた方がいいかもしれない。
真剣に考えておこう。
「幸喜さん!」
急に名前を呼ばれたので、一瞬体が跳ね上がる。
考え事をしていたので、驚いてしまった。
「どうした千鶴。
もしかして忘れ物か?」
千鶴は黙って首を振る。
「また一緒に行きましょうね」
まるで拒否されることを全く考えていない、純粋な笑顔。
だが残念ながら、俺は行く気が無い
俺は今日の騒動を思い出しつつ口を開く
「そうだな」
『次は一人で言ってくれ』
本当はそう言いたかったけど、出てきたのは違う言葉。
あのくさむら農家に行くのは気が重いけど、そんないい笑顔で言われちゃ断ることが出来ない
「約束ですよ!」
千鶴は輝いていた笑顔をさらに輝かせる。
もうこれで、『やっぱ行かない』って言えなくなったな。
次に行ったとき、緑子は何をして俺たちを引っ掻き回すのだろうか……
きっと俺が無駄に追い詰められるんだろうな……
だけど、千鶴の嬉しそうな顔を見て思う。
コイツが笑うなら、少しくらい緑子の玩具になってもいいかもな……
「まあ、何とかなるだろ」
俺は、千鶴に聞こえないように独り言を呟きつつ、我が家の玄関に入るのであった。
千羽鶴の恩返し~捨てられそうになった千羽鶴を持って帰ったら、可愛い婚約者ができました~ ハクセキレイ @hakusekirei13
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