第25話 甘い誘惑
<前回のあらすじ>
昼ご飯の用意が出来ていないことを、
だが千鶴は責任と言う名の既成事実を作ろうと、幸喜に部屋を覗かせることを試みるも、すぐに真意を見抜かれ部屋を覗くことは無かった。
だが、それでも諦めない千鶴は言い放った。
「幸喜さん、今の私は下着姿なんですよ。清楚な下着、好きですよね」
1
「幸喜さん、やっと覗いてくれたんですね」
扉を開けた先で、千鶴が優しく微笑んでいた。
彼女は言葉通り、白い下着だけを身にまとい、肌を露出させていた。
普段服を着ている時には見ることが出来ない白い肌は、どこか神秘的な雰囲気を
「綺麗だ」
思わず口から言葉がこぼれ、それを聞いた千鶴の頬が赤く染まる。
「幸喜さん、責任取ってくれますか?」
「責任?」
「はい。幸喜さんが覗いてしまったので、責任を取ってもらわないと……」
『責任』と言う言葉に頭をガツンと殴られる。
そうだ、覗いてしまったからには責任を取らないと……
「どうすればいい?」
「そうですね。じゃあ、この下着を脱がしてもらってもいいですか?」
「え?でも、似合ってるよ」
「ふふ。気づかないふりですか?
それとも私から言わせたいだけ?」
「それは……」
千鶴の指摘に言葉が詰まる。
考えていることはお見通しらしい。
「別にいいですよ、幸喜さん。責任さえ取ってもらえれば、私はそれで……」
「……」
俺は千鶴の言葉に応えず、部屋の中に入る。
千鶴は何かを期待するような顔で、こちらを見ていた。
そんな千鶴を見ながら、俺は責任を取るために彼女の下着に手を掛け――
2
「あああああー」
「幸喜さん!?」
恥ずかしさのあまり、目の前の壁に頭を打ち付ける。
気付けば、千鶴の部屋の前。
どうやら妄想の世界から戻ってこれたらしい。
描写が具体的だったのは、さっきまで読んでいた漫画のせいだろう。
危ないところだった。
「あの、幸喜さん大丈夫ですか?」
千鶴が心配そうな声をかけてくる。
「ごめん、足が滑って壁にぶつかった」
「滑って?でもそんな感じでは――」
「滑ったんだ」
「でも……んー」
あまり突っ込まれたくないため、ごり押して誤魔化す。
千鶴は納得できない様子だったが、気にしないことにしたらしい。
「コホン」と咳ばらいをして、再び話し始めた。
「もう一度言います。
今、私は下着姿です。
どうです、幸喜さん?覗きたくなってきませんか?」
ゴクリ、と思わずつばを飲み込む。
さっきの妄想の中の千鶴を思い出す。
俺も年頃の男の子だ。
正直な話、女の子の下着姿は見たい。
だけど『こういうのは段階を踏んでから』だ。
自分でもビビっているとか、キモイとか思わないでもない。
けれど突然の展開に何一つ心の準備が出来ていないのも事実。
覚悟も度胸も何も持ち合わせていない。
「幸喜さん、どうしましたか?
扉にカギはかかってませんよ」
だが俺とは逆に、千鶴は覚悟が決まっているらしい。
千鶴が俺を逃がすまいと、言葉を重ねてくる。
このままじゃじり貧。
なんとか事態を打開すべく、俺からも打って出る。
「いいや、違うな。オレの好きなのは黒い妖艶な奴だ」
とりあえず意味のない嘘をついてみる。
千鶴には俺の趣味がバレバレなのだが、
「へえ、そうなんですか」
しかし、どこか余裕気に応える千鶴。
予想外の反応に戸惑う。
てっきり、『誤魔化しても、こういうのが好きな事、知っていますよ』みたいなことを言うと思ったんだが……
「安心してください。幸喜さん。黒い下着もありますよ。
そうだ、今着替えますね」
と扉の向こうから
え、もしかして着替えているのか!?
「ふふ、さあ、幸喜さん。今私は妖艶な――かは分かりませんが黒い下着をつけています。幸喜さんの好きな、ね」
千鶴が
俺は千鶴の返しに開いた口がふさがらなかった。
妖艶、かもしれない黒い下着をつけているだって!?
先ほどの妄想の中の千鶴の黒い下着バージョン……
案外悪くない――
いかん!
頭を振って思考を切り替える。
先ほどから、どうにもこちらの分が悪い。
話の流れを変えよう。
「へえ、それにしても、知らなかったな。千鶴、そんな下着を持っていたなんてな」
これセクハラでは?という疑問は頭の隅に押しやる。
「この前、お母様にやり方を教えてもらって、密林?で買ったものです」
千鶴はセクハラの可能性に気づかなかったのか、普通に俺の質問に答える。
うわ、親に知られているのかよ……
聞かなきゃよかった……
「ふふふ、迷っているんですか?
でも大丈夫。
だって私たちは婚約者同志。
すでに責任を取っていると言っても過言ではありません。
さあ、過ちを犯すのです」
千鶴はさらに畳みかけてくる。
落ち込んでいる俺は、一瞬納得しそうになるが正気に戻る。
展開の速さに頭が追い付かない。
このままでは、気づけば『覗いていた』みたいな状況もありうる。
さすがになんとなくで責任(?)を取らされるのは避けたい……
一体どうすればいいんだ。
3
こちらの旗色が悪い。
今までの千鶴では考えられないような勢いで、俺はいつになく押されていた。
千鶴らしからぬ発言の数々に、調子が狂って仕方がない。
いったい何が千鶴をあそこまで変えて――
ん?
千鶴らしくない?
もしかして……
頭にちらつくのは
あいつがまた何かを吹き込んで……
いやこの感覚は、多分電話かメッセージかなんかでリアルタイムでやりとりをしてる。
母が千鶴に『高校生の必需品』と言っていつの間にか持たせていたが、そのことが俺を苦しめるとは……
だが、事態がよくなるわけじゃないが、頭は少し冷えた。
『下着で誘惑してくる千鶴』という、ありえない存在にアタフタした俺だが、原因さえわかれば冷静になれる。
だからと言っていい考えがあるわけじゃない。
それでも目の前の事で手一杯だったが視界が少し広くなり、気が楽になった。
ここからの打開策、なにかないだろうか
千鶴にこちらの思惑を悟られないよう気を付けつつ、打開策を考える。
その時
『逆に考えるんだ』
俺の中にネットでよく見る名言が頭に響く。
元ネタは知らないけど、たしかにいい考えだ。
つまり――
『逆に考えるんだ。
覗いちゃってもいいさ』と。
……却下。
それを回避するために悩んでいるのに。
だが『逆に』というのはいい発想だ。
逆に……
そうだ、逆に千鶴に扉を開けてもらうのはどうか?
俺は思わずニヤリと笑ってしまう。
コレで行こう。
向こうが飛び付きそうなアイディアならある。
思いつきなので、うまくいく確証はないがやらないよりましだ。
この状態を打破するため、俺は反撃に打って出るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます