第24話 乙女の戦略

 <前回のあらすじ>

 幸喜こうきは一週間ぶりの一人の時間を満喫していた。

 いつも一緒にいる千鶴が、一人で本を読みたいと言ったからだ。


 千鶴ちづるの前では読めない漫画を読んで、休日を堪能する幸喜。

 満ち足りたかの様に思えた幸喜だったが、何かが足りないと感じてしまう。

 足りないもの、それは千鶴の存在である。

 幸喜は、千鶴が日常の一部となっていた事に気づくのだった。



          1


 朝から読み進めていた漫画を最終巻まで読み切る。

 まさか、最終回であんなことになるとはな!

 読み終わった後、俺はこれまでにない充足感に包まれていた。

 楽しい時間はあっという間。

 なんとなく腹が寂しいと思いつつ、スマホの時計を見る。 

 時計の針は12時30分表示していた。

 12時30分!?


 今日の昼は自分が料理当番である。

 つまり当番をすっぽかしたことに……

 先ほどまであった充足感が綺麗に吹き飛ぶ

 

 俺は膝の上にあるクマのぬいぐるみを脇によけ、部屋を出る。

 台所に行こうとして、ふと千鶴の部屋の前で止まる。

 そういえば、千鶴から昼飯の催促が無いということは、向こうも気づいていないのかもしれない。

 まだ昼ご飯が出来ていないことを言っておくべきか?

 少し逡巡したが、結局言うことにした。

 ホウレンソウ大事。

 ちょっと気まずい思いに駆られながら、千鶴の部屋の扉をノックしたのだった。



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「千鶴、少しいいか?」

「こ、幸喜さん。覗いては駄目です」

 扉越しに、千鶴の慌てた声が聞こえる。

「覗かないから、落ち着け」

 一瞬の静寂の後――

「……覗いては駄目です」

 なぜか不機嫌になった。


「なんで覗かないんですか?」

 千鶴は不機嫌さを隠そうともせず、俺を糾弾し始めた。

 解せぬ。

「千鶴が覗くなって言っただろ」

「確かにそうなんですけど……」

 正論を返すと、千鶴の勢いは弱まった。


「……おかしいですね。人は覗くなと言われれば覗きたくなるものじゃ……」

 なんか千鶴が不思議なことを言ってる。

 もしかして『押すなよ』的な話?


「千鶴は、俺に覗いて欲しいのか?」

「はい」

 直球で聞いたら直球で返ってきた。

「こういうのって、普通誤魔化さない?」

「あっ、覗いてほしくないです」

 意味わからなすぎて、頭がおかしくなりそう。


「覗いたら何が起こるんだ?」

 頭に浮かんだ疑問を口にする。

「……何もありません」

 先ほどとは違い、今度は言うつもりはないらしい。

 失敗を活かしたことは、賞賛に値しよう。

 だが、そのはぐらかし方は何かあると言っているようなものだ。

 そして十中八九碌ながらみの理由かもという不安が頭をよぎる。

 嫌な予感がしつつ、カマをかけてみることにした。


「もしかして、に何か吹き込まれたのか」

「えっ!あわわ、そんあことないです

 あかねちゃんは関係ありません」

日高ひだかとは言ってないぞ」

「あっ、ああー」

 隠し事が下手糞すぎる。

 これで日高が、千鶴の裏にいることを確定した。

 おのれ日高、俺をまだ揶揄からかい足りないのか。

 

「千鶴、悪い事は言わない。

 お前には隠し事は無理だ」

「うう」

 落ち込んでいるのが手に取るようにわかる。

 諦めたのか千鶴は話し始めた。


「……茜ちゃんに言われたんです。

 『なんか意味深な感じを出して、着替えしているところを覗かせて、責任を取らせちゃえ』って」

「……千鶴、前から言っているが日高の言うことは聞くな」

 あいつ、マジでろくなこと教えないな。

 本気で千鶴の交友関係を考えないといけない時が来ているのかもしれない。


「ところで責任を取るって、具体的には?」

「結婚――はまだ出来ないので婚約――はしてますね。

 ……どうしましょう?」

 あまりの計画性の無さに唖然とする。

 そこ、一番大事なとこじゃないのか。


「お話ししましたよ、幸喜さん。

 あとは幸喜さんが覗くだけです。さあ!」

 まだ計画は諦めてないらしい。

 そのガッツは大したものだが、この流れで本気で覗くと思ってるのか?

 まったく、コントのノリツッコミみたいに俺が覗くわけ――


「幸喜さん、今の私は下着姿なんですよ。清楚な下着、好きですよね」

 変なことを考えていたせいで、一瞬反応が遅れた

 今なんて言った?



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